111 見定め
更新が滞って申し訳ないです。続きです。
「あの、とは?」
恐らくだけどグレイス殿下は法の国襲撃事件と関連した何かを聞いているのだと思う。道化の救済者の名が他国に知れ渡る事になった事件でもあるし、俺が連れ去られた事件でもあるから。
「二年前に起きた法の国襲撃事件で唯一、誘拐された少女は貴女で間違いはない?」
やはり二年前の出来事だったか。とりあえずここは正直に答えておこう。
「間違いない、です」
「即答ね。では、それを証明するものはあるかしら?」
んー、グレイス殿下は何を確かめたいんだ? 王族とあろう者が詳細不詳の人間を部屋に招く訳が無いし、そもそもエミル・シュヴァルツァーとして連れて来たのはそっちだろうに。俺の討魔者登録証から勝手に調べて、名前から何まで色々と知っているんじゃないのか?
……いや、違うか。知っているからこそこの場で、自分達の目で確かめたい何かがあるのか。
「何を見せれば良いの、ですか?」
「聡い子は好きよ。そうね、例えば貴女の瞳、とか」
「――ッ! やっぱり」
予感はしていたが、それでも驚く。瞳の秘密は数少ない人にしか話していないのに、どうしてグレイス殿下が知っている? 法の国でもそうだったが、各国の王族は何処から情報を得ているのだろう。
「うふふ、初めて動揺したわね」
「……それが本当の理由?」
「さぁ、どうかしらね」
嬉しそうにしているグレイス殿下の考えは読めないが、この問答で俺を試している事ぐらいは察する。それが嫁候補としてなのか、それともまた別の事に対してかまでは分かんないけど……一方的に主導権を握られ続けるのって好きじゃないんだよね。
「む? それは俺様にとっては些事だぞ姫」
「いやいやグラン殿下、些事じゃないでしょ、些事じゃ」
「男共は黙って……それで見せてくれるかしら?」
「拒否権は?」
「もしそれを了承しかねるのならば、お姉さんは対応を変えざるを得ない、とだけ言っておくわ」
それは姉としての立場では無く、王族として対応すると言っているのか。でも、それが脅しになると思っているなら大間違いだ。俺は簡単に屈するようなやわな女では無い。
「見せない」
「あら、聞いていた以上に強情ね。ならば王族を謀った罪と、不敬罪で処しましょうかしら」
そっちが理不尽を通すというなら、俺も理不尽をもって相対しよう。
「やってみろ。城を壊してでも逃げてやる」
「あらあら、生意気ね」
肌に感じるグレイス殿下の魔力が次第に高まっていくが、それは俺の警鐘を鳴らすまでには至らない。この場にいる三人が全力を尽くしたところで、龍一体分にすら届きはしないのだから。
「姉様と引け劣らないとは、やはり俺様が惚れただけはあるな。もう良いだろう? 姉様」
「はいはい、ちょっと落ち着きましょうね。おじさんの胃が痛くなってきちゃったから」
俺も対抗して魔力を練り上げようとしたところで、放置されていた男達が介入してくる。グラン殿下はグレイス殿下に確認を取るように視線を向け、騎士は物騒なことに俺に槍を向けて。
「……はぁ、お茶貰えるかしら」
少しの沈黙があってから深く息を吐きだし魔力を霧散させたグレイス殿下は、俺に椅子に座るようにとジェスチャーを送ってくる。全然嬉しくはないけど、どうやら俺は殿下の御眼鏡に適ったらしい。
「エミルちゃんも紅茶で良い?」
「あ、お構いなく」
そう言って俺は近く椅子に座るとアイテムボックスから飲み物を取り出し、ついでに露店で買った焼き菓子をテーブルに置く。それを見た騎士は小さく笑いながら槍をしまい、代わりに取り出した呼び鈴で侍女を呼ぶ。
「用心深いのね」
「毒はもう懲り懲りだから」
「それは残念ね。あ、一つ貰うね」
「姉様、それは俺様も食したが美味だったぞ」
「……」
なんで二人共俺の隣に座り直す。おい、しれっと俺の焼き菓子を食うな、それ地味に高かったんだぞ。
「じゃ、仕切り直しといきましょうか、エミルちゃん」




