残念だったな! 俺の名前はレイフォードではない!
異世界史に残る、クビキ生誕から二年の歳月が過ぎた。
この頃になると、発達の遅い子供でも、意味のある言葉を話すようになる。
俺も少し乳歯が生えて、まともに話す事が出来るようになった。
筋細胞の成長に伴い、身体も自由がきく。
異世界、いや、この世界。『二アスティ』言語もほぼ理解出来る。
全てはこの日の為に、話せることも、動けることも、隠してきたのだ。
「レイ、パパだよー。言ってごらん」
目の前の父親、グラウス・エルミラントが俺の事をレイと呼ぶ。
ーーレイフォード・エルミラント。
この世界に産まれたその日から、二アスティの父親と母親に呼ばれている名前だ。
二年経った今でもしっくりくる事はない。
「そろそろレイも、喋ってもいい時期なはずなのよね……むしろ遅すぎるくらいだわ…………」
優しい喋り口調の母親、シス・エルミラントが俺の頬を触る。
私達の可愛い息子はいつ喋るのかしら?と、少し不安を抱えているようだ。
今まで愛情豊かに育ててくれた彼らに感謝し、俺はそっと左手の甲に触れる。
出てきたのは自分のステータス画面だ。
「シス!見ろ!レイが自分でステータス画面を開いたぞ!」
「あら、本当!レイったら、いたずらっ子ね!」
この世界では、自分のステータス画面を開くと、いたずらっ子のレッテルを貼られるらしい。
「…………? シス、レイの名前。おかしいぞ?」
「これ、何語かしら? ……なんて読むのかしら…………」
「…………待て、シス‼︎ おかしい、おかしいぞ……‼︎ 何故この子にはステ振りボタンが一つしかないんだ⁉︎」
彼らの前に表示されていたのは、『神喰 クビキ』の文字。
そして、ステータスポイント分配画面に表示されたのは《strを上げる》というたった一つのボタンのみであった。
「ああ……!ああ!……神様、お願いだ………………嘘だと言ってくれ……。そんな、そんな馬鹿な……。うちの子が呪われた子なんて……」
ーーいや、ちょっと待て。呪われた子ってどういう意味だ。
父であるグラウスの取り乱しっぷりが常軌を逸している。頭を抱えて神にすがり始めた。
「グラウス、この子には何の罪も無いわ……。この子は私達の子供じゃない。大丈夫、大丈夫よ…………。周りの人々がなんと言おうと、私はレイを立派な大人にしてみせるわ!」
頭を抱えるグラウスを、そっと抱き寄せなだめるシス。なんという良妻だろうか。
感動的なシーンを前に喋り出しにくい雰囲気だ。
「…………神喰 クビキ」
「…………シス、何か言ったか?」
「いいえ、グラウス。何も言ってないわ……」
「神喰 クビキ。それが俺の名前だよ。父さん、母さん」
「…………」
「…………」
しばらくの沈黙の後、シスとグラウスは泡を吹いて失神した。
その後、丸一日、エルミラント夫妻はうなされていたという。