生誕!
『異世界転生』とは奇異なもので、母親となる女性から、産まれてすぐに『自我』や『記憶』が正常に機能し、存在する。
しかし、脳から伝達される信号を、成長しきっていない身体の筋細胞が、うまく動作にうつせない。
つまり、自分の意思では、まともに身体を動かす事が出来ないという事だ。
目はまだ開かない。その場に響く声だけが俺の出生を告げている。
「ーーーーーー! ーーーーーーーーーー!」
「ーー…………。ーーーーーー…………。」
「ーーーーーー…………? ーーーーーーーーーー‼︎」
「ーーーーーー‼︎ ーーーーーー‼︎」
「ーー‼︎ーー…………‼︎ーーーーーー‼︎」
ああ、言葉の意味が全く理解出来ない。
本当に異世界にとやらに転生したようだ。
…………………………?
何かおかしい。
「ーー‼︎ …………ーーーーーーーーーー‼︎」
「ーーーー⁉︎ …………ーーーー‼︎」
「ーーーー‼︎」
言葉は通じないが、その場の雰囲気でわかる。
何かを騒いでいるようだ。
しばらく周りの声を聞いているが、やはり言葉の意味は理解できない。まあ、それは二、三年、異世界語の環境下に身を置けば、自然と身につくものだろう。
俺は、しばらく周りの喧騒に包まれながら、出生の余韻に浸る事にする。
……………………つもりだった。
突然、俺の小さな身体を抱えていた人が、ブレイクダンスでも踊るかのように激しく動き出した。
ーーちょ、何してんの⁉︎ こっちは産まれたばかりの赤子なんだが⁉︎
異世界の風習か何かだろうか。産まれた子供を抱えてブレイクダンスを踊る風習があるのかも知れない。
ーーちょっと、これ以上は…………本当にやめてください。酔うんで……。
さすがに激しく揺らされる事に、心が折れそうになる。これはもう、訴えかけるしかないだろう。
赤子ながらにガツンと言おうと思う。
『ふざけんな、クソが』……と。
「あぇぎゃぁぁ…………」
言えなかった……。
乳歯すら生えておらず、上手く発音をする事が出来ない俺は、赤子特有の産声をあげた。
辺りは歓声に包まれ、俺を揺らす行為もおさまる。
ーー産声をあげなかったから、肺に羊水が詰まっていたと思われたのかもしれない。
自分が赤子であると再認識させられた瞬間であった。