じゃあ、なんだったの?
そこまで怖くはないですけど、最後までみてください。
それは、夏休みくらいの出来事だった。
私の家は、所謂よく出る感じの家で、幽霊現象とかは小さい時に誰でも目の当たりにしていたし、なんか気味の悪い人形とかゴロゴロあった。
そして、残念なことに不気味な人形が転がっているその部屋にテレビが置かれていた。
「うぇ~ここで見るの?」
「仕方ないじゃん!」
「姉ちゃん、気味が悪いよ…」
当然の反応として兄は、その部屋で見るのを嫌がってたし、妹も気味悪そうに見ていた。
しかし、灼熱地獄のような猛暑が続いた為にエアコンを酷使しまくってたら、ついに壊れてしまったのだ。
それでもテレビを見ていたのだが、めっちゃ古いブラウン管のテレビなので暑さにやられてたのか、変な煙を出して壊してしまった。
そして運の悪いことに、今日は金曜ロードショーの隣のトトロが放送されるので、まだまだ子供の私や弟、そして何故か兄も見たくて仕方がなかったのだ。
「ここしかエアコンとテレビがないんだから」
そういうと、渋々という感じに兄と妹は頷いて、せめてもの抵抗にと照明をアホみたいに光らせて怖い雰囲気を消していた。
私としては、照明のせいで不気味なフランス人形や日本人形が丸見えで怖かったのだが、そこら辺は目を瞑った。
「あ、トトロが始まった」
テレビに電気をつけて、チャンネルを合わせればトトロが始まった。
流石はジブリというべきか、アレだけ不気味だの怖いだの思っていた部屋なんてスッカリ忘れて映画に引き込まれた。
「メイちゃん迷子になってもうた…」
ドン…………バン………
「あ~大丈夫、アレは後でさつきが見つけてくれるから」
トン………ババン…………
「ネコバス可愛いなぁ……」
さつきがネコバスに乗るシーンで、私はこれに乗たいなと無邪気に思った。
トン……トトン……
今日は一段と風がキツいなと思う。
よく誤解されるのだが、うちの窓は立て付けが悪く、少しの風でも叩いてるような音が聞こえるのだ。
それにアレはガラスを叩いている音ではなかったし、さっき、もしかしてと思って後ろにある窓の方を見たが誰もおらず、風がふいていた。
「いい映画やったな~…最後のシーン感動した」
バン……ババン……バン…
ついに映画も終わり、エンディングが流れ出した。あの有名な歌で、私たちはそれもみていた。
バン………バン……バン…ババン……
「お姉ちゃん、変な音が聞こえるよ」
「あー風やで、今日は結構吹き荒れてるし、さっきみても誰もいなかったよ」
その言葉に安心し、ホッとため息をついた妹を抱き締める。
バンバン……バン…バン…ババン……ババン…バン…バン……ババン…バン…バン……バン…ババン
その音はドンドン早くなってきた。心なしか、音の種類が変わったような気がする。
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンパンパンパンパンパンパンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンバンバンバンバンバンバンバンバンンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン
ガリガリガリガリガリガリガリガリィイイイ!!!!!!
「これ風じゃぁねぇよ!!!!」
どう考えても引っ掻いている音に兄の叫び、私は音がする窓の方へと振り向いた……
女性が窓を叩いていた。
「きゃぁぁぁぁああ!!!」
思わず悲鳴をあげてしまう私は仕方のないことだと思う。だって本当にいるのだ、ヤバイのが。
長い長い髪の毛はベチョベチョとしていて、引っ掻いている指は爪が剥がれていた。
何より怖かったのは、血のように……というか、もろ血の固まりみたいな目がこちらを見ていた。
口避け女のように、ニタァァアと笑いながら窓を狂ったように引っ掻いて叩いている。
幽霊の類い。
「ヤベェよ!!きたよ!!どうすんだ!?」
「知らない知らない!!兄ちゃんなんとかしてよ!」
パニックになる私たちを無視して、女性はガリガリと壊す勢いで窓を引っ掻いている。ガリガリとガリガリと……
「シバこう!!あいつ蹴落とそう!ぶん殴ろう!」
そういって、武器になるとでも思ったのか、日本人形をもっている兄。
武器になるわけないだろバカ。
「正気に戻って冷静に考えて!!それをやるには窓を開かなきゃダメなんだよ?というか人形で殴ったら別の呪いを受けるよ!」
「あああああ!!!そうだった!!」
人形をポイと放り投げて、頭を抱えだす兄に私も泣きそうになる。
そもそも何でこの女の幽霊はここに表れたのだろう。ここじゃなくても良かったじゃないか、何を思ってここにきたのだよ。
残念ながら、私たちは貴女のことなんて知りません。先祖様に用があるのなら盆地にいって下さい、戦争の幽霊というならば、私の家よりお寺にいって成仏してください。
きっと美味しいものが沢山食べれますよ、おそなえくれますよ。私や兄になんの恨みをもってるんですか?
私はわけの分からない言い訳を心の中でしていると、兄がスイカを食べる時に使った塩を窓に払っていた。
「清めの塩だ!」
違う、それは味塩だバカ。
兄と私が本格的に使い物にならなくなってきたとき、妹が冷静にいった。
「婆を呼ぼう!」
婆とは、私の母方の祖母であり、霊感がすごくある人である。ちょこっとしたお払いや鑑定も出来るので、家に幽霊的なものがあれば婆に頼むのが常識だった。
私たちは、それだ!!と思い、婆の部屋にいって寝ている老婆を叩き起こし人形の部屋に連れてきた。
「婆、ここなんだけど……」
婆を連れくると、先程まで狂ったらように窓を引っ掻いて叩いていた女性は消えてしまった。
そのことにホッとしながら、婆の鑑定をまつ。婆は窓の方をみて、部屋全体を見渡した。
「ふーむ……」
婆は難しい顔をして、いった。
「霊的なものは感じないね……」
「え、霊的なものはないってことは、幽霊はいないってことですか?」
「あぁ、だから安心して寝なさい」
婆は優しく微笑んでそういい、自分の部屋へと戻っていった。
あぁ、なんだ……幽霊なんていなかったのか……
「よかったね、お兄ちゃん」
「本当だな……スゲー怖かった」
私と兄は幽霊がいないことに安堵し、腰が抜ける。よかったよかった、幽霊なんていなかった。
「でもさ、流石に一人で寝る勇気がないから三人で一緒に寝ない?」
「いいぜ~」
「……うん」
兄と私と妹とで、広い部屋に移動して布団を引き、皆で寝転がった。床に引いているので少し固い感触だが、それもそれで楽しむ。
電気を消して、私は布団の中に入った。
「あのさ……お姉ちゃん…」
「ん?どうしたの?」
不安そうな声を出す妹に私は声をかえした。
「さっきのって、幽霊じゃないんだよね?」
「うん、そうだよ。だから安心していいよ」
私はそういって、安心させるように抱き締めてあげたのだが、妹は汗ダクダクで震えていた。まるで、それが最悪の答えだというかのように。
ふと、私はあることを思い出していた。あそこの部屋は2階だった、それなりに高さのある2階。
もちろん、足場になるようなものなんてないし、雨が降ってたからツルツルの壁になってただろう。
いや、問題はそこじゃない。今の問題はそこじゃない。
「アレは……幽霊じゃない」
私の言葉に妹は振り向いた。
「じゃあ……
なんだったの?」
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ………
最後のは、人間なら戻る場合もあるっていう演出です。そして、最初に音がしたのに姿が見えなかったのは登ってたからです。
若干実話で、それをアレンジしました。
初めて書いたので、怖くないかもですけど、よろしくお願いします。