第2話 “私”とは
私は高月紗良。
7歳だが、実際には4、5歳にしか見えない子供だ。
その子供の脳内が、なぜこんなにも大人びているのかというと、びっくりな事に前世の記憶とやらがあるせいだ。
前世では、地球の日本という国に生まれ、一般家庭であったが、家族に愛され、結婚前提で付き合っていた優しい彼もいた。
仕事もうまくいっており、生まれ変わって異世界に行きたいなどという願望を抱いたことはなかった。むしろ、異世界に記憶を持ったままいったら、前世との常識や文化の違いに戸惑うだけだと考えていたほどだ。
それがなぜ、こんな事になったのだろうと思ったことは幾度となくある。
この世界は私に優しくない。
スパルタすぎなのだ。
記憶自体は物心ついた頃からあったので、自我が不安定になったり、違和感を感じることはあまりない。
前世で流行っていた小説などでは、事故にあった衝撃で、とか、ある日何かを見て乙女ゲームの主人公や悪役令嬢になっているのに気付いた、などという設定が多かった。
しかし私は、事故にあったことはないし、乙女ゲームなど、したことすらない。
いや、よく死にかかっているのでそのせいかもしれないが、もしそうなら、いつからあるのか特定することは不可能だ。
なぜなら、今世では、なぜ今も生きているのか分からないくらいよく死にかけるのだ。
もちろん、私が、ありえないくらいドジっ子だった、とか、剣と魔法の世界だから、とかいう幸せな理由ではない。
もういっそ、そうであったらまだ楽しかったのであろうが、悲しい事にそんな事はなかった。
今世の私は、世界中の人の代わりに、少しでもお前が苦しめ、と言わんばかりに病気にかかるのだ。
少し外に出れば、熱が出て風邪をひく。そして、必ずと言っていいほど肺炎にまでなってしまうのだ。
もちろん喘息もちで、埃が舞ったり、空気が乾燥していたりすると、肋骨が折れるかもしれない、と思うほど、咳が出る。
そして、私が生まれた高月家は、いわゆる旧家というやつなのだからか、あまり家族の繋がりが強くない。
お金はあるので、小さい時から、お手伝いさんや私専属の世話役などが私の世話をしてくれている。
また、母は私を産んだ後、産後の肥立が良くなかったとかで亡くなっている。
そのせいか、母を深く愛していた父は、私のことが憎いらしく、きちんと顔を合わせたことすらない。
まあ、その代わりと言うかのように、兄と世話役にはこれでもかというほど愛されている。
ありがたいことなのは分かっているのだが、たまに、愛が深すぎて鬱陶しい、と思うのはしょうがないことだと思う。
今は、基本的にベットから出られないので、その他の事は、ほとんどわからない。
まあ、知ったところでなんだ、という話なのだが。
今の所、そんな事よりも、明日生きているのかどうかの方が重要なので、これからも死に物狂いで生きていこうと思う。
……大丈夫かな?