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真・恋姫✝無双 魏国 再臨  作者: 無月
乱世 始動
86/111

66,呉にて 暗躍 【七乃視点】

週末忙しくなるので、今日投稿します。

感想の返信も日曜か、月曜になると思います。


恋姫の公式において、『唯一の悪人』と呼ばれる彼女の視点をどうかご覧あれ。

「美羽様、ちゃんとお休みになられましたかー?」

 小さな声で寝台の上で眠る愛らしい幼子の顔を覗けば、そこにはそれはもう可愛らしい寝顔を見せてくれる愛すべき美羽様が眠っていました。

「あぁ、なんて可愛いんでしょう。

 もう、食べちゃいたいですねぇ~」

 寝顔を脳内に刻み込み、木彫りにおこす際の感覚をしっかりと脳内で再現していると手がついつい動き出してしまいました。

 私個人で楽しむのもありですけど、美羽様の人形を欲しがる方は多いですからそちらにも良いお値段で売るとしましょうかね。美羽様の可愛い姿が見たいとか舞蓮様も書簡でおっしゃってましたし、何か有益な物との交換で差し上げるとしましょう。

「うぅ~、七乃、雪蓮姉様・・・」

 美羽様が瞳を閉じながら私を呼んでくれることに舞い上がりかけましたが、余計なのもついていますねー。

「それは駄目なのじゃぁ~・・・ うぅ、蓮華姉様が・・・」

 あらあら、夢の中の私達は何をしでかしているんでしょう。

 右手では毛布をかけ直し、左手は美羽様の綺麗な御髪(おぐし)と額を撫で、最後の仕上げとして可愛らしい額に口づけを落とす。

 雪蓮さんにばれたら酷いことになりそうですけど、これは美羽様の幼い頃から御傍にいる私の特権ですから、誰にも譲りませんし教えてなんてあげません。

「美羽様、どうかよい夢を」

 私は美羽様が起きない程度の声で囁いて、御部屋を後にしました。




「うまくいってるようですねー」

 美羽様の御部屋を出た後は、当然お仕事です。

 普通なら昼間にやるんでしょうけど、なるべく美羽様の御傍にいるためにはこの手の事務仕事はどうしても夜になってしまうんですよね~。

「まぁそれも、私がやっていることがやってることだからなんでしょうけど」

 そう言って私は覚えてしまったり、不要になった報告書を火にくべて処理していると、背後に黒い髪が揺れていました。

「そろそろ来る頃だと思ってましたよ、明命ちゃん。

 噂とか、あっちとか、こっちとか、うまくいってます?」

「七乃さんの所に来ると、自分が隠密であることに自信を失くしそうです・・・」

 大人しく姿を現して私の前に立った明命ちゃんの手にはいくつかの書簡があり、私は先程空きを作ったばかりの机の上へと乗せてもらいました。片づけてもすーぐいっぱいになっちゃうんですよねぇ。

 今夜は少し寝ないで頑張って、明日の美羽様の御昼寝の時間に私も寝るとしましょうかね。勿論、美羽様を抱き枕にして。

「明命ちゃんが残念な隠密である事実は脇に置いといて、美羽様が馬鹿なことをしてることは呉の民だけでなく、順調に諸侯達にも広がっていっているようですねー」

 一番上に置かれた書簡を軽く眺めつつ、策の進み具合に私は頷きます。

 まぁ、明命ちゃんだけでなく、思春ちゃんとかの呉の隠密達を総動員して流している噂なので当然とも言えるんですけどね。噂を流すのは隠密だけじゃなく、軍の上層に位置する人達が口にして兵達が聞いていれば民にも簡単に広まりますし、耳聡い商人達がそれらを聞き逃すなんてありえません。

「玉璽を人のお尻に押してみたり、玉璽を掲げて無駄に街を練り歩いたり、皇帝を自称して得意げに民を侍らせる美羽様はなんてお馬鹿で可愛らしいんでしょう。

 しかも策だから仕方ないとはいえ、玉璽をそんな使い方をしている罪悪感に苦しんでいる美羽様もなんて嗜虐心が煽られて・・・ あぁもう、たまりません・・・!」

 戻ってくるなり肩を落として、玉璽をビクビクしながら丁重に扱う姿がもう言葉に出来ないほど可愛いんですよねぇ。

「私、美羽様の貞操がとても心配になりました・・・」

 私がそんなことを考えていると視界の隅に映った明命ちゃんが少しだけ青い顔をして、美羽様の部屋がある方向へと視線を彷徨わせています。

「心配なんてしなくて大丈夫ですよ~。

 だって私が責任持って、ちゃーんといただいちゃいますから」

 その時こそ雪蓮さんとの決着をつけるときになるんでしょうけど、勿論私は負けるつもりなんてありません。

 勝負なんてようは如何に自分が勝つような試合を作れるかが鍵なんですから、あの猪突猛進な雪蓮さんにそんな高等なことは出来ないので大丈夫でしょう。力押し(脳筋)だからこそ油断出来ないのも事実なんですけどね~。もしくは冥琳さん辺りが協力しなければですが。

「それは大丈夫とは言わないと思います・・・

 というか、美羽様の可哀想な時が好きとか・・・ 本当に美羽様の臣下なのかを疑いたくなっちゃいますよ・・・」

「ふふふ、わかってませんねぇ。明命ちゃん。

 私の美羽様への愛を、そこらに落ちている愛と一緒にしないでくださいよぉー。私は美羽様のどんな表情も愛しく、心から愛しているんですよ。

 笑った顔も、怒った顔も、泣いた顔も、それらを一番に見るのは私であってほしい。

 なので、私は美羽様を守るこの位置を誰にも譲りません。

 美羽様が誰かに本当の恋をするまで・・・ いいえ、恋してなおも私が美羽様の御傍を離れるなんてありえませんね」

 恋焦がれて、落ちては実らせようとする恋なんかとは違う。かといって、雪蓮さん達のように親同士が知り合いというわけでもなく、古くから袁家に仕えているわけでもありません。当然、血の繋がりがあるわけでもない私と美羽様は言ってしまえば本当にただの他人同士。

 けれど逆手に取ってしまえば、私が美羽様を大切にすることに理由なんていらないということ。

「愛することは理屈なんかじゃないんですよ」

 『愛』とは何も『恋慕』だけを指し示すわけではないのですから。

「最後の一言だけなら、まともそうに聞こえるんですけどね・・・」

「失礼しちゃいますねー。

 その言い方じゃ、まるで私がまともじゃないみたいじゃないですかー。少なくとも、雪蓮さんや槐さんよりはまともなつもりですよ?」

 雪蓮さんは頭があれですけど、槐さんは頭がいいのにあれですからねぇ。

 今まで会ったことのない変人だったので出会った当初は驚かされてばかりだったものでしたし、扱いがわかると報酬が本一択でいいので結構楽でしたけど。

「まぁ、それはともかくとして・・・」

「七乃さんが率先して話を逸らしてた癖に?!」

 明命ちゃんからもっともな文句が出ましたけど当然聞こえないフリをして、机の一番上の段から先日美羽様に作って差し上げた木彫り(にゃんこ)の余りを投げておきます。

「お、お猫様あぁぁぁーーー!」

 なんだか必死に受け取ろうとする姿を見てると、今度柘榴さん辺りに海に向かって思いっきり投げてみて貰いたくなりますねー。いつもこっちとあっちの連絡役をしてくれてるお礼の品なので、流石にそんなことはしませんけど。

「で、どうでした?

 私が唆した人達はうまく動いてくれましたかね?」

「あっ、はい!

 袁術軍の一部の将兵は七乃さんの予想通り軍備を整えて、どこかに侵略活動をするようです。そして、その矛先はおそらく・・・」

「劉備さんか、曹操さん、と言ったところですよねー」

 私が言葉を続ければ、明命ちゃんは頷いてくださいました。

 まっ、当然ですよね。私がそう言う風に誘導しましたし、そのために美羽様があんなお馬鹿な行動をしてもらっているんですから。

「その、お聞きしてもよろしいですか?」

「はーい?」

 明命ちゃんの控えめな発言に問い返せば、ややうつむきがちに尋ねてきました。

「この策は一体、何を目的にしているんですか?」

「あー・・・ 槐さんとか冥琳さん、それから穏ちゃんか亜莎ちゃん辺りに聞いてません?」

「はい・・・

 『これの発案は槐だが、主軸を担っているのは七乃だから当人に聞け』と言われまして」

 うわぁ、私に説明をぶん投げましたか。どっちが言ったか知りませんけど、発案の発端となったのは槐さんの行動なんですけどね。

「えーっと・・・ どこから話しましょうかね。

 まず、美羽様にお馬鹿な行動をしてもらった理由はわかりますか?」

 普段あまり下の者に説明とかしないので、人にものを教えたりするのって苦手なんですけどねー。

「はい。

 それは美羽様を袁家から遠ざけるために必要な手段だと」

「うーん・・・ 正確には違いますねぇ。

 この策の全てが美羽様を袁家から切り離すための策であり、それは始まりでしかありませーん」

 これは策であり、儀式。

 美羽様を守るため、大陸のしがらみから解放させるために用意された大袈裟で、大掛かりな儀式。

「まず美羽様に奇行を演じてもらうことによって、元々険悪な関係を演じていた中に孫家が私達を討つに足る明確な建前を用意しましたー。

 当然、この軍の武なんて大したことありませんし、すこーし噂を弄って孫家の恐ろしさをありのままに耳に入れておきます」

 美羽様を(たか)ろうとする邪魔な虫をあぶり出し、元となる関係も断ち切り、こちらに火が飛ばないように念入りに隔離していく。

 儀式の生贄は哀れな虫、祓うは呪いにも似た袁家という繋がり。

 そして、守るべきは美羽様と美羽様を守ろうと包み込む同朋と言っても過言ではない獣達。

「すると、もう袁術は長くないとわかった将兵達はここを見限り、その中でも袁本家と繋がりがある者達はただでは帰れないと思って、劉備さんや曹操さんを始めとした近隣諸侯さんにいろんな迷惑をかけて凱旋しようとするんですよ」

 私がそこまで言いきってニコリと笑うと明命ちゃんの表情は固まり、顔は少しだけ青くなっていってしまっていますね。

 あらあら、こんなことで怖がったら、槐さん達の前になんて立てないと思うんですけどねぇ? 何せ槐さんはこれを見越して玉璽を確保し、私に投げて寄越したんですから。

「けれど彼らは愚かで、馬鹿で考えなし。袁家に縋って甘い汁を吸うことしか考えにありません。

 彼らはきっとどちらの軍に向かっても・・・ いいえ、軍を割って両方に向かっても大したことは出来ず、まず間違いなく返り討ちにあい、ぼろぼろになっちゃうでしょうね」

 私があっけらかんと言い放つと、明命ちゃんの表情には驚きの方が強くなっているように感じられました。

 まぁ、驚きますよねー。

 ましてや『自分達の土地を守りたい』と思って動いている孫家の方々には、まず理解できないことでしょうから。

「ま、さか・・・ そんな兵の命も、土地も失うような策を・・・」

 兵の命、土地・・・ 私にはどうだっていいようなことばかりですね。

 そんなもの、いくら失ってもかまわないんですよ。

 その程度で美羽様を守れるなら、叡羽(エイハ)様の時のようなことを繰り返さずに済むのなら、私は喜んで差し出しましょう。

 ただ一輪のために周囲が枯れ果てても、その花が美しく在り続けるに必要だというのなら仕方ないですよね?

「ねぇ、明命ちゃん。

 『弱い』ってことは、善良なんですか?」

 正直、私には劉備さんの『民や弱い人達を守る』っていう考えは理解出来ません。

 弱いって、そんなに尊いですか?

 弱いということが純粋であり、善良で、慈悲に溢れて、美しいことなんですかー?

 弱いから嫉妬して、奪おうと野望を燃やして、人の影に隠れてあたかも自分は被害者だとでも偽ることが正しいんですか?

 強者同士のぶつかり合いの果てに生まれた敗者へと、泥を投げる者達が善良なんですか?

「え・・・」

 私の理不尽な問いに戸惑う明命ちゃんが憐れなので、私はいつも通り笑って首を振りました。

「私は、ぜーんぜんそう思ってません。

 命令でやったから、家族を脅されたから、弱いなりにも守りたかったから・・・ 理由はいろいろ浮かびますけど、『だから、自分は許してほしい』なんて言って命を乞う奴なんて塵以下だと思うんですよね。

 もっと言ってしまうと私は別に美羽様が生きていればいいですし、美羽様を包む環境が優しいものであるなら、誰がどれだけ死んだってかまわないんです」

 民の命は優しい美羽様の希望もあって出来る限りは被害が出ないようにしてますし、劉備さんや曹操さんの所に突っ込んでいくのも厳選しましたけど、美羽様の御言葉がなければ私は証拠隠滅のために皆殺しにするつもりでした。

「それに仮に孫家(雪蓮さん達)が袁本家とぶつかるつもりなら、少しでも時間を稼いだ方がいいでしょう?」

 いらない人員も切り捨てられますし、土地を奪われても曹操さん達が整備してくださいますし、袁本家からこちらを守る壁にもなってくれる。なんて素敵な策でしょうね。

「明命ちゃん、いいですか?

 大切なものはけして揺るがしてはいけませんし、増やしてはいけないんですよ。

 私は美羽様を守るためなら一切容赦はしませんし、美羽様とその環境以上に守りたいものなんてありません」

 もしこの考えが純粋な悪であったとしても、誰かに『悪だ』と罵られても、それすら私にはどうだっていいんです。

 何故なら私に、大切なもの以外への関心なんてないんですから。



 私の言葉の後、しばらく重い沈黙が訪れてしまったので明命ちゃんにお茶とお菓子を振る舞えば、どうにか柔らかな空気になってくれました。

 あんまり言い過ぎると仕事にも支障をきたしますし、冥琳さん達にも何か言われかねませんからね。

「その、七乃さん・・・

 さっきの言葉の中に、私達は含まれているんでしょうか・・・?」

 不安そうに向けられる視線に、言い過ぎてしまったことを少しだけ後悔してしまいますねぇ。

「こうしてお茶を出したり、お菓子を振る舞う時点で気づいてくださーい。

 あなた達孫家は美羽様にとって、なくてはならない環境ですから」

 蓮華さんから袁術として死んだ美羽様の公の名前も、提案されているぐらいですからねぇ。孫皎(そんこう)、とか言ってましたっけ?

「そうですよね。すみませんでした! それとありがとうございます!

 私、もう行きますね!!」

「いえいえ、私もつい雪蓮さんにするときのような感覚で言葉をきつくしてしまいました。

 あ、それから一つ、蓮華さんに『雪蓮さん達の行動には気を付けた方がいいですよ』って言っておいてください」

 椅子から立ち上がって窓から出ようとする明命ちゃんを呼びとめて伝言を託せば、『今更言うまでもないような・・・』という苦笑が浮かびますが、私は大袈裟に肩をすくめてさらに言葉を足しておきます。

「動き出すのは、何も外だけとは限りませんからね。

 とにかく、雪蓮さん達には気を付けてー」

 明命ちゃんの姿が消えたことを確認しつつ、私は一つ溜息を零してしまいました。

「まぁ、本当は雪蓮さんがやることなんて半分くらい予想がついてるんですけどねー」

 全部教えてあげてもよかったんですけど実行に移したい雪蓮さんの気持ちもわかりますし、冥琳さんと柘榴さん、槐さんにずっと呉に籠ってろなんて酷でしょうから。

「それに、これも必要なことですからね」

 美羽様は悲しまれるかもしれませんけど、雪蓮さんにしては頭を使った方だと思いますし、私も援護してあげるとしましょう。

「雪蓮さん達に、一つ貸しを作るとしましょうか」

 そう言って私は、鼻歌を歌いながら雪蓮さん達が飲んだくれてるだろう酒家に向かって歩き出しました。


流石七乃、黒すぎる(褒め言葉)

彼女にとって孫家は、自分の可愛い美羽を守ってくれる幼馴染のような存在なのです。


次も本編。主人公の視点に戻り、数話ほど続く形になると思います(連続投稿という意味ではない)

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