真理夫の憂鬱
俺の名は真理夫。今、舎弟のキノコ頭と幼馴染の家に向かっている。ケーキを焼いたからパーティーを開くとか言ってくるキチガイだが、それも今に始まったことじゃない。もう20年ちかく同じような理由で呼び出されている。そしてその度に近所のクソ野郎が邪魔してきやがる。もはや打ち合わせしてるだろレベルでパーティー→拉致監禁の流れだ。毎回ちゃんと助けているが、最近国境3つまたいで行くのが苦痛でしかない。しかも公共機関だけじゃいけないもんで、絶対に歩いていく場所があるのだが、雪国だったり、アマゾンだったり、雲の上だったりと道のりがおかしいのだ。そんな思いをして着いたかと思えば誘拐犯とタイマンだ。1億年と2000年前から愛してても一瞬にして覚める。それでも付き合っている俺は心底アイツに惚れているのかもな。
「真理夫さん、アレ、またあります」
立ち止まり、キノコ頭が指さす方向を見ると、?の書かれた箱が宙に浮いている。あの箱、通称『?ブロック』は頭突きをするか、バク宙した後ケツから落ちるかしないと中に入っているブツが取り出せない仕様になっている。しかも何が入っているか分からないと来た。骨折のリスクを冒してまで出したモノが、まったく必要のないもんだったときはブチ切れそうになる。そんなときはキノコ頭の兄弟の家に行って、使えそうなもんを何個か貰っていき、ついでに頭を踏んづけてストレスを発散する。別に、嫌がっているところを無理矢理踏みつけているわけではない。それどころか踏むのが当然と言わんばかりの顔をしてくる。
「ガハハハハハァ」
どこからか憎たらしいクソ野郎の声が聞こえる。いい年なんだからそろそろ自粛するべきだとは思うが、そんな俺の一言でコイツのアイデンティティーを奪うわけにもいかない。恐らく本人だって分かっているはずだ。自分の醜さを承知の上で、それでも努力をしているのを俺は知っている。ネタにされバカにされて、悩んでいるのも分かっている。だからこそ、普段の鬱憤をここで晴らしているのだ。誰しもがそれを理解し、そして誰も口にしない。だからこそ俺も変わらないよう相手をするのだ。
ドスンと音を立てながらクソ野郎、もとい、屈破が眼の前に現れる。?ブロック、キノコ頭、そして屈破。俺はまた幼馴染を助けに行かなきゃならねぇのか。だが、そんな覚悟を決めた俺とは裏腹に屈破の様子はいつもと異なっていた。
「……来たか、真理夫」
俺の前に現れた屈破は、見るも無残なまでにボロボロで、いつものコイツからは想像できない程弱弱しい声だった。だが、先ほど聞こえた笑い声も、間違いなく屈破自身のものだ。状況が全く理解できない。
「俺は、ここまでだ……。彼女を、桃姫を救えるのは、お前だけだ真理夫……」
屈破が崩れ落ちる。だが、やはり何が起こっているのか分からない。
「どういうことだよ……」
とりあえず、俺は幼馴染『桃姫』のもとへ向かうため、屈破を弟の類侍に任せ、先を急いだ。今日は何かが違う。いつも、桃姫の家へ行くときに邪魔してくる栗や、亀や、花も全く出てこない。
「真理夫」
砂漠を走り抜けたところで声を掛けられる。いつも屈破と一緒にいる魔女だった。
「桃姫はどうした。屈破に何があったんだ」
「落ち着け真理夫。桃姫はまだ大丈夫だ。屈破様は、ハメられたんだ」
魔女が眉間にしわを寄せ、厚めの眼鏡を指で押し上げる。
「私の口からすべては言えない。そういう呪いなんだ、許してくれ。桃姫は今、深い眠りについている。命に別状はないが、このままでは、永遠に目覚めることは無いだろう。私には彼女を救う方法も、黒幕も言うことは許されない。一刻も早く桃姫のもとへ向かえ。手遅れになる前に」
そこまで言って魔女は去ってしまった。
「真理夫さん、僕はね、あなたに憧れていたんですよ」
桃姫の家で待ち受けていたのは、キノコ頭だった。屈破をボロボロにし、魔女に発言制限を
設けさせ、そして桃姫を眠らせたのは、すべてコイツがやったことだったのだ。
「僕たちの種族は、キノコの胞子が扱えるんです。それを使えば、大抵の人間たちは逆らえなくなります。屈破さんには自傷の胞子、魔女には言葉を制限する胞子、桃姫様には永遠の眠りについてもらう胞子を使いました。魔女は呪いか何かと勘違いしていましたけどね」
キノコ頭が得意げに語っていく。実に、うざい。
「お前の目的はなんだ」
フフフと、普段とは全く違う不気味な笑い方をする。だが、いくら粋がっていてもキノコ頭に変わりはない。故に、何一つ怖くない。むしろ呆れている。
「目的、ですか。強いて言うなら、あなたを超えたかった、ですかね。屈破さんも他の奴も、所詮はただの実験体。あなたに一番効果的な胞子を作り出すためのね」
いちいち言葉の間を作ってくるのがめちゃくちゃうざい。
「でも、気付いたんです。あなたは胞子だけじゃどうこう出来るような人じゃない。だから桃姫様に協力していただいたんですよ。桃姫様を救うには、代わりの生贄が必要だ。一度萬栄してしまった胞子は、僕の言うことなんて聞いてくれないんでね。代わりの何かを置いていかないと暴走してしまうかもしれませんから」
「……そうか、それを聞いて安心したぜ」
俺も、何の対策もなしにココに来たわけじゃないのだ。魔女の話を聞いた後、屈破のあの笑い声についてもう一度考えてみた。あの場で、あの声を発したのが屈破じゃないとすれば、おそらく、犯人がタイミングを見計らって録音したものを流したのだろう。キノコ頭は遠くにある?ブロックに気付ける程の眼の持ち主だ。屈破が近づいて来るのもすぐ気が付くだろう。そして、俺が屈破に気を取られている間にいなくなったって訳だ。そう考えた俺は、キノコ頭の種族の家を回って、軽くコイツを調べてきたのだ。そして切り札を用意した。
「木ノ秘緒!」
「……木ノ秘子!」
コイツのことを調べている間に、彼女の存在を知った俺は、ココまで連れてやってきたのだ。
「卑怯ですよ、真理夫さん。木ノ秘子は関係ない」
「それを言ったらお前こそだろ。最初から俺とタイマンでも何でも張ればよかったじゃねぇか」
「そ、それは……」
俺とキノコ頭では、戦闘力に差があり過ぎるが、だからといって、桃姫を巻き込んでいい理由にはならない。
「くっ、こうなったら胞子を」
キノコ頭のまわりに、粒状の何かが集まってくる。
「やめときな。俺にそいつは効かねぇ」
俺は知っていた。俺が他の奴と違い奴の攻撃がきかないことを。理由は簡単だ。俺に生えたこの髭だ。この髭は、全ての空気を浄化する機能を持っている。この髭のお蔭で毒沼の空気も耐えられる。だから粒子を使うコイツの攻撃は俺には通用しない。
「生贄はお前だ、木ノ秘緒。この可愛い子ちゃんと、自分の犯した罪の重さを反省するんだな」
奥の寝室で眠りについている桃姫を救出した俺は、代わりにキノコ頭とその彼女を部屋へ入れた。自分の残忍さは分かっている。が、俺の大切な幼馴染に手を出されたら、身内だろうと容赦しない。木ノ秘緒と木ノ秘子は、二人で手をつないだまま永遠に眠りについたのだった。
END
とてつもなくアホな作品でした。部長とはなんだろう笑
読んでくれた方はありがとうございました。締め切りギリギリにカラオケしながら書いたものです。正直、私のが一番ふざけてます。うちの部員たちはいい子たちなので、コミュ力以外勝てるものは無いです。よかったら他の子の作品もよろしくお願いします。
龍田Rothでした!