なろう作家 ミヤモトの配下トリタ
帝都にある一軒の酒場件宿屋。
『サウザンドスレイヤーロイの店』
ここはこの世界のどこにでもあるような冒険者の集う、というより旅人が集まるごくごくありふれた飲食店です。 そこに白昼堂々街の警備兵シムラーがやってきました。
「いらっしゃ・・・あらシムラー様?まだ勤務時間なのでは?」
入り口から入ってきたのはシムラーにウェイトレスのバイトをしているメルは声をかけます。シムラーは流れの何でも屋連中の冒険者と違ってほぼ毎日店に通うの常連客なのでメルは顔を覚えていました。
「確かに勤務時間だよメルちゃん。だけど一大事だね。南門を警備した兵士がちょっとトイレに離れた隙に街にモンスターが入り込んだらしいんだ」
「まぁ。それは大変ですね」
あまり大変そうではない声でメルは驚きました。
「メルちゃんも気をつけてくれ。あと化け物らしきものをみかけたら警備隊にすぐ連絡するんだよ。僕らがやっつけるからね」
「はい。シムラーさん。後ろ」
「じゃあ頼んだよメルちゃん」
「シムラーさん。後ろ」
シムラーが店を出ようと後ろを振り返るとお客さんが立っていました。
とても変わったお客さんです。
何だか手足が変な方向に曲がってるし、まともに立ってられないのかフラフラしています。腕も足も変な方を向いています。それに体のあちこちから血は出ています。耳も鼻もちぎれかけています。髪の毛が右半分だけごっそりなくなっていてとても斬新なヘアスタイルです。歯も数本しか残っていません。
「へめーほほうはってひっへんは・・・」
「うぎひいいいぃぃいぃいいいいぃい・・・」
人間とは思えない化け物のような声をあげてシムラーは気を失いました。 あ、股間から黄色い液体が漏れてます。
「メルちゃん離れろ!そいつが城から街に入って来た化け物だっ!!」
店主のロイはメルに逃げるよう声をかけました。
メルはその場にあった家具(椅子)に上品に腰かけました。食堂兼酒場なのでテーブルと椅子はいくらでもあります。一般的な普通の食堂なので魔法の品ではなく、どこからともなく飛んできて、お客様の股間を直撃して玉を二つ。ぷちっと潰したりなんかしません。
あ、あと重ねて言いますがこの店には椅子があります。お客様は木の箱に座って食事などしません。
蛇足終了。
椅子に座ったメルはポケットから銀のハーモニカを取り出すと唇に当てて音楽を奏で始めました。
一曲演奏が終わると、その場に立ち尽くしていた怪物の皮膚が崩れ始め、肉が剥がれ落ち、そして骨が砕け始めました。
そして店の木製の床に頭蓋骨と少々の白骨が残ります。
さらにその上にぼんやりと薄い騎士の幽霊が浮かんできました。
『私はトリタという名前の騎士です。この帝都より南にある地に城を構える、ミヤモト様にお仕える者でした』
「ミヤモト王に仕えるトリタ様。で、ございますか?」
『ですがある日。邪悪な心を持つ魔導士マサツグが現れ、ミヤモト様の城と領土を奪ったのです。我らは戦いましたが、力及ばずこのように怪物に変えられてしまいました・・・。お願いします。どうかマサツグを倒し、彼の地に平和を・・・』
それだけ言い残すと、トリタ、と名乗った亡霊は消滅しました。
さらに床に残った頭蓋骨も急速に風化し、なくなってしまいました。
・・・いえ。まだキラキラ光るものが残っています。
それは一個の勲章でした。
「金製でしょうか」
メルは勲章を拾い上げます。
「じゃあこれを換金してギルドに依頼を出してきますね」
「メルちゃんはいかないのね?」
ロイは尋ねます。メルは答えます。
「それは私の仕事ではありませんから。それにもし彼らが行かないのなら、何のためにこの世界に冒険者なんているんですか?」