表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リアル  作者: けせらせら
12/38

3.記憶・2

「なんかあの人好きになれないなぁ」

 仲崎たちと別れた帰り道、雛子は空を仰ぎながら呟いた。

「どうして?」

 肩を並べて歩きながら美夕は訊いた。

「……なんとなく」

「ひょっとして『レクス』って人が原因?」

『レクス』の話になった時、雛子が珍しくムキになって言い返していたことを思い出す。

「だって、あんな言い方するなんてさ」

 雛子は頬を膨らませた。

「雛子は『レクス』って人のこと知ってるの?」

「よく技術系のサイトでチャットとかすると、その名前を聞くことが多いよ。3年くらい前にネットの世界に現われたんだけど、その技術はグンを抜いてるって噂なんだ。カッコ良いよねぇ」

「カッコ良い? 顔、知ってるの?」

 雛子はすぐに首を振った。

「まさかぁ。名前しか知らないわよ」

「それじゃカッコ良いかどうかなんてわかんないじゃないの」

「違うの。見た目はどーでもいいの。あたしはその存在に憧れてるの」

「存在? ただ噂でしか知らない人の存在?」

 その雛子の感覚がわからず、美夕は首を捻った。

「あたしが憧れるのはあたしとは違う存在感なんだ。あたしはそんな人より秀でたものなんて持ってないから」

 呟くように言った一言に美夕はドキリとした。自分とは違う存在に憧れる気持ち。それは美夕にもよくわかる。

「雛子には雛子しか持ってないものあるじゃないの」

 そう……

 雛子は自分とは違う。ずっと特別な存在に見える。

「そんなことないよぉ。あたしは美夕ちゃんとは違うもの」

 雛子は大きく首を振った。

「私?」

「あたし、去年、美夕ちゃんを見てて思ったんだ。この人はあたしなんかとは全然違う人なんだって。あたしみたいに周りに流されるだけじゃなく、自分自身をすごく強く持ってる人なんだって」

 雛子はそう言って美夕をじっと見つめた。

(違う)

 自分はそんな人間じゃない。そう叫びたくなるのをぐっと押さえながら、美夕は顔を反らした。

「何言ってるのよ。雛子は私を誤解してるのよ」

「違うよ。あたしは――」

「やめて!」

 思わず声をあげた。

 雛子の言葉はただのお世辞かもしれない。それでも、今の自分を誤解して見ている雛子の視線に耐えられなかった。

 違う。

 自分が望んでいるのはこんな自分自身じゃない。

(私が憧れていたのは――)

 ふと頭に浮かぶ真奈美の姿。

 それをどう言葉にしていいかわからず、驚いている雛子の視線を避けるように美夕は俯いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ