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『本当の幸せ』って何だろう?


 それはきっと、人それぞれで違うと思う。

 愛だと言う人もいるだろうし、お金だと言う人もいるだろう。

それらは全て正解で、何一つとして間違っていない。

 だけど、もし僕がその質問に答えるなら、少々趣向の違う回答をする。本当に幸せな人生はきっと、愛やお金なんて単一の言葉で表すことはできない。

 僕が思う『本当の幸せ』は、『自分のやりたいことをやり続けること』、だ。

 愛でもお金でも……大切な人でも。自分が欲しいと思うものを必死になって追いかけることだ。

 それがどんなに、他人から見て下らないと笑われることでも関係ない。

 僕は、僕が本当に欲しいもののために、一生懸命生きていくんだ。



「新見さん! 助けてください!」

 パソコンの作業を休憩して窓の外を眺めていると、隣から悲鳴が聞こえた。

 振り返れば、今年の春に入社した女性編集者が半べそをかいている。やり手の彼女にしては珍しいことだ。

「どうしたの?」

「すっごく迷惑な人が来ているんです! 純文学を扱っている賞なのに、その……ひ、卑猥な内容の作品を応募したいらしくてっ。何度説明しても聞いてくれないんです!」

 なんて横暴なのだろう。作家というのは気難しい人が多いけど、最近は話のわかる人の方が断然多いというのに……。

「わかった。僕が行くよ。どこ?」

「四番ブースです」

 四番は別室にあるため、二人してオフィスを出る。移動中、彼女が珍しそうに僕のネームプレートを見てきた。一応、役職がついている。

「それにしても、新見さんってすごいですよねー。まだ二十歳でしょう? あ、す、すいません!」

「いや、いいよ。僕の方が年下なんだから、本来は僕が敬語使うべきだし」

 名前を呼ぼうとして、彼女の名前を覚えていない事実に冷や汗が出る。……ヤバい。相変わらずのコミュ障だ。いや、それとこれとは別次元の話な気もするけど。

「入社して三年目なんですよね? どうやったらそんなに成果が出せるのでしょうか?」

「うーん……やりたいことがあるから、かな」

「やりたいこと……。作家さんと協力して素晴らしい本を作る、とかですか?」

「あはは……実は、全然違うんだ。ちょっと、会いたい人がいるんだよ」

「あっ、わかります! 好きな作家さんに会えるのって、編集者の特権ですもんね!」

 そんなことを話しているうちに四番ブースに到着した。

 中からは激しい怒声が聞こえてくる。

「なんでこの作品の良さがわからないんだよ!? 数百本もAV見て研究した最高の官能小説だぞ!? 責任者呼べ、責任者!」

 乱暴な口調だが、それは女性の声で紡がれていた。

 ドアを開けると、後ろを向いている作家さんが目に入る。

 すとん、と腰の辺りまで流れ落ちた癖のない黒髪。忙しなく動かしている手の爪には、ピンクのマニキュア。そして、明らかに一般的ではないフリフリのドレス。

 僕は余裕の表情で部屋に入る。

 彼女の名前を呼んだ。


「お待たせしました、×××××さん――――」




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