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探偵物語(仮)  作者: mello
3/8

事務所にて

「こっんっにちわー!」

ドアを元気良く開ける女子小学生が一人

手にはバケツ、バケツの中には掃除用洗剤や雑巾が数枚入っている


昼下がり、デスクの上で突っ伏す様にして寝ていた葛西がドアの開く音に目を覚ましデスクの上に散乱していたお酒の缶を床に落とす

場所は某所、薄汚い築何年か分からないテナントビルの3Fの探偵事務所

客入りも悪く、一年を通して閑古鳥が鳴いている事務所である

だが、そこに居住している男が一人、通いでほぼ毎日来ている女子小学生が一人


居住している男は、葛西薫…この事務所の探偵である

通いで来ている女子小学生は五木早恵…先日公園にて事件を解決してもらってから独自でこの事務所を調べ上げ、後払いの料金を踏み倒す気が無い事を証明しに来ている


葛西「五木君…よくもまぁ、毎日こんな汚い探偵事務所に来るね。学校はどうした?」


五木「学校は今、短縮授業で10時には下校ですよーだ」


葛西「短縮授業…そんな時期か」


葛西は苦笑しながら、窓から外を見回し下校している学生を確認する

そうしている間にも五木は持ってきたバケツの中を応接机の横へ置き、中の洗剤と雑巾を机に置き、バケツを持って給湯室へ行きぬるま湯を入れて戻ってくる


葛西「しかし、学校の友達と遊んでくれば良いものを…なにもこんなおじさんの事務所に掃除に来なくても…」


五木「お金払わず逃げたって思われたくないもん」


葛西「いや、しかしね…」


五木「早恵知ってるもん。お金を払うのを待って貰ってたら、『りし』が発生するんでしょ。」


五木は得意げな顔でえっへんと言いたげに

学校で習ったのか、新聞やテレビでも見たのかたのか知らないが、利子が発生したらとても300万なんて払えないと思った

それを知った早恵はこうして無償奉仕する事で利子を無くしてください。と、事件翌日にわざわざ探偵事務所を調べ上げ、頭を下げに来たのだった

小学生の言う事だと、余り真剣に取り合わず適当に返事をしてから3週間が経つが、今の所、皆勤賞である。


五木「それにしても…おじさんの事務所、お客さん来ないね。」


掃除用洗剤をつけた雑巾をゴム手袋を付けた手で持ち、タバコのヤニで汚れている壁紙やオフィス家具を精一杯磨いている


葛西「私は雇われの身じゃないからね。仕事は選べるのさ。」


五木「選ぶお仕事がないじゃない。」


葛西「いやだからね…」


葛西が答えようとすると五木が言葉を遮る


五木「そんなことよりおじさん。」


葛西「質問しておいて聞かないのか…」


五木「この間はどうして如月さんのボールペンが本当は無くなってないって分かったの?」


葛西「ああ、それか…それはだね。」


葛西は思い出すように思案顔


葛西「まず君達の遠足を観察していると…」


五木「遠足中の女子小学生を観察…」


五木が葛西の事を、犯罪者見るような蔑んだ目で見る


葛西「五木君…君が聞いてきたn…」


するとまた、五木が言葉を遮る


五木「それでどうしたの?」


葛西「学校という閉鎖空間においては、ヒエラルキー…いわゆる学内ヒエラルキーというのが存在しているんだが…」


五木「難しくて分かんない」


葛西が説明を始めると、五木の顔がすねた表情になり


葛西「まぁ…専門用語より、感覚的な話し方の方が分かりやすいかな。」


葛西「学校のクラスの中で一番偉いのは誰?」


五木「先生!」


五木は手を挙げて即答した


葛西「ああ、そうか。…では二番目に偉いのは?」


葛西が納得したような顔で聞き直す


五木「ん~、分かんない。皆一緒だよ?」


葛西「その通り。クラスの中では皆平等、誰が偉い等という事はない。」


五木「うんうん。」


葛西「しかし、そのはずだがクラス内でそんな錯覚をする事がないかい?クラスメイト一人一人に順位付けがなされているかのような錯覚が。」


五木「う~ん…。」


五木の顔が曇る


葛西「そういうヒエラルキーは、いたる所の学校に存在している。というか、人が二人以上集まると発生する。」


葛西「ところで、さっきの話に戻るが、遠足を外側から観察しているとヒエラルキーの順位が容易に見て取れる。」


五木「そうなの?」


葛西「ああ。如月という少女と高砂という少女の二人がヒエラルキーの上位者だろうと。」


葛西「そこで、高砂という子の家庭のスキャンダルが発生した。当然、如月からすれば蹴落とし、自分がトップに立てるチャンスだ。」


五木「そんな…」


葛西「どれだけ酷い事を考えていたのかは分からん。『もっとクラスの中で人気者になりたい』とか『高砂さんより目立ちたい』とか『人受けするネタが欲しい』とか、そんなのかも知れない。」


五木「ふーん」


葛西「家庭のスキャンダルとはいえ、ネタが古いと盛り上がりも欠ける。せっかく手に入れた極上のネタだ、早く使わないともったいない。そんな焦燥感が彼女を狂言に走らせたのだろう。」


五木「それで如月さんがウソついてるって分かったんだ。」


五木「やっぱりあの時おじさんにお願いしてよかった。早恵は頭良くないからそんなの分かんなかったもん。」


葛西「いやいや、こんな物は只の経験則と観察力だけの話だ。誰にでも習得できる技術だよ。それに五木君は頭も悪くないよ。」


五木「なんで?」


五木が首をひねり疑問を返す


葛西「それさ。」


葛西は五木を指さした


葛西「分からない事に対し、素直に『なぜ?』と考える事ができるからさ。人生、無駄に長く生きていると、分からない事でも、自分に関係の無い事・曖昧に誤魔化せてしまうもの・興味の無いものに対して『分からないけど答えを知る必要もない』と判断してしまって思考停止していくものなんだよ。」


葛西「だから、分からない事に対し、『なぜ?』と考える、或いは聞ける五木君は『今はまだ』頭が良いんだ。今後もそうであるように努力していればもっともっと知識や知恵が身に着くよ。」


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