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103 首都シュタール

続きです。

魔境からずっと南に位置する所に、俺達が現在滞在している魔の国はあった。妹が龍から強引に聞き出したことだったので半信半疑でしかなかったが、どうやら嘘では無かったらしい。


何しろ俺には龍がグルルと唸っているようにしか聞こえなかったからな。


「人混みは嫌い」

「僕も、嫌いだよ」


首都に着いてからどこに行っても人だらけで辟易(へきえき)した俺と、同じ様に返事を返す()は異国から召喚されたと言う勇者、カガミ・タイヨウ。ひょんな事から一緒に旅を共にすることになった変人だ。


「それにこの視線も、ね」


俺達はこれからの旅に向けて資金や物資の調達を理由に態々人が沢山いる首都まで出向いてきたわけだが、想像以上に面倒事が多かった。


祭りが開催されているおかげか浮き立った連中が多く、下心を隠そうしない男達の誘いに始まり、果てには初対面でいきなり婚姻を迫ってくる馬鹿までいる始末。そしてその度に妹が反応して、無意識に手が出そうになるのを必死になって止めていた。穏便に済めばいいが、ここに来るまでの道中で散々やらかしてきたのを見てきたので、楽観視する事が出来なかった。


今までは俺が表に出ている間は何もしてこなかったのに、妹は俺が不快感を感じるとその原因を排除しようとするようになった。それはきっと俺がまた暗闇の中に引きこもるのを嫌っての事だと思う。


妹の成長が嬉しい反面、俺がこの身体の持ち主ではないことを証明されているようで、複雑な気持ちになる。


「確かに……でも、それは仕方ないよ。だってエミルさんだから」

「どういう意味」

「さあね」


何が面白いのか隣を歩く男は、ポニーテールを揺らながら静かに笑う。旅に出てから早くも数ヶ月は経っているのだが、未だにこの男が分からない。


「そこの可愛いお嬢さん達、俺等と一緒に遊ばない? 金はこっちが持つからさ」

「すいません。私たち用事があるので」

「いいじゃん、俺等こう見えてもBランクだぜ。今なら何でも、好きなもの買ってあげるからさぁ」

「結構ですので!」


俺の事情を知っているタイヨウが代わりに誘いを断って逃げる、それがパターン化されつつあった。けれど、やはり昔に比べると異性からの欲望満ち溢れるアプローチが増えた気がする。


それは成長した俺の姿が男達に魅力的に見えている証拠だと思いたいが、正直言って嬉しくは無い。だって俺はたった一人に意識して欲しくて成長したのだから。


「はぁ、やっぱりエミルさんも変装したら?」

「私だけのせいじゃない、半分はタイヨウのせい」

「何で? 僕は関係ないでしょ?」

「狙われているの、私とタイヨウと半々だよ」

「えぇ、まさか」


こいつ今の自分の姿を分かってないのか。


「自分の姿を忘れたの?」

「忘れてはないけど……」


俺より少しだけ身長の高い()()()()()()()()の姿のタイヨウは自分の顔や胸をぺたぺたと触り、不思議そうにしていた。多分、馴染みが無いから理解出来ないのだろうけど、今のタイヨウはとても無防備に見える。


一応タイヨウも警戒はしているのだが、それは異性に対してのものではない。だからなのか、通りすがりの男に偶然を装って身体に触られた回数はもう両手で数え切れない。


しかも、触られた本人は事故だと思っている節がある。


「そもそも、何で女性?」


クロマメの擬態は完璧で触ったとしても違和感を持つことはない。恐らく魔法の気配に敏感な人でも中々見破るのは難しいだろう。だから、擬態するにしても性別までも変える必要は無いはずだけど。


「いや、だって誤解されたら不味いでしょ?」

「誤解?」

「エミルさんの思い人にさ」

「……何それ」


ずるい。そんなこと言われたら、何も言えないじゃないか。


まさかタイヨウがそんな理由で変装していたとはつゆ知らず、何だか背中がむず痒い。そして思わぬ事によって動揺させられてしまったのが何だか癪で、誤魔化すために足早に目的地の討魔ギルドに向かう。


「あ、ちょっと待ってよ」

「待たない」


不意打ちは卑怯だ。




「こちらが詳しい地図になります。現在大変人が込み合ってますので、揉め事にはお気を付けください」


人でごった返す討魔ギルドで待つこと数時間、やっと鉱山の場所を示す地図と採掘権を購入することが出来た。俺のお小遣いを全額使ってしまったので、大量にあった鉱石採掘の依頼をいくつか受けておくのも忘れない。


「これで準備完了」

「本当にそれで稼げるんだよね?」

「その時はその時」

「不安になること言わないでよ」

「そこのお姉さん達、もし今から採掘に行くなら、私たちと一緒に行きませんか?」


タイヨウと話していると聞き飽きた誘いがかかる。またかとうんざりしたが、今回の相手は男ではなかった。


「うちらもお金がピンチなんで仲間っすね」

「ルルが全部使っちゃうから」

「そう言うステラも人の事言えないでしょ」

「リンだって同じのくせに」


ギャーギャーと俺達を置いてけぼりに言い争っている変人達に、タイヨウと顔を見合わせて二人同時に大きく溜息をつくのだった。


クーラーをかけたまま寝て、風邪を引かないようにしましょう。(経験者は語る)

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