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真・恋姫✝無双 魏国 再臨  作者: 無月
反董卓連合
64/111

48,虎牢関 初戦後 【雪蓮視点】

再臨本編の誤字等の訂正を行いました。


「さぁって・・・ 次は誰や?」

 まるで雨みたいに降り注ぐ返り血を気にしようともしないで、私達の視線の先で鬼神は笑う。

 鬼神が偃月刀の切っ先を揺らし、その背にわずかな部下を連れ、飛将はまるで自分が一つの関だとでも言うかのように動こうとはしなかった。

「来ないんなら、こっちから行くで?」

 何かを呟いて前線の諸侯へと切り込んでいく鬼神率いる騎馬隊が血路を創り、騎馬隊を逃れた者たちが飛将によって打ち上げられ、塵となって消えていく。



「アハハハ! 派手にやるわねぇ」

 普通なら恐怖を感じるんでしょうけど、生憎孫の血にそんなまともな思考なんて混じっていないのよね。

 孫の血は、闘争の血。

 孫の武は、略奪の武。

 今でこそ統治者なんてやってるけど、その始まりはただの略奪者にすぎないんだもの。

「ねぇ、柘榴。見た?」

「おーおー、さっきまではしゃぎまくってた諸侯がスゲェことになってんな。

 血塗れの鬼神に・・・ 飛将なのに不動ってか、そりゃ面白れぇわ」

 そっちに視線を向けることもなく話を振れば、柘榴は器用に喉の奥で笑ってる。

 昔っからそうよねー、柘榴のこの、猫とか虎が咽喉鳴らすみたいな笑い方は。

「ねぇ、柘榴」

 次々とあがる悲鳴、血飛沫、争乱の音。

 武器が合わさる暇なども与えられずに奪われていく、弱者の命。

 だけどそんなの私には関係ない。

 弱い者が死んでいき、強き者だけが力を振るう権利を得る。

 それがこの大陸であり、どれほどのものが拒んでも揺らぐことのない世界の真理。

「あんなの見せられたら、あなたも疼くでしょ?」

 なら、私にとって重要なのは強者のみ。

 この争乱の中で誰よりも血を浴びて、強さを示して前を行く姿から私達(武人)は目を逸らせない。

 私を震わせ、本能をたぎらせ、心を躍らせ、剣を交わす価値ある者。

 身分も、場所も、状況も、そんなものを放り捨てででも戦いたいと望ませてくれる者があそこにいるなんて・・・ ゾクゾクしてくるじゃない。

「・・・・そりゃ、な。

 俺だって根っからの武人だし、あんな武を見せつけられたら馬鹿だってわかってても、今すぐにでもあそこに駆けていきてぇよ」

 ほら、やっぱり。

 私と同じことを考えてるのが、こんな身近にいるんだもの。

「だけど俺ら二人が一気に飛び出したら、流石に冥琳と蓮華様にばれちまうぞ?」

「そんなのわかってるわよ。

 だから・・・・」

 どうせ飛び出したらわかっちゃうんだもの、それならあの子たちみたいに派手な方がいい。

「さーい! 柘榴がねーーー!

 『焦ったババァが既成事実作りに行くとか、必死すぎて面白すぎるわ』だってーーー!!」

「おまっ?!

 それは言わねぇって約束だろうが!!」

 お酒一瓶なんて、口止め料をけちる柘榴が悪いのよ。

 私がそう言おうとした瞬間、見慣れた矢が柘榴の足元に突き刺さる。

 流石祭、年齢に関して地獄耳ね♪

「ざ~く~ろ~~~!!」

「怒られる前に、私は先に行くわね」

 どうせばれたら怒られることに変わりはないんだから、怒られる前に別の問題を引き起こしてから飛び出しちゃえばいいじゃない♪

「ふざけんなよ、てめぇ!!

 洒落んなんねぇーぞ! クソがっ!!」

「柘榴は先に冥琳と蓮華様に怒られて、ついでに祭に追いかけられて、時間稼ぎしておいてねー♪」

 柘榴にこれ以上文句を言われる前に、私はもう前線へと向かって一直線に駆けだしていた。

 鎧なんて着ず、ありのままの姿で。

 それが孫の武、闘争の血。

 苦手だった父様と、目標で宿敵な母様から受け継がれたもの。

「おまっ・・・!? あとで覚えてるよーーーー!!」

 左腰に下げたままの東海武王を引き抜いて、口元は自然と弧を描く。

「あぁ、生きてるって楽しいわよね」

 お酒が飲めるのも、こうして古馴染みと馬鹿やれるのも、こんなゾクゾクとした気持ちも抱くのも、全部・・・ 生きているから。

 だったらもっと・・・ 楽しい事をしたいじゃない?

「あらあら、楽しいことしてるじゃない?

 私も混ぜて、頂戴よ!」




「って言って、威勢よく駆け出して負けてくるとか。ぷぷーーー!

 もう『小覇王』じゃなくて、『大敗王』とでも名乗ったらいかがですかー?」

「ぬぐぐぐぐ・・・」

 そして今、私は蓮華たちの前で正座しながら、七乃に指差されながら大笑いされてる。

 これ以上ない屈辱だけれど、実際一撃も与えられずに帰ってきちゃったし否定も出来ないのよね。腹立つけど。

「すげー活き活きしてんな・・・ 七乃」

 珍しく私の隣でも、叱る側である前でもなく、後ろにいる柘榴が呆れたような口調で言ってるけど、柘榴がしたことにみんな気づいてないのね?

「私が怒られるんなら、柘榴だって同罪じゃない!

 祭の事ババァって言ったし、助けに来たついでに鬼神を追いかけて行ったの、私知ってるんだから!!」

「てめっ?!

 一度ならず二度までも! 幼馴染売って恥ずかしくねぇのかよ?!」

 子どもじみた言い方だとわかっていても、柘榴だって同じじゃない。

「そっちは追いつけもしませんでしたけどね。ぷぷーーー!」

「「何でお前(アンタ)が知ってん()よ?!」」

 柘榴は私を見て、私は七乃を見ながら、七乃は指差す方向を変えて笑っていた。

「あっ、ちなみに柘榴。私は勘よ?」

「私は実力から見ての想像ですー」

「雪蓮の勘はおかしいし、七乃の想像はムカつくわ!!」

 私と七乃がしれっと答えれば、柘榴は声を張り上げて怒鳴る。

 けど、そんなの私達に効くわけないのよねー。

「柘榴、否定しないのね?」

 蓮華の何気ない問いに柘榴が驚いたような顔をして、すぐさま私と七乃を睨んでくる。

 その顔はいうまでもなく、『謀りやがったな、てめぇ』って書いてあって、私は勿論笑顔で『勝手に自白したんでしょ?』と返してあげる。

「一名様、ごあんなーい~~~」

 さっきから鬱陶しいほど上機嫌な七乃の言葉に後押しされるように、祭が柘榴の肩を叩いて、その首にしっかりと腕を回した。

「さぁ、馬鹿弟子よ。

 向こうで話と行こうか」

「祭殿、私もあとで行きますので、それまでよろしくお願いします」

「てめっ! 七乃!! 雪蓮!!

 二人して嵌めやがったなーーー!!!」

 まぁ、私があの状況下で後ろまで見てる余裕なんてなかったから、半分以上出鱈目だったんだけど。

 柘榴ってば、馬鹿正直なんだから。

「さぁ、大敗王さん。

 次はあなたの番ですよー?」

 心底楽しげに私を見下ろしてる七乃の表情に嫌な予感しかしなくて、私は助けを求めるように周囲を見渡した。

 まず目に入ったのは冥琳だけど、私に引き攣ったような笑顔を向けてる。助けてくれないわね、絶対。

 次は蓮華だけど、むしろ私を鋭く睨んできて、少しぐらいは皮肉を言われてくださいって言われてる気がする。助けてくれない。

 思春は見るまでもなく、蓮華しか見てないでしょうし、諦めたわ・・・

 これはもう、呉の癒しである美羽に助けを求めるしか・・・!

「まさか雪蓮さんともあろう人が一撃も与えるどころか、相手にされることもないなんて・・・ 初めてのことだったんじゃないですかー?

 しかも、同じように前線に出てきた錦馬超さんごと公孫賛殿に助けられるとか・・・ これが舞蓮様だったら、結果は変わっていたんでしょうねー?」

 そんな私の視線の先を先回りして、癒し(美羽)を隠すように立つ七乃に舌打ちをすると、お見通しだとでも言うように笑ってくるのがまたムカつくわね。

 それに私が相手をされなかったのは、別にこれが初めてじゃない。

 たった一人だけ、ずっと私を武人として見てくれなくて、ちゃんとした試合を一度もしてくれなかった人を私は知ってる。絶対に七乃には教えてやらないけど。

「いくら母様でも、あんなの相手で勝つのは無理よ!」

「『勝つのは』っていう辺り、舞蓮様なら打ち合えたことは否定しないんですねー?」

「・・・大体! 向こうが急に銅鑼鳴らして撤退するのが悪いのよ!

 突然鬼神が前線の諸侯たちの首ぶら下げたと思ったら、飛将を猫の子みたいに捕まえてさっさと関に入ってっちゃうし!

 麒麟は麒麟で私達見下ろしたと思ったら、槍投げてくるし!!」

 痛い所を突かれて私が捲し立てても、七乃はむしろさらに楽しげに笑って、私の頬を突いてきた。

「命拾いした上に、軍師によって追い立てられるなんて・・・ まさに大敗王の名にふさわしいですね。ぷぷぷっ」

「七乃・・・ そろそろいいでしょう?

 姉様も反省したでしょうし」

 蓮華がそう言いながら私と七乃の間に立ってくれるけど、これまでの七乃の言葉にそんな意味あるわけないじゃない。

「え?

 私のこれは別に、雪蓮さんに反省を促していたわけではありませんよ?」

「え? じゃぁ、何故・・・・」

 蓮華・・・ あんたって子はどうして聞いちゃうのよ。

 そんなの、答えは一つに決まってんじゃない。

「私はただあんなに威勢よく飛び出した挙句、功績をあげるどころか、相手にもされなかった雪蓮さんを笑いものにしてるだけですよー」

 やっぱり性格ひん曲がってるわよね、七乃って。

「・・・・美羽、あれをお願い」

「れ、蓮華姉様・・・・ 本当に言うのかのぅ?」

「えぇ、あなたにしか出来ないの・・・」

 頭痛を堪えるように頭を押さえる蓮華を心配するように寄り添う美羽が、蓮華と変わるように私と七乃の間に立った。

 そうして七乃へと体を向けて、両手を握って美羽が口にしたのは


「蓮華姉様を困らせる七乃なんて、大っ嫌いなのじゃ!!」


 あれ・・・? 私が言われたわけでもないのに涙が出そう。

 これって下手に殴られたり、説教されたりよりも辛くないかしら?

「げはっ!!」

 現に言われた側である七乃は血を吐いて倒れ、気絶しているように見えるのにその目からは滝のような涙が溢れていた。

 これは・・・ きついわね。

「み、美羽?

 わ、私の事は嫌いじゃないわよね?」

 私が恐る恐る尋ねるといつもは花のように可愛らしい笑顔を向けてくれる美羽が、返事もしないでそっぽを向いてしまう。

 その視線の先を追いかけてみれば、冥琳と蓮華が一緒になって美羽を労っているようだった。

 と、とんでもない罰を考えてくれるじゃない。

「して、雪蓮よ。

 実際のところ、お前の見立てで飛将の武はどうだったんだ?」

「あんな容赦のない罰を人に与えといて、そう言うのはしっかり聞くのね・・・」

 人の皮を被った獣が呂布や母様だとしたら、冥琳は鬼か何かかしら?

「あれを罰だとわかっているのなら、罪がなんだったかもわかっているだろう。

 鬼神については後で柘榴から聞くが、お前から飛将に対する忌憚のない意見が欲しい」

「さっきも言ったけど母様なら対等に打ち合えるでしょうけど、体力とかの面からまず勝てない。

 だけど私達じゃ、対等にやりあうだけの経験も技術もなくて、勝てっこない。

 もっとわかりやすく言えば、私があと十人いたらぎりぎり勝てるんじゃないかしら?」

「姉様が十人いたら倒れるわね、私」

 真面目に答えたのにさらっと酷い事を言う実妹。

 ていうか、どういう意味よ、蓮華。

「雪蓮さんが十人もいたら・・・ どうしましょう、私は笑い死にしてしまいます~」

「あんたはいつ、復活したのよ!?」

 ついさっきまで確かに倒れていた筈の七乃が立ち上がり、また笑いをこらえるように口を押さえている。

 でも、さっきの吐血と涙の痕は残ったままだった。

「ふむ・・・ だが、正直困ったな。

 この乱で功績をあげなければ、今後に関わる」

「ですよねー。

 今回、皆さんに功績をあげてもらって、こちらから離脱。

 そうしたら我々は、袁家に群がる者たちによって謀殺されたフリをして姿を消す~という筋書きから大きくずれてしまいますからねぇ」

 腕を組んで眉間に皺を寄せる冥琳に、七乃がいつものように笑ってそんなことを言ってくれる。

 うぅ・・・ そう言えばそうだったのよね、楽しくなってつい頭の隅にやっちゃってたけど。

「冥琳、七乃、実はそれについて槐から一つ、提案があったのよ」

 蓮華の言葉に笑っていた七乃すら目を開いて驚き、すぐさま嫌そうに目を細めた。

「えー・・・ 槐さんからだと嫌な予感しかしませんねぇ・・・」

「右に同じく。

 だが、あいつ自身からの政や戦に首をつっこんで何かを提案するなどとは珍しいな」

「ホントよねー。

でも大方、洛陽にでも忍び込んで、貴重な書物とかを漁って来るとかじゃない?」

 まっ、貴重な書物を漁る時点でいろいろな情報を得られるんだけど、まず槐の興味の対象に入るかが問題なのよね。

 ていうか、槐が洛陽で行うことってそれ以外想像できないんだけど?

「姉様以外にはあとで詳細を話すので、夜にでも集まってください」

「ぶー、蓮華ってば最近姉の扱い雑じゃない?」

 私に話す気はない蓮華に頬を膨らませて不満を言えば、蓮華はキッと睨んでくる。

「玉座を放りだした母と、戦況も考えずに突っ込む姉を持てば、誰でもこうなります!

 最近はシャオも姉様のように野生児になってきましたし、冬雲殿にはなかなか会えませんし、槐も柘榴も自分のしたいようにするし、冥琳はなんだかんだで姉様に甘いし、七乃は問題起こした姉様をからかって別の問題にするし・・・

 まったく! 揃いもそろって私を倒れさせたいのですか?!」

「それはその・・・・ 申し訳ございません」

「めーんご♪」

「蓮華さんはそう言う星の元に生まれたので、諦めてください♪」

 普段の愚痴とか、文句とか、自分の欲も入り混じった言葉に、名指しされた私達はそれぞれ適当なことを言う。

 冥琳だけはちゃんと謝ってるけど、私と七乃にそんな言葉が通じるわけがないものねー。

「えぇ、わかっていましたとも・・・!

 二人には言葉が通じないことなんて、これまでの経験から・・・!!」

 あーぁ、また蓮華が眉間に皺よせて震えてるー。

 原因の七乃に視線を向ければ、私と同じように視線を向けてくる七乃と目が合った。

 私達が視線での責任の押し付け合いをしていると、気まずくなった陣の中で可愛らしい足音に私達は同時に視線を変えた。

「蓮華姉様・・・

 ごめんなのじゃ・・・」

「美羽が謝ることなんて何もないわ。

 むしろこの中で一番まともなのは、美羽だもの」

 ちょっとそれ、どういう意味よ。蓮華。

「じゃが、雪蓮姉様が功績を取ろうとしたのも、七乃が妾の傍に居てくれるのも、冥琳姉様と蓮華姉様が辛そうな顔してるのも妾を袁家から・・・・」

「みーう!」

 泣き顔になってる美羽に耐えられなくなって、後ろから抱き上げる。

「しぇ、雪蓮姉様?!」

 驚いた顔から涙が落ちてきたっていい。むしろ、涙なんて笑いでなくしちゃいましょ。

「もう! かーわいいんだから!」

「雪蓮さーん?

 その位置を私に返してくださーい?」

 七乃が怖い目をしてこっちを見てきてるけど、今は気にしないもんねー。

「あなたがそんなこと気にしなくたっていいのよ。

 だって、蓮華と冥琳の顔が険しいのは昔からだし、七乃が美羽が大好きなのはずっとだし、私が暴れん坊なのは美羽も知ってるでしょ?」

「オイ、雪蓮」

 冥琳の注意も聞こえなーい。

「さっ、美羽のために第二戦目も頑張んないとね?」

 虎牢関での第二戦目は、果たしてどうなるんでしょうね?

 とっても、楽しみだわ。


さて、次は・・・・ あのシーンを彼女の視点で。


【飛将】

 天竺大将棋・大局将棋における駒の一つ。

 どちらの将棋においても縦横何マスにでも動け、一定の力ある駒以外を飛び越えることが出来る。


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