5.友情・5
ベッドに寝そべりながら考えを巡らせる。
ゲームによる事故。システムを開発した名波の死。そして、雛子の死。
雛子のことを考えると、気持ちが重くなる。
それでも考えなくてはならない。
全ての可能性を排除してはならない、と北条は言った。雛子の過去と事件が何かしら関係しているというのだろうか。
なぜ雛子は殺されなければならなかったのだろう。
だが、いったいそこにどんな繋がりがあると言うのだろう。
拓也が言うようにゲームプレイヤーは1000人近く存在している。しかも雛子はそのプレイヤーですらない。それなのになぜ彼女が殺されたのだろう。事故が原因と考えられなくもないが、そう考えるとゲームとは無関係ともいえる雛子が殺された理由がわからない。
(マーテルの塔)
そこでいったい何があったのだろう。それが思い出せれば誰が雛子を殺したのかもはっきりするのだろうか。
だが……
あの時のことは未だに何一つ思い出すことが出来ない。
(いや……)
ふと、先日の夢のことを思い出す。暗く埃っぽい塔の階段を登る夢。あれはただの夢なのだろうか。ひょっとしたらあれはゲームのなかで見た光景なのではないだろうか。
(真奈美!)
ハッとして起き上がった。
あの夢がゲームのなかの光景だとすれば、真奈美もまたゲームに参加していたことになる。そして、あの事故の時、一緒に『マーテルの塔』にいたのかもしれない。
美夕はベッドから立ち上がると、携帯電話と財布を手に部屋を飛び出した。階段を駆け下りて玄関で靴を履こうして、美夕はピタリと立ち止まった。
(違う……)
真奈美がゲームなどするはずがない。
そもそも、今更、そんなことを聞くために真奈美に会えるはずがない。
――私のことはもう放っておいて!
真奈美がそんなことを気にしていないのは先日の様子を見てもわかっている。それでも、自分の気持ちのなかに、そのことに対する抵抗感がどうしても消えない。
じっと立ちすくんでいるとリビングから咲子が顔を出した。
「何? もうすぐ夕飯だっていうのにどこか行くの?」
「うん、ちょっと……」
そう答えたものの足を動かすことが出来なかった。会いたい。会って話をしたい。けど、会えない。
「ちょっとじゃないわよ。良い年した娘があんまりフラフラ出歩いちゃだめよ」
まるで咎めるような口調で咲子が言う。
「別にフラフラなんてしてないわよ」
思わず言い返す。
「明日にすればいいじゃないの。今日も高校生が通り魔に殺されたらしいわよ」
「え? また通り魔? どこで?」
美夕はドキリとして訊いた。
「六本木ですって。さっきニュースに出てたわよ。まったく物騒だこと。あなたも気をつけなきゃだめよ」
全てを聞きおわる前に、手に持っていた携帯電話が鳴り出した。美夕はすぐに電話に出た。
――長瀬さん。
拓也からだった。
「西岡さん、どうしたんですか?」
――今、警察から俺のところに電話があった。
「警察?」
――仲崎君が殺されたそうだ。六本木の駅のトイレで刺されたんだそうだ。
「え……」
言葉を失った。「それじゃニュースでの……殺された高校生って……」
――彼のことみたいだ。
「そんな……」
――君が言っていたように、雛ちゃんが殺されたのもあのゲームに関係していたのかもしれないな。
美夕は玄関先に力なく座り込んだ。
雛子に続けて仲崎までが殺された。その現実をどう受け止めればいいのかわからなかった。