105 三人娘
続きです。
地図に記載された採石場では屈強な男達がツルハシを片手に、一生懸命に地面や壁を掘っていた。その多くは今の祭りの最中に一稼ぎをしようと企んだ者達で、時間が限られるためかカツン、カツンと響く甲高い音以外は何も聞こえてこない。
けれど、少し前からやって来た人物達のせいで男達の作業は遅れていた。 チラチラと男達が手を止めて視線を向ける先には、その原因である女性達が姦しく会話をしている。
「おっ、それは高く売れる奴っすよ!」
「やった! これで宿泊代ぐらい?」
「まだまだ足りないよ、リン。私たちが泊まる宿って、すっごく高いんだから。それだと一日分にも届かないかも」
「えぇ~、じゃあ後どのぐらい掘ればいいの?」
「うーん、沢山だね」
力仕事で女性が好んで受ける依頼でも無いのに、採石場の一角には五人の女性が作業していた。男達はその物珍しさとそれぞれの特徴的な美しさが相まって、ついつい目が奪われていた。
だがその中の数人は他とは異なり、一人の女性をまるで化け物とでも思っているかのような、ひきつった顔で凝視していた。
「んで、さっきから気になっているっすけど、ユミルは何をやろうとしているっすか?」
「気にしないで」
「いやいや、超気にするっす!」
そのユミルと呼ばれた女性は、傍から見ると両手を地面につけ、しゃがんでいる様にしか見えない。けれど、ルルを含めた数人は、ユミルから伝わってくる魔力に慄いていた。
だが、見られている当の本人は全く違う事を考えていた。これが終わったら何を食べようかと。
時は少し遡る。
俺達は討魔ギルドで悪目立ちをしていた三人娘の隙を見て逃げるように首都から出て、目的地に向かって舗装された道を歩いていた。
「ステラだって、人のこと言えないじゃん」
「リンだって」
「まあまあ、皆んな同じっすよ」
「ルルも悪いからね!」
「ルルもよ!」
「ウチは後悔してないっす」
はずなのに、何故か俺達の直ぐ後ろから三人の言い争いが聞こえてる。どうやら俺達は無駄にハイスペックな変人に、目をつけられてしまったようだ。
最初から尾行されているのは分かっていた。でも、手出しされなければ放置するつもりだったのに、首都を出てからというもの姿を隠す気が一切無かった。そして挙句の果てに、こっちを気にしてと言わんばかりに俺達の様子をうかがいながら、茶番を繰り広げていた。
もう正直言って、めちゃくちゃ鬱陶しい。
いっそのこと問答無用でまとめて排除したいところだけれど、妹の手本になると決めた手前、理由も聞かずに行動するのは示しがつかない。だから、嫌でも話しかけることにした。
「何で、ついてくる」
「おっ、やっと話しかけてくれた。えーと、何でって、目的地が同じなわけじゃん? だから、一緒に行こうかなぁって」
「尾行までして?」
「うっ……それはほら、女の子が二人だけで行こうしていたから、ちょっと心配になっちゃって。だってあの、お姉さん達のランクが、その……」
軽く魔力を開放して威圧しながら話しを聞けば、ステラと呼ばれるエルフの女性がギルドで依頼の受付をしている時に、偶然にも隣で同じ依頼を受けていたランクの低い俺が気になった事が、きっかけになったらしい。
そして実際についてくる気になったのは、自分達の誘いを無視して女の子二人で依頼先に向かったのが目に余ったからだそう。
「最初は、ただ可愛いだけのお馬鹿さんかと思ったっす。でも、違ったみたいっすね」
猫人のルルは俺をじっと見つめながらそう言う。
「だね~、反応を見るに、私達の尾行にも気付いていたみたいだし。人は見かけによらないってね」
結局三人が話した内容が嘘か真実かは判断がつかなかった。けれど、犬人であるリンを含めた三人が、少なくとも俺達に危害を加える気はないことは分かった。
「ならもう、ついてこな――」
「そこで提案があります」
俺が言い切る前にステラが強引に言葉を被せてくる。
「私達に雇われませんか?」




