「君には関係ない」
私の本来の名前は、ミアではない。
かつて私には、ユリアスフィール・マリア・コーネリアという、それは立派な名前があった。
私は五大貴族と言われたコーネリア家の長女だった。
フランシスという3歳年下の弟もいた。
母に似て可愛らし顔立ちをして、素直で愛らしい弟だった。
小さい頃は、お姉ちゃんお姉ちゃんといつも私の後にくっついて離れなかった。
本当に大好きな弟だった。
そして、私と弟がよく家族付き合いで遊んでいたのが、王族家であるキングスレイ家の長男で今現在の王であるロイズと、五大貴族の一つであるカークランド家の長男であるレイモンドだった。
王となったロイズは落ちついた風格を持つ男性だが、当時は生意気で、私よりも2つ年上だからといつも私と弟をいじめては偉そうに踏ん反り返っている嫌なやつだった。
特に私に対しての仕打ちが酷く、弟と遊んでいるところを見れば、「バカ女」「クズ女」と私をなじり、弟との楽しい時間を邪魔するのだ。
一度、彼に泥団子を投げられそうになったことがある。
しかし、それが誤って弟に当たってしまいおお泣きしたのを見た私は、とうとう堪忍袋の緒が切れ、弟に読み聞かせていた絵本をロイズに向かって投げつけたのだ。
そして絵本の角がたまたまロイズの頭に当たってしまい、今度は彼が泣き出したのである。
その日は母にうんと叱られたが、その横でロイズも王妃様に叱られていたので、お互い悪いことをしたなと、少し反省したのを覚えている。
そんな活発的なロイズに比べ、彼と同い年のレイモンドは酷く大人しかった。
レイモンドはカークランド伯爵と彼の愛人との間にできた子供だった。
以前のカークランド家には子供がおらず、レイモンドに跡を継がせるために伯爵が無理やり連れてきたそうだ。
それを知ったのは、彼と話すようになって少ししてからだったのだが、きっと今の家が居づらくすることもなかったのだろう。
彼はいつも分厚い本を片手に庭や部屋の隅に腰をかけ、本を読んでは暇を潰しているようだった。
そんな彼の事情などつゆ知らず、私が彼に向って初めて発した言葉が「本なんて読んでて楽しいの?」だった。
その言葉を聞いたレイモンドは、一瞬眉をひそめて「君には関係ない」と私を一蹴りしのだが、当時の私は諦めが悪く、そんなに面白い本なら私も読ませてよと、彼の横に陣取る様に座り、無理やり一緒に読んだのだ。
一体どんな難しい本だと思い文字を一から追えば、それは挿絵の入った長編童話で、彼と夢中になって本を読み進めたのを覚えている。
特に、終盤のページが印象的で、富も地位も権力も我がものにしてきた主人公が最後にはその全てを無くし、生きる気力を失っているところを、心優しいもう一人の主人公が彼から酷い仕打ちを受けたのにも関わらず「君には愛情が足りないんだよ。」といって手を取り合う描写はとても感動的だった。
この本を読んで心を動かされた私は、他にも本はないのかとレイモンドに詰め寄り、いつしか彼と私は本を貸し借りする仲になっていた。
本の話しになると、少しだけ子供らしくなるレイモンドに私が恋心を抱いたは、その数日後のとこである。
そんな私の姿を見たロイズも興味を持ったのか、レイモンドから本を借りるようになり、ロイズ、レイモンド、そして私はよく3人で遊ぶようになっていたのだった。
私たち3人が打ち解けるようになり、お互いの家を行き来するようになった頃、悲劇は起こった。