事務所への新たな来訪者
「こっんっにちわー!」
ドアを元気良く開ける女子小学生が一人
今日も今日とて、いそいそと葛西の探偵事務所にやってくる五木
しかし今日は一人ではないようだ
「どうも…」
紺色のパーカーにホットパンツ
ボブカットの髪に落ち着いた雰囲気と口調
葛西「ああ、君か…ええっと名前が確か…高砂君だったかね」
高砂「はい。高砂未海です」
葛西「そうかね。ところで五木君、彼女を連れて来た理由は?」
高砂のフルネームを把握した所で、五木に話を持って行く
五木「高砂さんが一緒に行きたいって言ったからだよ?」
五木はケロッとしている
それどころか、今日も事務所の掃除をするべく給湯室の方へ行こうとする五木を今度は高砂が制止する
高砂「ちょっ、ちゃんと紹介してよ」
高砂は慌てた様子で葛西に理由を告げるよう五木に促す
五木「えー、高砂さん自分で言いなよ。このおじさん良い人だよ?」
五木は葛西を指差しおじさん扱い
高砂「え、おじさんって…公園ではお兄さんって言ってなかった?」
高砂は気を使ってひそひそ声で相談する
五木「うん。けどその後、歳を聞いたら27歳だっていうから。」
女子小学生からしたら27歳はおじさんである
五木に年齢を聞かれ、教えた時に既に諦めては居たのでお兄さん呼びでもおじさん呼びでも気にしない事にする
高砂「えっ!?27歳なの?…30代半ばくらいかと思った…」
ひそひそ声だった事も忘れた声である
ええぇ…
女子小学生の大人の男の見る目ってどうなってんの?
まあ良いか…
所詮小学生の言う事だからな
五木「ええっと、学校でね。いつも下校後に何してるの?っていう話になった時に、公園の時にお世話になった人の事務所に行ってるよーって言ったら、高砂さんが一度お礼に行きたいって」
高砂「あの時はありがとうございました。お礼に伺うのが遅れてごめんなさい」
やっとことさまともに紹介された高砂は礼儀正しく、綺麗な言葉使いで言った
ああ、そういう事か、なるほど…
うん、まぁ最初から分かっていたけどね
高砂「それで…私の為にしてくれた事なのに、五木さんだけがお掃除に来るのは悪いので今後は私も来たいんだけど」
まぁそうなるよな…
ん~どうするか…
葛西「ええっと、高砂君。これは五木君にも何度も言っているんだが…君が大人になって生活に余裕ができて、尚且つ払おうって気持ちになったら払いに来てくれたら良いんだよ?それに高砂君の為とはいえ、依頼をしてきたのは五木君だ。高砂君は一銭たりとも払う必要はないんだよ?」
高砂「それは五木さんから聞いてますけど…私の為に依頼した法外な料金を五木さんだけが支払うのはおかしいと思いますので」
法外って…
葛西「ん~君の気持ちも分からないでもないが…というか微笑ましい気持ちではあるんだが。それはあくまでも感情論であり、正式な依頼に基づく報酬支払義務はやはり五木君に有る。もしそれが気になるという事であれば、高砂君が私に払う分を一度五木君に渡してからでないと私も受け取る気はないよ」
少々突き放したような物言いになってしまった
しかしそれでいい
そう言わないとこの子は納得しそうにない
だが、高砂は葛西の予想とは違った反応をした
高砂「………なんだか考えていたよりも優しいおじさんなんですね」
葛西「?」
高砂「五木さんにあの逼迫した状況で法外な料金を請求した人…だと思っていましたから。そんな風にそちらの方から逃げ道へ誘導してくれる人とは思っていませんでした」
なるほど
最近の小学生は色々と気が利く子が多いようだ
しかし
高砂「そういうことでしたら私も気兼ねなく『私も払います』って言えます」
ふ~む
どうしたものか…
葛西「こう言うと君が傷つくと思ったが一応言っておこうか…君、両親が離婚したんだろう?これから色々大変だろうから、私に気を使う暇があるのなら両親…少なくとも引き取ってくれる母親を大事になさい」
高砂は両親を思い、逡巡している様子だった
いや…違うか?
高砂「おじさんが知らないのも無理ないよね」
高砂は自身のパーカーからスマホを取り出し何かを検索していた
そしてスマホ画面をこちらに向け
高砂水産(株)
総従業員数 5800名
総資産 66億5千万
昨年度総売上利益 16億2千5百万
昨年度総営業利益 1億8千万
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最高顧問 高砂 彩音
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高砂「これ、ママの会社。パパはママと結婚したから幹部してあげたってママが言ってた。それに最高顧問なんて言っても肩書だけで基本は他の人にやらせてるから一般サラリーマンより時間も取れるって」
なるほど
親の財力が子の地位を引き上げるという話は良く聞く
おそらくこの間諍いがあった『如月』という女子の親も金持ちなんだろう
高砂「だから私には好きな事をしなさいって、時間もお金も必要な分は必ず用意するからって、…でもおじさんの件をママに言ってお金を出してもらうのは、私…違う気がするから」
この子はこの子なりに色々考えて決断した
という訳か
葛西「ふ~分かった。高砂君、君の好きなようにしたまえ。しかし先ほども言った通り私は君からお金を一銭も貰う気はない。そこは君達で話し合いなさい」
高砂と五木は互いを見合った
葛西「ただし、一つだけ約束してくれ」
人差し指を立て注目させる
なんの抵抗もなくこちらを注目する二人
葛西「この件でこの事務所に来る子は君達二人だけという事にしてくれ。正直、女子小学生を連れ込んでいる探偵事務所なんて、評判からして危ない。今、警察に踏み込まれたら私が逮捕されそうだ」
二人はしばし考えを巡らせ
また同じタイミングで互いに見合い
そして笑い合った




