死後のお部屋にこんにちは!
例えるなら光の届かない深淵。
自分の身体すら見ることが出来ない。そんな暗闇の中に俺はいる。
立っているのか、それとも、仰向けに寝ているのか、それすらもわからない。
ここは何処だろうか?
女性の春風にワルツを踊る、ひらひらのスカートを見ていたらダンプカーにはねられたんだが……。
確かにそこまでは覚えている。しかし、今いる場所が何処なのかが、全くわからない。
「誰かいませんかー⁉︎」
『はーい、いますよ』
俺の呼びかけに対して、何処からか声が聞こえる。姿は見えないが、とても愛想の良さそうな優しい声だ。
「ここって何処だかわかります?」
『はい、わかりますよー。ここは死後間も無く訪れる部屋となっております』
「やっぱり死んだの……? 俺は……?」
『はいー、申し訳ありません......クビキさんの命は、確かに日本時刻で07:38:55に消失しております』
「そうなんだ……。あなたは誰? 俺の事を知ってるようだけど……」
『私は神です』
ーーこの人、危ない人かも知れない。
何かの宗教内で、功績を重ね、神格化でもしたのだろうか。
「えっ……?」
『私は神です』
「いや、聞こえてたよ。二回も言わないでよ……。では、あなたが神だと証明出来るものは?」
『そうですね、可能な範囲で願い事を一つ叶えて差し上げましょう』
願い事を一つ叶える。それは死んでしまった人々への最後の手向けだろうか。
大体、胡散臭すぎるし、信憑性に欠ける。
「じゃあ叶えてくれる願い事を二つにして欲しい」
『あ、そういうのはやめてください。永久に願い事をされてしまうので……』
「……。唐突に言われても浮かばないんだよな……。何かオススメ的なやつは無いの?」
『クビキさんは、生前の世界を好きではなかったようですね……。ならば! モンスターや、レベル、ステータス振り、冒険だって存在する。そんなわかりやすい、自分の実力さえあれば、のし上がる事も可能な世界……。
全てが自己責任で、実力主義の世界に転生させる。っていうのはどうですか?』
……なんか、この自称神様、とんでもない事を言い始めた。転生ってのはつまり、生まれ変わるという事だ。それもまるでゲームのような世界に。
「レベルやステータス振りって、どうやって自分のステータスを見るのさ。ゲームじゃないのだからコントローラーや、ボタンなんかも無いだろ?」
『簡単ですよ。左手の甲を触るだけで、目の前にコンソール画面が表示されるはずです。この部屋でも実行可能にしましたので、是非試してみてください』
半信半疑で左手の甲に触れる。驚くべき事に、視界内にコンソール画面が表示された。
どうやらそれはタッチパネル式で、触れた部分に反応がある。
画面は切り替える事は出来ず、一つの画面内に現在ステータスと、ステータスポイント分配とが表示されている。
ステータス
str 『strength 力・物理攻撃力を表す』
def 『defense 硬さ・防御力を表す』
int 『intelligence 知力・魔法攻撃力を表す』
men 『mentality 精神力・魔法防御力を表す』
dex『dexterity 器用さ・命中率を表す』
vit 『vitality 体力・スタミナを表す』
agl 『agility 素早さ・攻撃速度を表す』
『そこに載っているステータスの中から、ステータスポイント分配ができます。ステータスポイントは、1レベル上がる毎に5ポイント加算されますからね。振り忘れ、振り間違えのございませんように』
【ステータスポイント分配システム:通称「ステ振り」と呼ばれるもので、オンラインRPGゲームなどで、よく利用される。プレイヤーのプレイスタイル、趣向に合わせてゲームキャラクターを強化できる仕様である】
「頼みがある……。このステータス分配、それぞれの項目に《strを上げる》《defを上げる》《intを上げる》とかいうボタンがあるんだが………………。《strを上げる》以外のボタンを消してくれないか?」
『ーーーーーーえっ?』
「消せないか?」
『い、いえ、可能ですが、それだとstrength、つまり、力以外のステータスを上げる事が不可能となってしまいますよ⁉︎』
「構わない。そうじゃないと駄目なんだ。
俺は今まで、当たり障りなく、人の顔色を見て、怒られないように、怒られないようにと、立ち回ってきたんだ。
平凡でクソつまらない人生だったさ。
きっと生前に、ステータスポイント分配なんてものがあったとしたら、俺は全ての項目、均等にポイントを割り振るようなつまらない男だった。
生まれ変わるなら変えるのさ。何か一つに特化して、誰かに必要とされる男になりたいんだ。
だから純粋な力、《strを上げる》ボタン以外は消してくれ」
『………………わかりました。覚悟あり…………。なのですね。それではこれから、クビキさんを異世界へと転生させますがよろしいですね?』
これから俺の新しい人生が始まる。
どうせやるなら最高の人生にしてやるさ。
「ああ。頼む!」