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リアル  作者: けせらせら
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7.願い・1

   7.願い   


 深夜。

「真奈美!」

 その自らの声に驚き、美夕はガバリと飛び起きた。

 喉が渇き、汗をかいている。

(今……私何て……?)

 自分が呼んだその名前に驚いていた。

 ちらりと視線を動かし枕もとの目覚まし時計を見る。

 午前5時。

 どんな夢を見ていたのだろう。ひどく怖い感じがしたのを覚えているが、その内容は一瞬のうちに忘れてしまった。

 だが、その夢のなかに真奈美がいたような気がしてならない。

 ふと新谷から聞いた三代竜平のことを思い出した。自らを中尾雅彦の兄と偽り、ずっと事故のことを調べ続けていた。

 なぜそんなことになったのだろう。

 三代竜平の事件に対する姿勢は真剣なものだった。実の弟のために懸命になっていたように見えた。

 やはり事故の影響なのだろうか。

――兄さん!

 頭のなかに声が響く。

 なんだろう……どこかで聞いたその声。なぜ、今ごろになってそんな声を思い出すのだろう。

 ゾクリと背筋に冷たいものが走る。

 指先がかすかに震える。

(この感じ)

 あの時――あの時の感じに似ている。

――プレイヤーのなかにはね。プレイヤー同士に何らかの関係を持たされてる人もいたの

 雛子の言葉を思い出す。

(設定……)

 ひょっとしたら三代竜平は中尾雅彦と兄弟という設定のなか、ゲームに参加していたのかもしれない。そして、事故の影響でその時の記憶が残ったまま、現実世界に戻ってしまったのではないだろうか。

(あの事故のせい?)

 ゾッとする。

 同じようにゲームに参加して、事故にあった自分も同じように記憶が狂っている可能性もあるのだろうか。

(嫌!)

 ブンブンとその考えを振り払うように首を振って、ベッドに身を横たえる。

 その時、何か物音が聞こえたような気がして耳を澄ます。

(なんだろう)

 物音……というよりも人の鳴き声のようだ。

 美夕は再びゆっくりと身体を起こした。

 声は部屋の外から聞こえてくる。

 ベッドから抜け出ると、聞こえてくるわずかな声をたどってドアを開ける。

 じっと耳を澄ます。

 どうやら声は康平の部屋のほうから聞こえてきているようだ。

 こんな時間に一体どうしたのだろう。

 迷った後、美夕は康平の部屋の前に立ち、ドアをノックした。

 一瞬、声が途切れる。

「康平? どうしたの? 開けるわよ」

 ゆっくりとドアを開く。

 部屋の中は暗く、窓から差し込む月明かりでわずかにその気配を掴むことが出来る。

 ベッドの毛布のなかからわずかな声が漏れてくる。

 低く小さな呻き声。

「康平?」

 美夕はゆっくりと近づいていった。

 しだいに闇に目が慣れてくる。

 毛布のなかからは苦しそうな康平の呻き声が聞こえている。

「どうしたの?」

 美夕は声をかけた。だが、一向に答えはない。

「ねえ――お母さんたち呼んでこようか?」

 そっとその膨らみに手を伸ばす。

 その瞬間――

 毛布のなかからヌッと手が伸び、美夕の手首を掴んだ。

「キャ!」

 思わず小さく悲鳴をあげる。だが、その手の冷たさにハッとした。冷たい指先が小刻みに震えている。

「……康平……」

「……大丈夫……」

 康平が毛布のなかから顔を出すと低く声を出した。「……いつものことだから」

「いつものことって……いったいどうしたの?」

 美夕はベッドの脇にしゃがみこんだ。

「わかんない。ただ……声が聞こえるんだ」

「声?」

「頭のなかで誰かが騒いでるんだ。なんなんだ……いったい……これもあの事故の影響なのかな……」

「だったら病院に――」

「大丈夫だって!」

 立ち上がろうとする美夕の手を康平はぐいと引っ張った。「……すぐに収まるから」

「でも……それがあの事故の影響だったとしたら、ちゃんと病院で診てもらったほうがいいわ」

「大丈夫だって!」

 康平は搾り出すように言うと俯いた。「前より良くなってきてるんだ……いつか治るよ」

「前からって……それじゃ、ずっとなの?」

 そっと康平の背中を摩る。

「夜になるとね……」

 康平は大きく深呼吸してから顔をあげた。「……でもだいぶ良くなってきた」

「康平……」

「もう大丈夫だから」

 康平は握っていた美夕の手をそっと離した。

「でも――」

「大丈夫。心配いらないって。俺はもう一眠りするよ」

 康平はそう言うと弱々しくも笑って見せた。それが無理に作った笑みであることは明らかだったが、美夕にはそれ以上何も言うことが出来なかった。

 本当にこのままでいいのだろうか、と迷いながらも美夕は自分の部屋に戻った。

 眠れなかった。

 康平のこと。そして殺された雛子のことを思った。

 朝日が昇ったとき、携帯電話が鳴りはじめた。

 北条からの電話だった。


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