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真・恋姫✝無双 魏国 再臨  作者: 無月
反董卓連合
79/111

59,西涼の狼 後編

この前に、前編を投稿しています。

「すまないね、ウチの娘が」

 馬岱殿が去った後、馬騰殿は頭痛を堪えるように頭に手を当て、首を振る。

「いいんですよ。

 彼女は何も間違ったことを言っていませんし、真っ直ぐで正義感のある娘さんじゃないですか」

 他の陣営から見れば、俺が行ったことなんて無に等しい。

 しかも正式には『英雄』が成した戦線の維持と民の保護も、実際は牛金が行ったことであり、俺自身が行ったことではなかった。

「あぁして、直接誰かに物申せるのは一つの才能ですしね」

「あんなの才能なんかじゃないさ、ただ青いのさ」

 そう吐き捨てる馬騰殿にこっそりと溜息を吐いていると、見慣れた紅梅色の髪が視界へと映る。

 えっ、舞・・・

 訪れるとは思っていなかった彼女の突入に、俺は呆気にとられて声も出なかった。

「まったく、浅葱は相変わらずね。

 そんなんじゃ、娘を成長させるどころか、むしろ成長を止めちゃうわよ?」

「ハッハッハ、ちょうどいい所に来たねぇ。舞蓮。

 あんたの一番の上の娘を戦場で見かけたが、あんたそっくりすぎてどういう子育てをしたか気になってたんだよ。

 さぁ、是非詳しい話を聞かせてもらおうか」

 互いに満面の笑みのまま、静かに睨みあう二人に俺は頭痛を覚え、頭を押さえてしまう。

 もう舞蓮に対して『どこにいた』とか、『いつ来た』とかという問答は無駄だからしようとは思わない。それに馬騰殿は舞蓮が生きてることを知ってるから構わないし、それどころか舞蓮は殺しても死なないとすら思っている節があるように感じられる。

 だから、かまわない。

 けど、今この瞬間に乱入しようとした理由を半刻ほどじっくりと問い詰めたい。

「あら、私は別に特別なことはしてないわよ?

 あの子が馬鹿なのも、戦闘狂なのも、全部あの子自身が選んだことだし、自分で作っていった性格だもの。

 親が過剰に口出しして子どもの性格を作るのも、道を用意するのもおかしな話じゃない?」

「そうやって放っておいて、もしものことがあったらどうすんだい。

 自分がした苦労を、わざわざに子どもに経験させるこたぁない。その上で自分の知ってる全てを子どもに託して何が悪い?

 その上で選ぶのはあいつ自身であっても、どうしても背負わなきゃいけないものはあるもんなんだよ」

 そんな俺の心境を察することもなく、それどころか見もせずに口喧嘩を始める二人は互いに一歩も引こうとはしない。

 むしろ言葉を交わすごとに距離は縮まっていき、次の瞬間には額同士をぶつけ合った。

「何よ、それ。

 義務も、経験も、やりたいことも、私達()が見つけてやることなんかじゃないわ。

 自分の力でぶつかって、勝ち取って、途中ですっ転ぼうが、川を泳ぐことになろうが、その果てで見つけたものにこそ価値があるんじゃない。

 親に導かれなきゃ歩けない人生なんて、何のための人生よ?

 他人に押し付けられた信念なんて脆くて頼りないものに縋るより、何に汚れようとも自分の中で打ち立てた信念こそ背中を預けられるもんでしょうが!」

「アタシ達の立場は途中で放り出していいもんなんかじゃないってことぐらい、馬鹿なあんたにもわかるだろう。

ましてや、アタシ達が行うことには責任も、犠牲もついて回るんだ。

 娘が馬鹿みたいな失敗をするのを防ぐべきだし、その命一つでどれだけ多くのことが左右されるかを考えたことはあるのかい?

 すっ転んでも、泳いでもなんて言うが、その背についていった奴らの命ものせてるアタシらの立場に、そんなことは許されないんだよ!」

「そもそも私は、あんたの親の立場や責任をそのまま娘に受け継がせるっていうのが気にいらないって言ってんのよ。

 あの子達の人生はあの子たちの物。

 人生っていうのは、誰にも縛られないで自由であるべきだし、自分で選ぶものよ!」

「そう言うお前も、娘たちに随分重たいものを背負わせてるんだろうが!

 大体、その自由の果てにあんたが押し付けた物をどう説明する気だい?!」

「いいえ、背負わせてなんかいないわ。

 一番上の娘も、二番目の娘も、ちょっと奔放な三番目も、全部やりたいようにやってるもの。

 好き勝手するって決めた娘も、勝手にやり遂げるって決めた娘も、まだまだ道を決めない娘も、ぜーんぶ自由よ!」

 二人の言葉は途切れることもなく続いていき、俺はおもわず溜息が零れる。

 教育に非常に熱心な馬騰殿と放任主義の舞蓮。

 正反対の二人の教育論はどちらも間違いとは言えないが、お世辞にもどちらも娘とうまくいくとは思えなかった。

 現に蓮華殿は舞蓮の自由さで苦労しているし、馬騰殿と馬超殿は間に入っている馬岱殿が苦労しているということはさっきのやり取りで一目瞭然。

「兄ちゃん、頑張って」

「ありがとう、季衣」

 季衣に励まされつつ、いい加減止めに入るために俺は二人の間に立った。

「非常に興味深い話ではあるんだけど、娘の教育論は他所でやってくれないか? 二人とも」

 間に手を入れて距離を取らせつつ、二人は俺の方を睨んで矛先を俺へと向けようとしている。

 一瞬、ヤバいかもなぁと思ったが、背後に立ったまま無言を保っていた白陽が動いてくれた。

「そこの虎はとりあえず捨て置くとして・・・ 馬騰殿、あなたはここをどこだかわかっていますか?

 この場はけして・・・」

 が、白陽の言葉を最後まで聞くこともなく、二人はほぼ同時に不思議そうな顔をして首を傾げた。

「「()っ? 将来の夫の幕だけど(だが)?」」

「ほぅ・・・」

 一見は普通に返し、怒りを見せないようにしているけど、確実に怒ってるよな? 白陽。

 言った当人たちも、『何であんた(お前)も言ってんのよ(るんだ)』と言わんばかりにまた睨みあいを始めてるし・・・

 ていうか舞蓮はわかってたけど、どうして馬騰殿にまで言われるんだ? 俺、別にこれといったことしてないよな? 病気の件だって俺がしたことじゃなくて華佗がしたことだし。千里殿に『女狼だから』とか注意されたけど、好意は向けられても恋愛感情を向けられる心当たりがないから大丈夫だと思ったんだけどなぁ・・・

「兄ちゃん、もってもてだねー。

 僕も兄ちゃんのこと、だーい好きだよ」

 疲れた顔をしている俺へと満面の笑みで抱き着いてくる季衣に癒されつつ、二人も優しい目を季衣へと向けていた。

「はぁ・・・ なんか毒気が抜かれちまったよ」

 馬騰殿は季衣の頭を撫で、一つ大きく息を吐いて、そんなことを口にする。

「あら、よかったじゃない。

 私に感謝しなさいよ」

「あんたじゃぁないよ。

 まったく、あんたは・・・ 死んだと聞いてこっちは清々してたってのに、生きてやがった挙句、赤の遣いのところに居座ってる?

 相変わらず、やることなすこと憎ったらしいったりゃありゃしない」

 そんなことを言っているのにも関わらず、馬騰殿の表情はどこか嬉しそうに笑んでいて、舞蓮の肩を拳で軽く叩く。

「それはお互い様でしょ?

 あんたのことを私が噂程度でしか知らないとでも思ったら、大間違いなんだから。

 私もあんたのクッソ真面目で頑固な所が、中央に居た頃から大っ嫌いだったし。

 ホント、あんたと私を真逆の位置に左遷した王允の糞爺にそれだけは感謝してるわよ」

 舞蓮も同じように馬騰殿の肩を叩き、馬騰殿はわずかに笑って背を向けた。

「ふんっ、それはこっちの台詞だよ」

 舞蓮に対してそう吐き捨てつつ、馬騰殿は出入り口の前で止まって俺へと視線を向ける。

「じゃ、邪魔したね。英雄殿」

「いえ、こちらも有意義な時間を過ごせましたよ」

 情報交換も、馬超殿の真っ直ぐな気持ちも、漢を守る西涼の英雄と言葉を交わせたことも全部。

「迷惑ばっかりかけちまったってのに、そう言ってもらえると救われるねぇ。

 それじゃ、アタシはこれで失礼するよ」

 そう言って幕の外へと歩み出した馬騰殿は何かを思い出したのか足を止め、こちらを振り返ることもなく問う。

「あぁ、そうだ。

 この軍に新しく入ったって噂の、将の名はなんてんだい?

 確か張遼と徐庶、賈詡・・・ それと・・・」

「徐晃と申します。

 なかなかの逸材を拾い、我が主も大層喜んでいましたよ」

「そう、かい・・・

 アタシも縁あってそいつのことを少しばかり知ってるが、穏やかな癖におっそろしいほどの強さをもった奴だ。

 あんたなら心配はないだろうが、大事にしてやっておくれ」

 俺の簡潔な答えに対して返された言葉は、少しだけ嬉しそうに聞こえた。もっとも、俺の気のせいかもしれないが。

「えぇ、我が主は才ある者を愛し、尊びます。

 彼女の才能もまた、我が主の元で光り輝くことでしょう」

 俺の言葉に彼女は返すこともなく、ただ黙って右手を振り上げて去っていった。その後ろ姿が完全に見えなくなったことを確認してから、俺は苦笑してしまう。

「本当に、敏い方だな」

 おそらく馬騰殿は月殿達と何らかの交流があり、武のことも含めて知っていたのだろう。

 俺がしたことまではわかっていなくとも、彼女が生きているかもしれないという望みをかけて、俺に鎌をかけた。

「いいのですか? 冬雲様。

 仮にこの事を外部に漏らされれば・・・」

「仮に漏らされても誰も信じないし、あの人はそんなことしないさ」

 心配する白陽の頭を撫でつつ、俺は幕へと戻る。

「さぁ、戻るまで復興作業へと従事するとしよう。

 舞蓮はいてもかまわないけど、あんまり周りを怒らせるなよ?」

「わかってるわよー。

 私は冬雲と居られれば、それでいいんだから」

 注意しているにもかかわらず俺の背中にくっついてくる舞蓮に、反省の色はなかった。

「虎、あなたは元の幕へと戻ってもらいます。季衣殿」

「はーい。

 報告ついでに舞蓮様も連れていきまーす」

 流石にキレた白陽によって舞蓮が半強制的に追い出されることが確定し、季衣が軽々と肩に担いでいく。

「では、冬雲様。

 また後ほど書簡と共に戻ってきますので、わずかな時間ではありますがごゆっくりおくつろぎください」

 最後にそう言い残され、俺は言葉に甘えて、書簡地獄直前の余暇を楽しませてもらうこととなった。


とりあえず、本編も一段落したので次は白へ。

来週は白と、祭りの番外を投稿できたらと思っています。

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