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リアル  作者: けせらせら
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プロローグ

   プロローグ   


 私は平凡な人間だ。

 おそらく世の中の多くの人がそうであるように、私もまた自分自身をそう思っている。

 容姿も普通。決して通りすがりに、多くの人たちから振り返られるような存在ではない。テレビに登場するような特別な才能なども有りはしない。

 それは子供の頃から常に私にとって大きなコンプレックスとなっていた。いつも周りを眺めては自分の存在の平凡さにため息をつく。平凡であるが故に非凡な存在に憧れる。

 そんな私に小さな光が当たったのは小学校3年の時。

「美夕ちゃんは頭がいいわね」

 担任の幸恵先生がそう言ってテストの答案を返してくれた。その時、100点を取ったのはクラスで私一人。それは別に頭が良かったからじゃない。先生が言ったところをマジメに勉強しただけのことだ。けれど、そんなことでも自分にスポットライトが当たることは喜びを感じずにはいられなかった。

 これだ。これならば自分を特別な存在に変えることが出来る。

 それから私は努力を続けた。唯一、自分のなかで誇れるもの。それを得るために私は努力を惜しまなかった。もちろん他の子と同様、私だって勉強が好きだったわけじゃない。もっと友達と遊びたい。机になんて向かっていたくない。それでも私はその欲求を抑え、出来る限りの時間を学校の勉強へとあてた。努力のかいもあって、次第に私はクラスの中で優等生と見られる存在へと変わっていった。その視線に私は酔った。だが、油断は出来ない。それは本当に頭が良いというわけではなく、ただの努力の賜物でしかないことを私は知っていた。私はそれまで以上に机に向かうようになった。周囲は敬意の目で見てはくれたが、親しく接してくれるわけではなかった。むしろ、勉強を優先する私に対して、友達は少しずつ減っていった。それでも私は生活を変えようとはしなかった。再び平凡な存在に戻ることが怖かったからだ。

 高校受験が近づいた時も私は努力を止めてはいなかった。

 都内でも有名な進学校に私は挑んでいた。それでも担任も両親も決して私が失敗することなど考えもしなかった。そう。当の私も100%の自信を持っていた。

(私なら大丈夫)

 揺らぎない自信だった。それは体調が悪い試験の当日でも変わらなかった。ほんの少し熱があるだけ。そんなことが自分の未来を左右するはずもない。そう思って私は試験へ望んだ。

 だが、それは間違っていた。

 合格発表の日、私の受験番号はその場に存在していなかった。

 その瞬間、私は全てを失った。

 それから、何度夢に見たことだろう。

 自分の番号の存在しない壁に貼られたあの白い紙。

 あの瞬間、私のなかの時が止まった。シンデレラの魔法が一瞬にしてとけるように、かつての平凡な女の子に私は戻っていった。

 私の心はもう前に向かって進もうとはしなかった。

 惰性。

 目標も夢も失った。ただ、毎日を淡々と過ごす。

 以前とはまるで生活のリズムが変わってしまった。

 自分の周りだけが時を刻む。

 こんな生活を望んでいたわけじゃないのに……

 もっと自分の足で前へ進んでいきたいのに……

 それなのに、ここから逃れることが出来ない。

 ほんの小さな躓き。いずれそれは長い人生のなかの些細な若き日の出来事と言える時が来るのかもしれない。けれど、今の私にはその小さな躓きが大きな足かせとなって、未来へ進もうとする気持ちすら萎えさせる。

 忘れてしまいたい昨日の自分。けれど、新たな自分を作り出すことが出来ずにいる。

 ぼんやりと空を見上げ、青い空に浮かぶ雲をいつまでも眺めている。

 どこへ向かえばいいの?

 何をすればいいの?

 誰かに助けを求めてみても、どこからも答えがあるはずもない。

 私の声は、ただ、風の音にかき消される。

 空虚な時の流れに身を委ね、私は私を見失う。


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