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109 濃い

続きです。

「うむ、俺様の求めていた姫に間違いないな。この威圧感は本物だ」


突然部屋に入ってきた大男は物ともせず、寧ろ威圧を受けて何故か嬉しそうにしていた。俺はいきなり現れた変人に困惑していると、説明をしようとしていた女性も壁際にいた二人の女性も変人の登場が予想外だったようで、開いた口が塞がらないといった様子で固まってしまっていた。


その様子を見た俺は何だか毒気を抜かれしまい、威圧するのを止めた。それにさっきからを凝視してくる男が気持ち悪いし。本当に誰だよこの変態は……


「それにしても、あの時は一撃は素晴らしかった。細腕にも関わらず、重く鋭い掌打には感心したぞ」

「……あ」


他人の反応などを全く気にした様子もなく、独りでに話しかけてきた男の言葉を聞いて俺はある事を思い出す。初対面の筋骨隆々な巨漢からの求婚を力業で断った、そうそう忘れはしない衝撃的な出来事を。そう思うと俺が殴った男と声が似ている気がしてきた。


「こらこら、殿下。お嬢ちゃんの部屋に、いきなり押しかけてはダメでしょうが」


そう言って新しく部屋の中に入ってきたのは、身に覚えのある騎士だった。俺は再び威圧してやろうかとしたが、若干呆れたように大男を窘める騎士が殿下と呼んだことで、固まった。


なるほどなるほど、この変人が殿下か……これ詰んだ気がする。


「姫が目覚めたと聞いて、居ても立っても居られなくてな。許せ」

「いや、おじさんに言っても意味ないでしょう。謝罪する相手が違いますよ、殿下」

「あぁ、すまぬな姫」

「……」


先程から俺を姫と呼ぶ殿下に対して知らなかったとは言え、かなり不味い事を仕出かした。ちょっぴり驚いたからといって、一国の王子を殴って気絶させたとか洒落にならない。もしかして、俺をここに連れて来た本当の理由はこれか?


「姫?」

「あ、うん。ごめんなさい」

「うん? なぜ姫が謝罪をする?」

「それは、その……殴ったことに?」

「はっはっは! あれは、俺様が逸ったのが悪かったのだ。姫が気に病む必要はないぞ」


不敬を笑って許してくれた? のにはとりあえず一安心だけど、それだとあの騎士が言っていたお嫁さん探しが真実味を帯びてくる。でも俺がしたことは殿下に打撃を与えただけで、お嫁さんに選ばれるような要因はこれっぽちも無いはずだ。


そう考えるとまだ隠している他の目的があるのかもしれない。


「はいはい、会話するのは後程で。早くここを立ち去らないと、王女殿下が――」

「あれれ? 乙女の部屋に、どうして男が混ざっているの?」


思索に耽っていると、いつの間にか鈴を転がすような声と共に可愛らしいくない存在感を放つ女性が扉の前に立っていた。その女性は体格は俺と同じぐらいで殿下よりも頭二つ分程小さいのに、存在感は殿下にも負けていなかった。


「おぉ、ちょうどいいところにだな姉様。紹介しよう、こちらが俺様が見初めたエミルだ!」

「うんうん、とっても愛らしいわ。やっと素敵な人を見つけたのね」

「だろう? それに姉様以上の強者だぞ」

「ふぅん、それは楽しみね」


この際俺を置いてけぼりにして、状況が動き始めるのはもう気にしない。今は下手に質問したら藪蛇な気がするし。それよりも殿下は話し相手の女性が強い怒りを露にしているのに気付いていないのか? 壁際に立っている人とか可哀想なぐらい足を震わせているのに。


「それで、どうして()()()は乙女の部屋にいるの? 見た感じそのエミルちゃんが呼び出した訳でもなさそうなのに」


いつ気付くのだろうとベッド上に寝ころびながら観察していると、女性が殿下を名指しをしたことで漸く気付いたみたいだ。面白いぐらいに動揺している。


「そ、それはだな」

「まさか寝込みを襲って、既成事実でも作ろうしたわけ?」

「ち、違うぞ! 俺様は目覚めた姫に会いたくて……」

「会いたくて、勝手に入ったと?」

「……」

「表に出な」


黙ってしまった殿下に女性はドスのきいた声でそう言うと、最後に周りの人に発破をかけて殿下を連れて部屋を後にした。


どうやら王族は胸焼けしそうなまでに濃い面子のようだ。


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