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104 姫と騎士

続きです。

エミル達が亜人達三人に出会った時を同じく、一人で行動していたブランもまた、とある人物と対峙していた。


「貴女とまさかこんな所で出会うとは、思っても見なかったわ」

「御成婚、おめでとうございます」

「あら、第一声から頓珍漢な事を言うのね。まだ婚約すら結んでいないのよ」

「遠くない未来に、貴女様ならそうなっているだろうと思いまして、先にご挨拶をと」

「簡単に未来を決めるものではないわ。貴女の飼い主は一体どんな躾をしたのかしら? 見てみたいものだわ」

「我らが主人は多忙を極めておりますので、御訪問の際には事前に連絡を入れて下さい」

「ふん、どうせ貴女の飼い主は無視を決め込むから無意味。時間の無駄よ」


外は熱気とは対照的に二人がいるテーブルとベッドだけが簡素に置いてある部屋は、凍てついていた。


椅子に腰掛けテーブルに用意されていた紅茶を飲みながら、立ったままのブランと棘のある会話に応じるのは、武の国から魔の国の王子の婚約者にと抜擢された第三王女であるマリティモ殿下、其の人だった。


そしてそれを証明するようによく見ると部屋の調度品は全て、高級品で揃えられていた。


「それで、本題は何かしら?」


マリティモが挨拶はこれまでと話しを先に切り出す。すると先程までとは一変して、ブランの表情は真剣なものになった。


「エミル様の情報が、各国に流れています」

「……出処は?」

「不明ですが、恐らくは道化の救済者かと思われます」


そこまで聞いたマリティモは一度ティーカップを置いて、僅かな時間思考に耽る。


「奴ら、エミルちゃんを取り逃がした?」


マリティモの返答にブランは小さく首肯ながら、本題を切り出す。


「可能性は大いにあります。それで、マリティモ殿下には自身の立場が不利にならない程度に、他国に探りを入れてほしいのです」


エミル・シュヴァルツァーと言う存在が国もたらす利益は、一個人としては破格だ。結晶化した瞳の魔石は使い道が多岐にわたり需要が尽きる事は無く、戦力としても申し分ない。そして道化の救済者に対してのカードの一つとしても使える。そんな情報を得れば、欲する国が間違いなく出てくるだろう。


けれど、同時に道化の救済者の標的にされるリスクを孕んでいるので、実際に行動に出れるのは精々大国ぐらいだと推測したブランは、こうして直接マリティモに頼みにきたのだ。


「なるほどね、要件は理解したわ。だけど、それは私にとってどのような利益があるのかしら?」

「利益、ですか……」

「まさか友人だからと言って、無償で手伝えというのかしら? この第三王女である私に」


最初から断るつもりは微塵も無いのに、マリティモは敢えてブランに意地悪な質問をする。それは正道から外れてしまった友人に対する、ささやかな仕返しだった。


ブランは思ってもみなかった返答に表情が微かに曇るが即座に片膝をつき、にべもなく返答する。


「求めるならば名声を、欲するならば富を。貴女様が、望むものを献上しましょう」

「つまらない答えね」

「不服でしょうか?」

「……まぁ、いいわ。引き受けましょう」

「ありがとうございます。では、何かあればこちらにご連絡を」


専用の魔道具を渡した所で、話しはこれまでだとブランは部屋を後にする。残されたマリティモはすっかり冷めてしまった紅茶に口をつけながら、短く息を吐く。


「全く、部下の手綱すら満足に握れていないなんて、情けないと思わない?」

「もし仮に、獣人の彼女にあのような命令を出していたのなら、もう奴を友とは呼べない」

「手厳しいのね。でも、私も同意見だわ」


マリティモの問いかけに返事をするのは、今まで黙って壁の一部と化していた彼女の護衛であるファルスだった。


「本当に、引き受けても良かったのか? 今の()()にそんな余裕は無いように俺は見えるのだが」

「心配してくれてありがとう。けれど、これは私の務めよ」

「……俺はマリが幸せならばそれでいい」

「そう、ならこれからも守ってね。私の騎士様(ナイト)

「仰せの通りに、私のお姫様(マイ・プリンセス)


熱中症対策は忘れずに

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