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99 最初の変化

続きです。

「ぷはぁ、はぁ。いきなりキ、キスするなんて、もしかして僕のこと――ぶへぇ!」

「違う」


身体の主導権を変わって貰った俺は、とりあえず目の前にいる男を殴っておく。妹のせいとは言え、こんな男とキスをしたのは屈辱だ。初めてはジークにあげようと思っていたのに、全く本当に意地悪な事をしてくれたよ。


まぁ、本当の初めてなんてとうの昔に失ってるけどね。


「タイヨウ?! 大丈夫?」

「う、うん。HPが少し減ったけど、大丈夫だよ」


壁に吹っ飛んでいく程の強さで殴ったから失神ぐらいすると思ったのに、意外と頑丈な奴め。


「初めまして、私は姉のエミル。よろしく、カガミタイヨウ」

「はぁ、姉?」

「さっきのは妹が暴走しただけだから」

「妹? え、もしかして――」

「妹が暴走しただけだから」

「あ、うん」


不本意だけど妹と混同されたら気に食わないので、さっきの行為は俺の意思では無いとはっきりとさせる。それにそもそも妹だってお前のことを思ってした訳じゃない。


「あー、うん。初めましてで、いいのかな? エミルちゃん?」

「子供扱いしないで。こう見えて私はお前と同じ年」

「え? て、ことは十六歳?」


そのなりでとカガミが驚きながら俺を見つめるのが分かる。確かに二年前から殆ど身体的成長はしていないので、同い年には到底見えないのだろうけど、こいつ失礼だな。しかも、何処を見て……あ。


「お前、今何処を見た?」

「う、いや。し、身長を……」

「……そう」


はぁ、この久々に感じる嫌な視線を今どうこう言っても仕方がないか。大体ジークの方が少し変わっていた。これが普通の男の反応で間違いはない。


「次そんな目で見たら、切り落とすから」


でも、終始そんな目で見られるのはごめんなのでくぎを刺しておく。


「ひぇ、了解です」

「ん、聞きたいことはお互い様だと思うけど、一先ずご飯にしょう」

『ぐぅぅ』


話がややこしくなるのは分かっているので先に腹ごしらえにしようと提案した瞬間、タイヨウの返事より先にお腹が返事をする。


「僕もご相伴にあずかっても、いいかな?」

「味の保証はしないで」

「ありがとう」



「で、タイヨウは本当に人間なの?」

「あはは、恐らくはね。逆にエミルさんは本当に同郷じゃないの?」

「これは和の国の料理。だから違う」


俺はカナンさんから餞別で貰ったテントの中でタイヨウと一緒に、適当に作った和の国の料理をつつきながら、会話もとい情報整理をしていた。ちなみに妹はなめたことに難しい話しはダメだとか言って吞気に寝ている。


「和の国かぁ。行ってみたいな」

「犯罪者のくせに?」

「うぐ、それは言わないでよ。事情はさっき話した通りで、僕は濡れ衣なんだから」

「どうだか」


本人談の胡散臭い話しだったが、タイヨウは異世界からこの世界に召喚されたという点だけは間違いではないようだ。何故ならタイヨウは人間の成りをしているが、その実生物と仮定して良いか分からない存在。強いて言うなら、()()()()()()()()だったからだ。


まずタイヨウは外傷などのあらゆるダメージを負わない。俺が試しにナイフで切ってみたが、言った通り切り傷どころか血の一滴すら出なかった。詳しく理由を聞くと、どうやらHPと呼ばれるものがダメージを肩代わりしているそうだ。ただそのHPが尽きると普通に傷を負うらしく、妹がやったように一撃で死ぬこともあるみたい。


まぁ、最初に一度死んでると聞いた時は狂人としか思えなかったが、これを見せられたら否定しきれなかった。ちなみにどうでもいい情報だがタイヨウは後二回も死ねるそうだ。


その他にもレベルの概念やステータスと言ったものがあると聞いても、すぐに確かめようがなかったので後日改めて確認させて貰う事になった。


道化の救済者(クラウンリライフ)、か」

「本当に傍迷惑な存在だよ。おかげさまで僕は――」

「それで他の組織って何?」


タイヨウの話しを聞いているとあれから世界は色々と変わったのだと実感する。タイヨウのいた天の国を含めて大国である武の国、和の国、法の国、魔の国がそれぞれの周辺国家を取り込み領土を拡大。そして、それに伴って道化の救済者以外の組織が台頭し始めたそうだ。


「えぇと、僕が他に知っているのは二つ。一つは金さえ払えばどんな仕事でも請負うと言われてる、銀狼の傭兵団(ゼルドウルフ)。それにもう一つが、人種主義で亜人種を差別している無二の神(ニヒト)と呼ばれる組織だね」

「……面倒くさそう」


銀狼の傭兵団に無二の神。どちらも関わりたくないけど調べておく必要がありそうだ。


「他には何か聞きたいことある?」

「うーん。後は――」


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