後日談 【緑陽視点】
短いです。
実はこうでした。
「―――― 以上が、洛陽にて樹枝殿の採用までの報告です」
樹枝殿と別れ、私は陳留の城にて報告を行っています。
場所は華琳様の執務室、その場にいるのは華琳様、黒姉さま、桂花様の三人であり、私が顔を上げると、華琳様が桂花様へと視線を向けました。
「まさか・・・ ね」
「こうなるとは、流石の私も想定外でした」
「本当、採用されるなんて・・・・」
三者三様、わずかに口元を動かし、ついには堪えきれなくなったように一斉に笑い出しました。
しかし、黒姉さまに指示されていたとはいえ、我ながら名演技だったと自負しております。あの時の樹枝殿の表情を私では表現しきれないことが惜しいほどに。
「しかし、華琳様はこれを見越して樹枝殿をあの場に送り出したのではなかったのでしょうか?」
「いいえ、あなた達ですら掴めない洛陽の情報を・・・ しかも、個人的なことまでわかるわけがないもの」
私が問えば、華琳様は何とか笑いをおさめながら、答えてくださります。
「あの愚弟の女顔がまさか、ここまで・・・ ぷぷ、それとも洛陽まで樹枝を題材にした本でも出回っているんでしょうか?」
最後に黒姉さまへと視線を向ければ、初めて見る黒姉さまの声をあげて笑う姿に少し見惚れてしまいます。この姿を、姉妹全員の時にもう一度見たいものです。やはり、姉さまたちの笑顔が私は一番好きなのです。
「私もまさかこうなるとは思っていませんでした。
笑いのタネになればそれでいい、程度の物でしたからね」
黒姉さまの言葉に、お二人も表情を元に戻し、一斉にある言葉をおっしゃいました。
「「「まさか、採用されるなんて思っていなかった」」」
・・・・さすがにここまで言われると、少々不憫になってきます。樹枝殿、強く生きてください。
そして私は、そんな樹枝殿がより強く生きていけるようにしっかり踏みつけたいと思います。麦は踏むと強く育つそうなので、それに倣いましょう。
「それでは私は、このことを冬雲様以外の武官、文官の皆様に広めてまいりますので。失礼いたします」
その日、陳留のあちこちで笑みが溢れることとなる。
同日、ある都にてくしゃみがとまらない女顔の男がいたという。
次はそろそろ彼の視点に戻ります。
ようやくこの章の始まりが出揃いましたね。




