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112 噂

遅くなりました。続きです。

侍女達が運んできた紅茶と茶菓子で一息つくと、先程までの重々しい雰囲気は無くなり随分と話し方が軽くなった。


「エミルちゃんの瞳を知りたいのは、とある噂の真偽を確かめるためなの」

「噂?」

「そうよ、最近になってから各国で持ち切りのやつ」


俺達が魔の国に来てから数日経つが、俺に関係するような噂話は一度も耳にしていない。それは武器祭りで大勢が行き交う場所ですら変わらなかった。それなのに各国で持ち切りの噂?


「それは本当に私が関係している? 町では聞いた事がないけど」

「噂は国の上層部だけに広がっているのよ。そしてエミルちゃんはその噂の()()()よ、物の見事にね。だからこの目で確かめたいの」

「当事者……」


グレイス殿下がそう判断を下す程に、噂とやらは俺の詳細を的確に伝えているのだろう。恐らく()()俺の姿でも該当するような性格までも伝わっているのかもしれない。けれど一番厄介なのは噂が広がっている場所だ。グレイス殿下の言葉が真実なら……嫌な想像しか出来ない。


「確かめて、どうするの?」


俺の瞳の魔石は貴族や有力者からしたら、喉から手が出るぐらい欲しいモノだろう。それこそ一人の少女の人生を潰すことすら厭わない程に。これが私欲を貪るだけの個人では無く、国と言う巨大な組織を統べる王族なら尚更だ。聞いたところで答えなんて分かりきっている。


けれど、グレイス殿下は斜め上の答えを返してきた。


「私と弟が覚悟を決めるためよ。私は未来の妹を、弟はお嫁さんを守るための、ね」

「……意味分かんない」


グレイス殿下が何を考えているかさっぱり分からない。出会ったばかりで交わした言葉も少ないのに、どうしてそのような答えになる? その言葉の裏には一体何が隠れているんだ。


「んふふ、理解出来なくてもいいわ。だって私達が勝手にしていることだもの。でも一つだけ理解して欲しいのは、私達はエミルちゃん()の味方だってことだけよ」

「信用出来ない」

「信用はこれから勝ち取るわ。と言っても最初があれだから説得力はないけれどね。それにもしエミルちゃんが本当に嫌なら、噂の瞳については言及しないと誓うわ」

「だったら――」

「私の話はこれまで、後は弟に任せるわ」


あぁ、もう。グレイス殿下が言っていることが無茶苦茶で、単純に俺を揶揄っているだけにしか思えなくなってきた。もうなるようになるさ。


「あ……」

「んぐ、これ私のだから」


言いたいことだけ言って上機嫌に茶菓子に手を伸ばすグレイス殿下に腹が立った俺は、ささやかな仕返しをする。俺を散々悶々とさせておいてから自分だけゆっくりティータイムとかさせないから。


「では、俺様からは一つだけ」


グレイス殿下と身体強化を使った無駄にレベルの高いお菓子の取り合いをしていると、横に座っていたグラン殿下は徐に立ち上がったかと思うと急に跪き、流れるような動作で俺の右手を握り甲にキスを落とし言う。


「この祭りが終わるまでの間、姫の時間を全て俺様にくれ」

「いや」

「ふむ、確かに全部は欲張りか。ならば一日の半分でどうだ?」

「いや」

「むむ、なら――」

「いや」

「まだ何も言ってないぞ姫」

「私は暇じゃないの」


これ以上殿下達に付き合っていたら俺の身が持たない。それに王族であっても現国王でもないのだから、他の人が黙っていなさそうだし、派閥争いとかに巻き込まれたら目も当てられない。


「そうか。ならば俺様も手伝おう。姫のためなら俺様が便宜を図ってやろうではないか」

「余計に時間かかりそうだから、いや」


正直に言って殿下達に手伝って貰えたらかなり楽だ。色々と物入りだから金銭的に助かるし、有益な情報も手に入ると思う。でも、それを相殺するような面倒ごとが付いてきそうでいやだ。


「む、どういうことだ?」

「心配しなくても大丈夫よ。私達はエミルちゃんが想像しているような王族ではないし、横槍を入れるような命知らずはいないわ」


命知らずって……確かにグレイス殿下達は強いけどさ、王族がそれでいいのかよ。


「弟のことはこき使って良いわよ。姉ちゃんが許す」

「俺様はこう見えても有能だぞ」

「……はぁ。もう任せる」


こうして俺は半ば強引に厄介な姉弟に押し切られるのであった。



唐突に秋が来た気がします。

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