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真・恋姫✝無双 魏国 再臨  作者: 無月
反董卓連合
45/111

34,乱の始まり 魏にて

書けました。

いつ振りかの週一更新ですね。

 黄巾の乱から少し経ち、徐々にではあるが書簡に追われるだけの日々から解放されていた。武官と文官を兼任する秋蘭や樟夏、斗詩たちも、春蘭や凪たちに任せきりになってしまっていた自隊の調練に戻った。連日行われていた朝の会議も週一になり、しばらくなかった休日も順に数名ずつとれるほどの余裕も出来た。

 俺は書簡を片づける傍ら天和たちの精神面と、舞台に関連する仕事に追われ、そのための人材育成も先日ようやく片が付いた。




 ぼんやりとはっきりしない視界の中で、最初に映ったのは天井。

 なんか久しぶりに見た気がするなぁ、寝台で寝たのっていつ振りだろう?

 仕事してたら夜が明けてて、朝もそのまま水とかで眠気を無理やり覚醒させた状態で会議出席とかザラだったし。あぁ、それにしても部屋が明る・・・ 明るい?!

「今、どれくらいの時間だ?! 白陽!!」

「あっ、兄ちゃんが起きた」

 おもわず飛び起きて辺りを確認すると、何故か俺の部屋なのに酒を飲んでる舞蓮と俺のことを真横で観察してたらしい季衣が寝台の横にへばりついていた。

 ・・・・・状況がわからない。

 よし、整理しよう。

 俺は昨日、いつもの日課をして、朝の会議に出席。午前はそのまま桂花たちに混ざって書簡仕事を手伝い、午後は兵の調練をする牛金たちを軽くあしらった後に天和たちのところに行った。

 夜は部屋に戻った後は白陽と書簡を片づけて、珍しく黒陽が持ってきてくれた夜食を二人で茶を飲みつつご馳走になって・・・・ 夜食の後の記憶が、ない。まったくない。

「黒陽・・・・ 盛りやがったな」

 ってことは今頃、白陽も自室で無理やり寝かされてるんだろうなぁ。藍陽と緑陽辺りが見張りについてるかもしれない。白陽も最近俺に付き合って随分遅くまで仕事をさせてしまったから、いい機会だろう。

「起き抜けだっていうのに頭の回転速いわねー、冬雲」

 ケラケラと楽しそうに笑って俺を見る舞蓮は、傍に来た季衣の頭をかき撫でていた。

「おはよう、舞蓮。

 何で当然のように俺の部屋で酒を飲んでるんだ?」

「華琳が休まないあなたに一服盛って、面白そうだったからあなたを襲おうと思ったんだけど、この子を見張りにつけられちゃった。

 この後食事にするから、さっさと着替えなさい。厨房で待ってるわよー」

「え? あぁ、わかった?」

 舞蓮にしては珍しく、こっちが拍子抜けするくらいあっさりと部屋を出ていったので俺は驚きを隠せずに呆然としてしまった。

「兄ちゃん、なるべく早くねー」

 季衣の言葉に我に返って、俺は寝台から立ち上がる。

「あぁ、わかったよ」



 なるべく早く着替え、身支度を整えてから向かうと、そこには俺は想像していなかった光景が広がっていた。

 いや、厨房が半壊してるわけでも、異臭が漂っているわけでもない。ただ俺にとってはその光景はあまりにも予想外のことだっただけだ。

「何で舞蓮が厨房に立ってるんだよ?!」

「失礼ねー、これでも三児の母よ?

 料理ぐらい出来て当然じゃない」

 手慣れた様子で鍋を振るい、皿に盛られたのは鮮やかな赤に包まれた海老。隣の蒸籠を開ければ魚がその姿を見せ、俺はおもわず厨房を見渡し流琉たちを探す。

「こーら! 失礼なことしてないで、さっさと席について食べなさいよ。冷めちゃうじゃない」

 頬を膨らませ、まるで子どものように怒る舞蓮を少し笑う。そのまま後ろを振り向くとそこにはいつも通り、最高の食いっぷりを見せる季衣が座っていた。

「美味しいよー。兄ちゃんも早く食べよ?」

「ははっ、季衣のこの食いっぷりを見ると安心できるなぁ」

 かつて俺の財布を圧迫しまくっていたのが懐かしい。あの頃から季衣の薦めてくれた所はどこも安くて、つけもきくような人柄のいい店ばっかりだったんだよな。

「うん! すっごく美味しいよ!!

 僕、お母さんのこと覚えてないけど、町の人が言う『お袋の味』ってこんな味のこと言うのかなって・・・・ あっ、ごめんなさい。孫堅様」

 年齢的なことを言ったのを気にしたのか、それとも実母でもないのに母と呼ばれるのを嫌がられると思ったのか、季衣はすぐさま頭を下げた。

「謝ることなんかないわよ。

 なんだったら冬雲を物にした暁には、私の娘にでもなる?」

「ちょ?! 舞蓮、おまっ」

 この状況でさりげなく俺の所有権を得ようとするのは、年の功があるからこそ出来る技だよな!

 でも、舞蓮は年齢気にする様子なくて、むしろ誇ってすらいる節がある。多分それは、酒の席で聞いた前の旦那さんとの思い出があるからこそなんだろうな。

「あはははー、それは無理ですよー。

 だって僕、兄ちゃんのお嫁さんになるし」

「あら? こんな小さな子にも手を出したの? 私の想像以上に節操がないわねー。

 この子でもいいなら、ウチのシャオも恋愛対象になれるかしら?」

 手は出してない! ていうか、シャオって誰?!

 二人の話が続いているので口を挟めず、俺は聞かないふりをして黙々と料理を食べ続ける。うん、季衣の言うとおり、凄くうまい。具は海鮮系が多く、店で食べるような味ではないが、食べていると不思議と懐かしい気持ちになってくる。

「兄ちゃんに節操がないわけじゃないですよ。

 ただ僕らが兄ちゃんのことを好きになっちゃっただけで、兄ちゃんはほとんど変わってないもん。

 強くなくても強くなった今も、優しくて、守ってくれて、僕らを僕らとして見てくれる。それがなんかくすぐったくて、すっごく嬉しいんです!

 兄ちゃんは誰に対しても兄ちゃんのままで、いつだって一生懸命で、みんなを見てくれてた。

 そんな兄ちゃんだから、僕らはいつの間にか、もう二度と離れたくないくらい大好きになっちゃった」

 照れくさくて、俺はそんなに凄い奴じゃないって否定したくて、でも季衣の自信満々なその言葉は否定することを許さない強さを持っていた。おそらく満面の笑みでそう言っているだろう季衣に、俺は聞こえないふりをして料理にがっつくことしか出来ない。

「愛されてるわねー、」

 呆れるような、からかうような舞蓮の言葉は妙に優しく響いて、さらに頬が熱くなるのを感じていた。自覚はあっても、改めて人から指摘されると少し恥ずかしい。食事は止めずに舞蓮を覗き見ると、歯を見せて笑う彼女の目はまるで獲物を狙う肉食の獣のように危険な美しさを持っていた。

『勿論、私も負けず劣らずあなたを愛してあげるから、覚悟しておきなさい?』

 口元だけがそう動き、返答代わりに肩をすくめる。恐怖を抱きながらも、そこにある好意を断る理由が俺にはなかった。

「舞蓮でいいわよ、許緒ちゃん。私もあなたを季衣って呼ぶから。

 何て言ったって、同じ人に恋する乙女だものね」

「はい、わかりました! 舞蓮様!」

 そんな二人のやり取りを見つつ、厨房から出た舞蓮とは入れ違いに俺は茶を淹れに厨房へと入っていった。



 食後に三人でお茶を飲みつつのんびりしていると、突然華琳から緊急の招集がかかった。呼び出された件に思い当たる俺たちはその場の片づけを舞蓮に任せ、すぐさま玉座へと向かった。



 しばらくすると華琳を中心に右側が武官、左側が文官となっている席に現在陳留に居ない樹枝を除いた全員が揃う。

「皆、揃ったようね。

 今回、緊急で招集をかけたのは麗羽・・・ いいえ、袁紹から送られてきた檄文よ」

 そのことに全員が沈黙し、目を伏せる。

 もはや漢王朝に大陸を治めるだけの力がないことは黄巾の乱からわかりきっていたことであり、袁紹が行動をしなくとも誰かが起こしていただろうことは明らかだ。

 黄巾の乱を終えたここ一月ほどから、まるで機を見計らったかのように董卓に関する是非のわからぬ噂があちこちで飛び交っていた。


『董卓が霊帝を病死に見せかけ、暗殺した』

『洛陽の財をかき集め、日々酒池肉林をしている』

『黄巾の乱を裏から操っていたのは、実は董卓である』

『自分と対立した者をその場で叩き斬り、一族郎党を根絶やしにした』


 その噂の出所は、風たちの話によると豫洲、あるいは洛陽から訪れた商人たちからもたらされているらしい。

 噂の是非を問われることを拒むように洛陽の警戒も厳しくなり、乱以前は取れていた霞との連絡も、洛陽の状況からとることが出来ずにいた。

「こちらが檄文も模写となります。ご覧ください」

 そんなどこか重々しい空気の中で、武官、文官の席に一部ずつ渡された檄文の模写を文官側は桂花が、武官側は秋蘭が開く。

「あはは・・・ 麗羽様らしい」

 書簡を開いてすぐに苦笑するのは、この中で唯一彼女を知っている樟夏と斗詩。彼女を知らない俺はその意味がわからず、とりあえず書簡を読み進めた。

 まず最初に目に飛び込んできたのは挨拶ではなく、自分が如何に身分の高い者か、袁家が名家であるかを長々と語られていた。

「麗羽は変わりませんね。

 ですが私にはいつだって自信満ち溢れ、堂々と立っていた彼女のことが・・・・」

 樟夏の言葉は最後まで聞こえずに終わり、元々細い目をさらに細め、どこか遠くへと思いを馳せているようだった。

 それを気にかけつつも、俺は今重要な書簡へと目を落とす。八割以上が自慢で終わり、最後の数行に付け足すように今回の肝となる内容が書かれていた。


『同朋たる諸侯よ、(まこと)の忠義ありし(つわもの)たちよ。

 帝の臣たることを忘れ、暴虐を尽くす董卓に我らが手で天誅を下そうではないか』


 その文章だけ書く人が違うように感じたのは、俺だけじゃない筈だ。

「姉者、いかがなさるのですか?」

「愚問ね、樟夏。

 大陸中の諸侯が、この乱に乗じて行動を始めることでしょう。そして、私たちもその例外ではないわ」

「「それでこそ、華琳様!」」

 樟夏の言葉にすぐさま切り返し、不敵な笑みを浮かべる華琳に春蘭と桂花がとろけるような笑みを浮かべる。

「では、現状の勢力を確認しましゅ。

 皆さん、こちらを見てください」

 そうして雛里が持ってきたのは滑車の付いた移動式の板、そこには簡易ではあるが大陸の地図が描かれていた。台車を作るときについでに真桜に頼んでおいた物だが、早速有効活用されていて嬉しい限りだ。

「今回檄文を送ってきた袁紹さんですが、おそらく現在の諸侯の中で兵力、財力共に現在諸侯の中では最大でしゅ。次いで益州の劉璋、彼女の異母姉妹である袁術。荊州の劉表、西涼の馬騰と続き、我々、そして孫家となります」

 棒でそれぞれの土地を指し示しながら、説明する雛里に全員が頷く。

 やはり名家という看板は厚く、今回の檄文も袁家の彼女が出したからこそ意味があるのだろう。それは同時に、おそらく諸侯の中でもっともこの乱を知っているのも彼女であることを示している。

「あとは善政を敷くことで有名な公孫賛殿、徐々にではあるが豊かになりつつある平原の白の遣いと劉備殿、ってところだな」

「そうね。

 あの子たちがどれほど成長しているか、とても楽しみだわ」

 その言葉は劉備たちだけではないことを察して、俺は少しだけ笑う。だが、風や稟、霞の変化と同様に劉備たちの成長も華琳は楽しみでしょうがないだろう。

「やっと関羽に会えるのですね」

「えぇ、楽しみです」

 凪と白陽から穏やかじゃない気が放出してるけど、俺は絶対に後ろを振り向かないぞ。連合に到着するまでにどうにかしないとな、連合内での仲たがいなんて面倒事しか生まない。何かしらの手は打っておいた方がいいだろう。

「ですが、華琳様。

 今の現状では、私たちはこの程度のことしか話し合いを出来ません」

「そやろなぁ。

 武将で有名なんは『鬼神の張遼』、あとはあの呂布とか、隊長ぐらいやし」

「事実、今わかっているのは『小覇王』孫策と『常山の昇り龍』趙雲。

 そして我々が実際に出会っている劉備と白の遣いぐらいのもの。情報も圧倒的に不足しています」

 真桜がさらっと俺まで霞と同列に並べるが、雛里と秋蘭の言っていることは事実だ。黒陽たちの情報も軍事に関しては踏み込めていないし、むしろ噂の出所をより詳しく探るために民の情報を得ることを中心に動いてもらっていた。

 なにより今回の連合で初顔合わせとなる諸侯たち、それらがどう動くかが問題となってくる。

「えぇ、無論わかっているわ。

 今回は私たちがどうするかを明らかにし、状況を整理するための招集よ」

 華琳は地図を軽く見渡し、さっき名のあがった諸侯の土地を順に指し示した。そして地図上に一本の線を書き足し、線上に二つの×印をつける。

「この戦いで一番の難関となるのは、泗水関と虎牢関でしょう。

 相手の動き次第でもあるけど・・・ 戦はその時々で変わるもの、今から策を考えてもどうしようもないわ」

 一つの陣営ならこの時点でいろいろ考えようがあるが、全体で動くとなるとそうはいかない。相手勢力は勿論のこと味方勢力すら不確定要素が多い今、推測すら出来ないのが実情だ。

 結局、現状の俺たちには行動に移す以外の選択は残されていない。

「ならば、我々は全身全霊を持って前進あるのみですね! 華琳様!!」

『・・・・・・』

 重い空気を物ともしない春蘭の単純明快な言葉に、俺だけでなくその場の全員が呆気にとられ、おもわず全員が春蘭へと視線を向けていた。

「うん? 何で全員、そんな驚いたような目で私を見るんだ?」

 俺たちの視線に不思議そうな顔をして、首を傾げる春蘭。その仕草はなんだか小動物のようで、自然と口元が緩んでくる。

「はははは! 春蘭の言うとおりだよな。

 わからないんだったら、俺たちは全力を尽くせばいい。それだけだ」

 春蘭の頭を書き撫でて、俺はわざと思いっきり笑う。

 先がわからないのはいつだって、どこでだって、誰だって同じだ。

 でも、不安になっても俺たちは一人じゃない。

 出来ることをやって前に進むしかないんだと、重苦しい空気の中で考える余裕もなかった俺たちに春蘭が教えてくれた。

「単純馬鹿も、たまには役に立つのね」

「何だと?!」

「この程度で怒るところが、単純馬鹿だって言ってるのよ」

 桂花と春蘭のいつものじゃれ合いを見ながら、みんなの顔にも笑みが浮かぶ。

「二人とも、じゃれあいもほどほどにしておきなさい。

 出立は十日後とするわ。

 皆、それまでにしっかりと準備をしておきなさい」

 華琳がそう言って微笑むだけで二人の目の色が変わって、すぐさまおとなしくなる。

 二人が静まったところで華琳の表情は一瞬にして引き締まり、空気を裂くようにその手を俺たちへと向けた。

「争乱の種は既に黄巾から始まり、今ここに明確な形で争乱が起ころうとしている。

 今こそ! この大陸に名乗り上げる絶好の機!!

 けれど何も案ずることはない。失敗の責任は主君に、成功の功績は家臣に。あなた達の成した全ての責任は私が持ちましょう。

 思いきりおやりなさい! 我が愛する者たちよ!!

 我が名の下で剣を振るい、己が名の下に名誉を得、その手に勝利を掴みなさい!

 そしてその名を、我が名と共に後世に伝えよ!!」

はいっ(おう・はっ)!!!』

 まるで心臓を貫くような華琳の口上に、俺たちはすぐさま応える。

「では、解散!

 全員、すぐさま行動に移りなさい!!」

 華琳の号令と共に俺たちは、自分が今成すべきことへと行動を移す。

 その目には不安も、恐怖もなく、ただ前を見据えて突き進むのみ。





次は誰の視点か、当てたらすごいですね。


この章は多分、前の章以上に視点変更が増えるかと思います。

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