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真・恋姫✝無双 魏国 再臨  作者: 無月
反董卓連合
47/111

 千里の道に咲くは満天の星 【千里視点】

お待たせいたしました。


時系列的には『乱の始まり 呉にて 柘榴視点』の少し前となります。

このサブタイトルの理由は、後書きにて。

 洛陽の城の一室にある自分の部屋で、あたしはいつものように書簡を片づけていく。

 まぁ、あたしの場合は他の文官たちが集まる全体の執務室にも机があるんだけどねー。あんまり人が多い時は気が散っちゃうから一人でやった方が捗るし、詠と音々音が担当してくれてる軍事・策略とか、それにうちの陣営の武官はみんな優秀だからね。

 『鬼神の張遼』、『飛将軍・呂布』、涼州からずっと月たちを守ってきた華雄に、恋と一緒に戦うとそこらの武将だって目じゃない芽々芽(高順)。傍から見れば問題しかない子たちだろうけど、みんな凄くいい子たちだと思う。

 戦い以外の仕事はお世辞にも出来るとは言えないから、あたしの仕事はもっぱら四人が苦手な分野である人事や雑事。

 特に人事は人に見られていいもんじゃないから、なるべく部屋でやるように月に頼まれてる。前に執務部屋でやってたら、詠に『むしろ部屋でやんなさいよ! 馬鹿!!』って怒られちゃった。

「しっかしまぁー、あたしってどこでも似たようなことしてるねー」

 女学院時代のあれこれを思い出して笑っちゃうけど、なんだかんだ今もあの時も逃げないってことは、あたしはこういう性分なんだろうなぁ。

 自分よりもずっと凄い子たちを後ろから支えることはやりがいがあって、嬉しくて、そしてちょっとだけ・・・・

「なーんて、らしくないよね」

 考えかけたことを笑い飛ばして、手元の書簡に視線を落とす。そこには不足している人員を募集した結果集まり、一次面接を抜けた数名の候補者たちの詳細。

「んー・・・ でも、それだって厳しいことで有名な女官のおばあちゃんの面接通った人だから、よっぽどのことがない限り問題ないしなぁ」

 指先で三つ編みの先端を弄りつつ、面接を通った人たちの様々なことが書かれた書簡を見ていく。その中の一つに『個人面接必須』と書かれた物があり、それだけを別に分けて、机のすぐ出せる場所に放り込む。

「千里・・・・」

「わっ?! ・・・って恋かぁ。

 びっくりするから入る時は声かけてってば」

「ん・・・ ごめん、なさい」

 しゅんっと頭を下げ、あんまり変わらない表情で少しだけ不安そうにあたしの方を見てくるこの子が、あの天下無双の飛将軍なんて誰も思わないよねー。

「怒ってないから、大丈夫。

 でも、今度から気をつけよー。私はいいけど、やっぱり嫌がる人もいるからさ」

「うん・・・・」

 同じ赤毛でも黒みを帯び、ふわふわな恋の髪を軽く撫でつつ、一応注意を忘れない。あんまりそういうことすると別の厄介ごとに巻き込まれそうだし、たとえ恋が自分の力で解決するだけの力を持ってても、心配はしちゃうんだよね。

「それで今日はどうしたの?

 恋は今日、休みじゃなかったっけ?」

「お昼寝、したい・・・・」

 そう言った後にあたしの膝へと視線を止め、首を傾げる。

「千里の膝枕・・・・ 駄目?」

 何その仕草、可愛い!

 ちょっとだけ視線をあげて、あたしの方を見るとかもう! うちの子はお嫁にあげません!!

 まぁ、それは置いといて、あたしは軽く自分の机にある書簡を確認する。

 見られて困るような書簡はなし、急ぎの仕事もなし。やるべきことはその場で終わらせる主義なのもあって、仕事も溜まってない。さっきの書簡の中にあった面接も数日後の午後と明記してあったし、突然呼ばれたりする心配もない。

「うん、いいよー。

 じゃぁ、いつもみたいに中庭行く?」

 そう言って椅子に腰かけたまま、軽く伸びをする。

 恋に膝枕をお願いされるのはこれが初めてじゃないし、恋がしてるのを羨ましがった霞もあたしに膝枕を頼むことも多いしねー。

 でもこれやると詠と華雄が呆れ顔でこっち見たり、おちびさんたちが嫉妬の視線を向けてくるんだよね・・・ まぁ、そんな子たちにはくすぐりの刑やちょっと変わった味をしたお菓子を投げ入れたり、無理やり膝に乗せると真っ赤な顔して黙ってくれる。あの二人の真っ赤な顔は珍しいから凄く可愛いし、正直面白い。

「ううん、ここでいい・・・ ここ、好き。

 お酒と、墨と、木と・・・・ 千里の匂い・・・ くぅ、すぅ・・・・」

 そう言ってからしゃがんで私の膝に頭を乗せたと思ったら、すぐに規則的な寝息が聞こえてくる。

「もう・・・ せめて寝台行くくらいまでは頑張ろうよ、恋」

 呆れてるのについつい顔がほころび、あたしに安心しきった寝顔を見せる恋を抱きかかえて寝台に寝かせる。

「うっわ、軽い。あれだけ食べてるのはどこにいっちゃう・・・ ってわかりきってるか」

 言いかけた言葉をとめ、この子が戦ってることに行き着いて私は髪を優しく撫でる。

「こんな軽いのに、守ってくれてるんだもんね。

 たくさん食べても仕方ないかぁ」

 そう言ってから離れようとすると服の裾を引っ張られ、その先を見ると眠っている恋が私の上着をしっかり握っていた。

 ・・・そんなに私の膝がいいのかなー?

「わかったってば、もう・・・ 恋は寝てても、甘えん坊さんだなぁ」

 あたしは壁へと背を預け、寝てる恋を起こさないように膝に乗せる。

「そう言えば・・・ あたしも一度だけ名前も知らない人に膝を借りて、寝たことがあったっけ」

 女学院の敷地内、あたしが一人で過ごしたいときだけに寝転がっていた野原でたまに見かけた儚げな空気を纏ったその人は、歳は正姐さん達とほぼ同じくらいに見えた。何故かいつも幸せそうな笑みを浮かべて、優しげな眼差しで全てを見る不思議な人。

 まるでそう、ただ生きてそこに居るだけのことが、何よりの幸せみたいに。

「本当に居たのかな? あの人は」

 誰かもわかない、それどころか存在しているかも怪しい人を頭の片隅に押し込め、あたしは思考を切り替える。

 書簡を持ってなくても、寝台の傍に置いてある机にいつも墨と筆、木片は置いてある。これで十分、あたしの仕事は出来るしね。




 そんな状態のままで仕事をしてると、遠くからでもよく響くあの独特な履物の音にあたしは顔を上げる。窓から見える太陽はすっかり中央に来ていて、そろそろお昼だから恋が起きるかな?

 けど、おかしいなぁ。何でこんなに何度も止まったり、進みが遅いんだろ? いつもの霞ならもっと勢いよく駆け込んでくるのに・・・ あっ、また止まった。

「うーん・・・ 霞がねぇ?」

 霞がここまで足を止めるような戸惑うこと・・・ あたしの作った新作のお菓子をこっそり食べた時はむしろ開き直ってたし、お菓子に使おうとしてわざわざ取り寄せた上物のお酒を飲んだ時もご機嫌だったんだよね。

「恋殿ぉーーー! 見つけましたぞぉ!!」

「おのれ、千里! お主はまた恋殿を膝枕で誑かし・・・・ くうぅ~~! 羨ましいでござる!!」

 真面目に考えようとしていた頭が大声によって揺さぶられ、形になろうとしていた考えが霧散していく。

 それにしても、膝枕で誑かすって・・・ そんなこと出来たらあたし、器用なんてもんじゃないでしょ。あーぁ、恋も飛び起きちゃったじゃん。可哀想に。

 ぼんやりとした顔で大きな音にびっくりしたせいか、少しだけ体を震わせて、あたしの方に尚更寄り添ってくる。

「はいはい、恋。びっくりしたねー。

 だいじょーぶ、だいじょーぶ」

 そう言ってぽんぽんと背中を叩き、軽く抱きしめながら、原因であるおちびさんたちに視線を向ける。

「やっほー、おちびさんたち。

 二人は確か、今日はお仕事だったと思うんだけどなー? 音々音は詠と一日楽しい勉強会、芽々芽は賊討伐、その後に鍛錬じゃなかったっけ? まさか、軍の一角を担う文官と武官が揃って休みの将軍様()を探すために仕事をしてなかったとか、言わないよね?」

 あたしがほぼ一息でそういうと、二人は少しだけ青ざめた顔を逸らし、その目を追いかければ逃げるように泳いでいく。

 いやぁ、ほら? やらなきゃいけないことはやるべきだよね?

「ふわはははは、別にあたしは怒ってないよ?

 ただ仕事をやってない二人を怒るのは詠と華雄ってだけで、あたしはぜーんぜんいいよー」

 霞のおかげで華雄も猪癖もだいぶ治ったし、いまじゃ恋と霞と並んで称されるほどだからねぇ。何か呼び名贈らないといけないけど、それに伴って元々の真面目さに磨きがかかったところが、あたし的にはそこがすこーし心配でもある。

「しゃ、謝罪する! だからどうか、その顔はやめてほしいでござる!!」

「そ、そうなのです! ねねたちが悪かったですから、笑顔のままお説教するのはやめるのです!!」

 あっ、そっちやっちゃってたか。意識してないとすぐそうなるんだよねー。

 あたしは笑いながら、抱きしめていた恋の体をゆすって起こす。軽く二度寝しちゃってただろうけど、もうお昼だしね。

「恋ー? そろそろ起きよっか。お昼になるからね」

「ん・・・・ お腹すいた」

 今の一言で、あたしから二人への罰は決ーまった。

 どうせあたしが言わなくても詠が勉強会さぼった音々音を許すわけないし、音々音が捕まったら芽々芽も芋づる式だろうから一緒にお説教になるのは確定だろうし。

「あたしはこの後ちょっとやることがあるから、恋は二人と一緒に町で食べてくるといいよ。二人がたくさん買ってくれるだろうから、お腹いっぱい食べるんだよー?」

 わかる人にしかわからない程度に目を輝かせる恋を見て、二人にはいつもの悪戯用の笑みを向けておく。

「ほーら、おちびさんたちも。

 そんな顔しないで、恋とご飯に行ってきて楽しく過ごしておいで」

 あたしの財布の内の一つをさりげなく渡しつつ、何か言われる前に二人の頭もかき撫でる。これだけじゃ絶対足りないだろうけど、まぁせめてもの手向けかな?

「千里! 頭は撫でるなと、あれほど言っているのです!」

「子ども扱いはよしていただきたい!」

 あっ、つい癖が・・・・ これくらいの身長の同輩をいつも撫でてたから、手が勝手に動くんだよねぇ。

「それより早く行かないと、めぼしい店が混んじゃうよ?」

「お主に言われずとも」

「わかっているのです!」

「「恋殿、行きますぞぉ!!」」

 そう言って恋を引っ張って走り去っていく後姿を見送りながら、あたしは溜息を吐いて後ろを振り返った。

「そろそろ入りなよ、霞。

 そんなところにいつまでも突っ立ってないでさ」

「あっちゃー・・・ 千里にはバレバレかいな」

 額を叩きながら入ってくる霞の声にはいつもの元気がなくて、なんていうからしくない。

「ふわはははは、霞の自称親友様を舐めるなよ?

 あたしには出来ないことも、知らないこともあるし、届かない人もたくさんいるだろうけど、霞のことならこの都に居る誰よりも知ってるつもりー」

 霞の首に腕をからませて、馬鹿みたいに明るく笑ってみせる。それなのにいつも返ってくる言葉はなくて、気まずそうに視線を逸らされる。

「なんかあたしに話したいけど、話しにくい事でもある?」

「・・・・! 千里、気づいてたん・・・」

 なんか言おうとした霞の口を手で塞いで、逆の手で自分の口元に指を立てて笑う。

「どーだ、参ったか。

 自称親友様の観察眼は、結構凄いんだぞー?」

 そうやって冗談交じりに笑えば、霞はようやくあげてくれた顔で苦笑いして、あたしの頭を小突いてきた。

「あいてっ」

「当てずっぽうのかまかけやったくせに、よう言うわ。

 それに、自称なんかやあらへん。千里は正真正銘、ウチの親友や」

 そう言ってあたしに寄りかかり、抱きついてくる。それはいつもと違うまるで縋ってくるみたいな、弱々しいものだった。

「はーぁ、千里には敵わんわぁ。

 考え込んで、抱えとる自分があほみたいやん」

「得意じゃないことしてるからじゃん?」

「うっわ、流石にそれ酷ない?」

 霞の頭を撫でながら、そっと抱きしめ返す。もう、みんな甘えん坊で困ったもんだね。

 でもさ、こんな顔した親友を放って置くことなんて、あたしには出来ないんだ。

「霞はまず行動に移してくれたらいいんだよ。

 その隣を恋と華雄は走ってくれるし、後ろから芽々芽が追いかける。策は詠と音々音、あたしが考えるし、責任は全部月が持ってくれる。

 言いにくいことがあっていい、人に秘密があるなんて当然じゃん。気にすることなんか何にもない。

 真名を預けた日からあたしはみんなを信じてるし、力になるって決めてるんだ」

 姐さん方の真名への真剣さと重さ、朱里たちの優しさと尊さ。

 一見は正反対に映る考えを聞いてきたあたしなりの考えがこれ。まっ、あたしの力なんて大したことじゃないけどね。

「それが誰も信じへんような・・・ ううん、ウチかて理解しきれてへんようなおかしな話でも?」

「誰も信じないことが、あたしが霞を疑う理由にはならないよね?」

 大体、『大勢の意見が正しい』なんて考える馬鹿な子は女学院に採用されないんだよねぇ。創立者がそもそもあたしが知ってる限り、大陸一の変人だし。

「ウチがやろうとしとることに、巻き込むことなるで?

 ついでに言うとくとウチ、この事を千里以外に話す気ないで?」

「望むところだね、霞が一人で抱えて何しでかすかわからないよりもずっといい。

 二人っきりだけの秘密? 光栄だね。そんだけあたしを信じてるってことでしょ」

 真剣な目をした霞に対し、あたしはあえてどうとでもないかのように笑ってみせる。

「・・・・おおきに、千里。

 聞いてや、ウチの話を。

 ウチが恋した一人の男と、同じやけど違う場所で確かにあった大陸の話・・・ なんていうて、半分も理解できてへんことなんやけど」

 嬉しそうに、恥ずかしそうに、でもやっぱりどこかに不安を残して霞が語ったのは信じられない話だった。



 この大陸を舞台に今とほとんど変わらない将たちが揃い、巻き起こる戦乱。皇帝が倒れ、三国が争い、統一へと結ばれるそんな世界。

 陣営のちょっとした違い、居た人、居なかった人、分からずじまいに終わったこと、わかっていたこと。

 霞から見たその世界の全て、知ることの全部を私へと教えてくれた。



「これが、ウチに起こったことの全てや」

 霞が最後にそうしめて、あたしは耐え切れなくなった感情を爆発させようと口を開いた。

「ぷっ・・・・ ふわはははははは、あははは!」

「ちょっ?! 人が真剣に話したんに、爆笑かいな!?」

 あー、霞が怒ってる。けど、あたしが笑ってんのはそうじゃないんだ。

「だ、だって・・・ くくくく、あの霞が話しずらそうにしてるから何かと思えば・・・」

 馬鹿にしてるんじゃない、信じてないわけじゃない。だってあたしが笑ってるのは・・・

「でも、ホンマやで! ホンマにウチは・・・」

 あたしが冗談だと思って怒ろうとする霞が口を開いた瞬間、あたしは逆に問うた。

 記憶を持ってる? 似たようなことが起こった? あたしがいない? 複数、同じような状況の人がいる?

「んで? 霞はあたしが居る(世界)と、居ない(世界)

 どっちが好き?」

 そんなこと()であたしが霞を嫌いになるなんて思ってた、本当はとっても寂しがり屋な鬼神様を笑ったんだから。

 あたしが居ない世界は、あたしにとっても存在しなかった。知ったこっちゃないし、正直興味もない。

 今、この瞬間のあたしには親友がいて、仲間がいる。これ以上に大切なことなんて、どこにもないよ。

「千里・・・ 信じてくれるんか?」

「質問してるのはあたしだよ?

 てか、信じるって何回言えばいいのかなー?」

 そういったらあたしに抱きつく力増して、腕を回されているところが痛くなってきた。まぁ、痣くらいは我慢してあげますか。

「今の方がえぇに決まってるやん!

 千里がおらん世界を、もうウチは考えられへん」

「うん、それでいいんだよ。あたしにだってそうだもん」

 それにしても、だからあそこまで必死になってたんだね。

 華雄の猪癖を直したり、黄巾賊を討伐したり、兵を調練したり・・・ でもむしろ、あたしが聞きたいのはこの先かな。

「そんで? 霞はこれからどうしたい?

 もういろいろ違うことはわかってるし、曹操さんたちを始めとした霞の友達の思い通りにはいかないってことはわかってるよね?」

 もうその時と同じ華雄はいないし、芽々芽も、あたしもいる。

 他の諸侯がどう動くかはわからないし、天の遣いは二人もいる。

 黄巾の一件で帝への不信感は募り、姿を見せないことが不安がる民の声は絶えないけど、それはこれから取り返せばいい。

「ウチはウチや、武官の張遼。

 それをやり通してこそ、ウチを好いてくれた男が惚れたウチはそんなウチなんや」

「はいはい、ごちそー様」

 答えにならない答えに適当に返して、あたしと霞は遠くから響いてくる足音に視線を向ける。

 この軽い足音と、何度か転ぶなんて不運が混ざる音は詠だねぇ。

「千里!!」

 いつもならからかって出迎えるけど、詠の顔は真剣で、あたしは笑顔をしまう。

「牡丹様の死去が諸侯と民に・・・・ 知らされたわ。

 それと、どこから月に関するおかしな噂が流されてるみたい。噂の詳細は今、音々たちに調べてもらってるけどおそらくは・・・」

「何やて?!」

「あー・・・ やられた。

 最近静かだと思ったら、この時を狙ってたのね・・・ あの玉無しどもめ」

 黄巾の乱、霊帝死去。ぜーんぶ月のせいにして、袁家辺りでもけしかけてくるよね。

 となると、霞が話してくれたことと似たようなことが起きることはほぼ間違いないか。

「んじゃ、恋たちが戻ってきてから作戦会議といきますかね」

「少しは取り乱しなさいよ! 千里!!

 今まで僕たちがしてきたことが、全部ぱぁになったのよ?!」

 詠の言うとおり、霊帝(牡丹様)が十常侍によって病死に見せかけて殺された時から御二人をある場所に避難させたり、積極的に黄巾賊を潰して民からの信頼を回復させようと頑張ってた。

 本当ならこのまま信頼を回復して、十常侍を粛清。その頃にはお二人の心の傷が癒え、あたしたちも涼州へと戻るつもりだったんだけど・・・ それはもう難しいだろうねぇ。

「はぁ・・・ まぁ、詠の言い分もわかるけど」

 そりゃ、あたしも取り乱したいよ?

 だって、月が洛陽を任されてからずっとやってきたことだし、ここでの暮らしがなくなるかもしれない。でもさぁ・・・

「あたしより泣きたい月と、怒りたい詠が我慢してるのに、あたしが取り乱せるわけないっしょ?」

 詠のほっぺをつまむと詠が驚いたような顔をして、すぐさま怒ろうと目を吊り上げる。でも、そんな顔で怒った振りされても少しも怖くないんだな。これが。

「ぼ、僕は怒ってるじゃない! 頭、おかしいんじゃない!?」

「はいはい、そういうことにしといてあげるー。

 ほら、霞。詠を持って、この真っ赤な顔した筆頭軍師様をぎゅーっと抱きしめてあげてー」

「まっかしとき。

 おぉ、詠は軽いわぁ。可愛くてついぎゅってしてまうやん」

「ちょっと霞まで・・・! 痛いってば!」

 詠を抱えた霞を従えて、あたしは霞の話を脳内で反芻しながら、あたしが何をすべきかを考える。とりあえず今は会議と、その後は人材不足を補わないとね。

「さて、千里の道も一歩から。どんなに険しくとも、歩いて行きますかね」


カスミソウは中国名で満天星というそうです。

そして千里は、原作でどこか一人で在ることを望んでいるように見えた霞を一人にしないために『居てほしかった子』として書き出しました。


千里の道に咲くは満天の星であり、月が詠い、恋の華が芽吹き、音を鳴らす。

それがどんな道か、星がどう瞬き、何を詠うか。次話をお待ちください。

次話は今、何をしているかが全く不明な彼の予定です。

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