100 それぞれの歩み
続きです。
「それで、タイヨウはこれからどうするの?」
「僕は……どうしよう」
食事も済んだところでこれからの方針を一応タイヨウに聞いてみると、なんとも言えない返事が返ってくる。もっと他に無いのかと一瞬思ったけれど、タイヨウの境遇が真実ならば無理もなかった。
国によって一度でも指名手配をされてしまったら、例えそれが冤罪であっても罪になる。その国が間違いだったと認め取り消さない限り、いくら無実を証明しても意味が無い。
それに話しを聞いた限りだと、天の国が取り消す可能性は限りなく低い。何故なら、勇者を使って政治を進めようとしている国が、その中に犯罪者と疑わしい人物を入れるわけがないから。
多分、他国に知られると厄介だと手を打たれた結果が、今のタイヨウだろうと推測出来る。確かにそんな状況では、どうしようもない。
人の事言えないけど、タイヨウって人間社会で生きるの大分詰んでいる気がする。
「エミルさんは、どうするの?」
タイヨウは話題をそらすために俺に質問を返してくるが、生憎と俺は既に決めている。
「私は旅に出る」
「良かったら目的も聞いてもいい?」
「自分探しの旅、かな」
恋は盲目と言うけど、ジークから離れていたこの二年間で、今まで俺は色々なものを見落としていた事に気付いた。
そもそも俺と言う存在は、妹から生み出されたものでは無い可能性。俺もジークと同じように転生者である可能性。
冷静になって考えてみると、俺自身が自分の事を勝手に決めつけて碌に理解しようとしていなかった。だけど、今は周りを見らずにひたすら走っていた時とは違う。俺は、俺を探す旅に出ようと思う。
「……エミルさんも変わってるね」
「一緒にしないで」
「ごめんなさい……でも、何だか羨ましいな」
「きっと、タイヨウが想像しているような旅にはならないよ」
だって本当は自分探しの旅なんて、妹の道を正すための時間稼ぎでしかなのだから。
「そっか。出発日は、もう決まってるの?」
「何日か使って身体の調子を整えから、出発するつもり。だから、それまでに考えておいた方がいい」
タイヨウが何を選択するのかは分からないけど、旅に出るまでは面倒ぐらいみてやろう。
「そうするよ。だからさ、そろそろ黒豆を召喚してもいい?」
「……私のいないところでなら」
クロマメは苦手だ。
◇
日も落ちて大通りには夜の娯楽を求めて人が溢れているのに、ひっそりと建てられた小さな酒場は外の喧騒が噓のように静寂が漂っていた。
店の中は狭くカウンター席しかないこじんまりとしたもので客も殆どおらず、一人しかいない客は酒の入ったグラスをチビチビと傾けながら、妙に落ち着かない様子の店員と思われる男と話していた。
「あぁ~、本当にあいつら何時になったらくるのかね。まったく、時間はとっくに過ぎてるっつうのに、俺の呼び出しだからってか? 折角、白狼様が直々に来てくれてるっつうのによぉ」
「貴方の教育不足ですね」
「面目ねえ」
ストレートな嫌味を言われた男は冷や汗をかきながら、落ち着こうと葉巻を咥えて火をつけようとしたタイミングで、漸く店の扉を開く音が聞こえる。そうして男の胃痛の原因を作った三人の女が中に入ってきた。
「ちょっと、部屋の中で葉巻はやめてよ。臭いから」
「そうっすよ。私たちは鼻が敏感なんすから」
「てか、一般人いるじゃん。今日って貸切じゃなかった?」
入ってきた女達は三者三葉の装いをしてはいるが全員が亜人種であった。
「おい、てめぇら。他に言う事は無いのか」
男は怒りで手に持っていた葉巻を握り潰し三人に食ってかかろうとするが、その前に白狼と呼ばれた人物が言葉を発する。
「初めまして皆さん、私の名前はブラン。銀狼の傭兵団では白狼と呼ばれています」




