108 王子様
続きです。
「拝顔を賜り、恐悦至極に存じます。私は――」
格式張った挨拶から始まり、世辞を述べては媚び諂う。それを俺様は冷めた目で見ながら、早く終わってくれと祈る。顔には出さないように気を付けてはいるが、相も変わらず代わり映えのしない面会に、いい加減嫌気がさしてきた。
今日で三日目となる俺様の花嫁探しは、未だに進展がなかった。それは俺様の理想を満たす女性がいないことに起因している。
俺様がこれまでに美しいと思った女性は二人だけ、それは自身の母様と双子の姉様に対してだけだった。身内贔屓だと思われても仕方がないが、実際に今まで出会った女性の中で俺様の視線を奪う程の者はいなかった。
だからこそ成人を迎えたこの日、どうぞ嫁にと送られてきた女性達の中に一人ぐらいはいるのではないかと、多少の期待した。他国から選りすぐりの女性達と聞けば尚更だった。
けれどその期待は時間が経つに連れてどんどんと落胆に変わっていった。面会する女性の誰も彼もが俺様の顔色を疑い、自国の利益のために機嫌を取る。
その上辺だけの肯定や同調をしている女性達は、俺様にとっての美しさと真逆に位置しているために、鼻について仕様がなかった。
俺様は女傑が好きだ。芯が強く、男にすら引け劣らない志を持った女性が堪らなく好きなのだ。そこにもし武勇や知力までも合わさっているなら筆舌に尽くしがたい程に良い。ちょっとやそっとで靡かない女性の方が男が燃えるというものである。
これは他人に何を言われても妥協するつもりは無かった。
そうして大きな理想を抱いたまま四日目を迎え、変化の無い挨拶に辟易した俺様は気分転換をしようと王城を抜け出し、市街をうろついている時に運命の人に出会った。
◇
王城内に数多くある客室の中で、何故か一室だけ異様な雰囲気を漂わせていた。その部屋の入口には見るからに屈強な男性国騎士が二人も立ち並び、中には二人の侍女に加えて一人の女性国騎士が部屋の主を警護、もとい監視をしていた。
他の客室に比べて明らかに厳重な守りの上に、配属された人材が全て優秀な事から、事情を知らない人が見たらどこぞの王族が来訪されたのだと驚くことだろう。
天蓋付きの大きなベッドで静かに眠る部屋の主は、そんなことになってるとは露程知らないが。
警護もさることだが客室も普通のレベルでは無かった。
キングサイズのベッドに大量の化粧品が詰まったドレッサー、クローゼットの中には下着からどこで必要になるかも分からない多種多様な服が鎮座しており、部屋の至る所に奢侈品が存在していた。
見る人が見れば目を見張る程の逸品ばかりで、贅の限りを尽くす部屋は客室と安易に片付けて良いものでは無かった。
「ん……ここは……」
息遣いと微かな衣擦れの音しか聞こえなかった物静かな部屋に、可愛らしい女性の声が通る。それを確認した国騎士は素早く外の同僚に知らせ、侍女は起き上がった女性を見て息をのむ。
それはカーテンの隙間から入る淡い光に照らされ、純白の髪が輝き幻想的な美しさを醸し出していたのに見惚れたのもあるが、それよりも魔の国最強の騎士から知らされた情報が真実だったことにある。
女性が意識を取り戻してからというもの、鳥肌が止まらない。肌をさすように伝わる威圧感は、武の心得の有無に関わらずこの場にいる全員が萎縮してしまう。
「おはようございます。エミル・シュヴァルツァー様」
一番早く復帰した国騎士は冷や汗をかきながらも、躊躇わずに声をかける。
「……説明して」
「ハッ、ご説明致しますので何卒矛を収めて頂きたい。侍女が怯えてしまいます」
「それは無理」
「失礼いたしました。では――」
女性から発せられる言葉は淡々としているのに、私は不機嫌だと主張するように威圧感が増す。国騎士はこれはいけないと慌てて説明に入ろうとするが、それを遮るようにして部屋の扉が勢い良く開かれる。
「俺様の眠り姫が目覚めたそうだな」




