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 決戦 始まり直後 本陣にて 【秋蘭視点】

決戦時、冬雲が飛び出していった直後から向こうの本陣で無双が起こってる頃の視点ですね。

流琉しかり、愛羅しかり、どうもこの口調の子は難産です・・・・


これからもよろしくお願いします。

 冬雲の手から書簡が落ちる。

 瞬間、場の空気が凍った。

 冬雲が放ったとは思いたくない『気』がその場を支配し、冷たく重い殺意が溢れ出ていた。

 真正面から受け止められている華琳様を除き、あの頃を知っている者たちですらその事態に目を疑う。

 私たちは誰一人として彼が『怒る』ところを見たことがなく、その矛先を向けられたことがない。

 たった一人、訳も分からぬままこの世界に投げ出されたあの日の出会った時ですら、傍目からは異常なほど冷静であった男。

 いつも微笑みを浮かべ、その口から生まれる言葉は不思議と人を笑顔にさせた。

 理不尽だった桂花の言葉も、姉者の照れ隠しだった暴力も、日々の警邏も、苦笑しながら受け止め、改善に努める。

 戦場ですらそれは変わらず、むしろ弱いことを自覚し、自分に出来る範囲で最善を尽くした。

 お人好しで、笑みが絶えない。人の悪意を知っていながら、善意を信じすぎる。

 それが私たちの知る冬雲(一刀)という存在だった。



「『歌いたいと思ってごめん』? 『会わせる顔がない』? 

 『皆さんと幸せになってください』?

 ・・・・・ふざけるな」

 発せられる言葉から気が漏れ、どれほどの怒りが込められているのかが肌で感じられる。

 あの白く楽しげに風に舞う雲が、黒く重い(怒り)を宿した雲へと変わっていく瞬間を、私たちは()の当たりにした。

「三人は歌うことを望んだだけだろ? 民を自分たちの出来ることで癒そうとしただけだ。

 三人を利用した奴がいて、希望を与えた歌を道具にしやがった奴らがいる」

 異常なほどとれていた情報統制、わからない張三姉妹の安否に華琳様は勿論、桂花も常に軍師として最悪の事態を考えていたことだろう。そして恐らく冬雲自身、その考えを抱いてなおも認めたくなかった。

「会わせる顔がないっていうなら、俺こそがそうだ。

 あの時みんなを悲しませ、全てを捨ててきた俺こそがみんなに会わせる顔なんざない」

「っ!」

 冬雲の言葉に足が動きかけ、それは姉者に掴まれたことによって止まる。だが、それによって行動は止められても、思考は止まらない。

 私こそがそうだ。皆に、誰にも会わせる顔などない。

 冬雲が消えた理由が明確にはわからずとも、その一端は確実に私が担っていた。

 誰もが前を向いたふりをして懸命に生きていく中、私は己を責めた。

 私が死ねばと、何度思ったことだろう。

 あの世界で何度、自刃を試みただろう。

「秋蘭、それは違うだろう?」

 不意に姉者に囁かれ、私が振り返ると姉者は優しげに笑っていた。

 おそらく表情に出ていたのだろうが、前の姉者とは比べ物にならないぐらい今の姉者はいろいろな面で成長している。

 まるでこの後、冬雲が何を言うかわかりきっているかのように姉者は冬雲を顎で指し示した。

「誰かが欠けて幸せになんて、なれるわけがない」

 不覚にも、その言葉に涙が出そうになった。

 だが冬雲(一刀)、お前自身がその言葉をちゃんとわかっていなかった。

 三国が手を取りあい、将の誰もが互いを真名で呼び合うほど仲を深めていったあの日々は確かに幸せに溢れていた。

 家の義務として子を残し、平和を後の世にすら作り上げた。

 愛しき者がそこに居なくとも残酷に時は過ぎ、幸せは掌の上に別の形となって存在していた。

 だがそれは、最善であっても最高ではない。

 愛していることに偽りはなくとも、隣に立つことを望んだ者はずっと一人だけ。

 妻となっても、母となっても、そこに本当に居てほしかった者のいない世はなんと味気なかったことか。

「俺はあの時出来なかった全てを、それ以上の幸せを得るためにここに戻ってきたんだ」

 力強く放たれる言葉一つ一つに、心が揺さぶられていることを自覚する。

 姿も変わり、持っていた技術と知識を向上させ、全てが変わっているかのように見えても、冬雲はあの日私たちの前に現れた北郷 一刀のままだ。

 

 だがな、冬雲(一刀)

 そんなお前だからこそ、私はずっと問いたかった。

 だからこそ、お前はその優しさからどれほど己を責めた?

 武と智を多く吸収し、あの世界で一体何を思って生きていた?

 お前は気づいていないのだろう?

 自分が私たちを見ている時、ごく稀に後ろめたさを宿した悲しげな眼をしていることを。


「俺は、誰も失わない。

 天にも、運命にも、歴史にも、俺の大切なものを何一つとして奪わせない。

 くれてなんか、やらない」

「・・・・それはこっちの台詞だ」

 傍に居る姉者にすら聞こえないような声で呟き、先程とは違った意味で空気が変わった周囲に目を向ける。

 事情を知らない雛里、斗詩、樟夏、樹枝は何かを察し、口を挟もうとはしない。

 四人のことだ、私たちの接し方や行動で何かしら感づいていてもおかしくはないだろう。

 樹枝の問いに華琳様が以前答えた通り、傍に居るならばいつか必ず話すことになる。

 そしてそのいつかは、あの時の者たちが揃った時になることだろう。

「その怒りがあなただけのものじゃないということを、この乱を起こした馬鹿共に刻みつけてきなさい!」

 華琳様の言葉を最後に飛び出していく冬雲を見送り、重い空気がそこを包みかけた。

 が、その直後響いたのは意外な者たちの声だった。

「姉者、兄者の援護をするため軍を動かして構わないでしょうか?」

「曹仁隊は、兄上の行動からすぐさま動き出しかねません。

 曹仁隊だけではあまりにも数が足りませんし、我々に行かせてください! 華琳様!!」

 樟夏と樹枝の二人がこれまで見たこともないような必死な目をして、そこに立っていた。

「・・・・いいでしょう。

 冬雲が開けた穴を、あなた達が責任もって繋いで見せなさい」

 華琳様の決断は早かった。

「樟夏、樹枝は曹仁隊、曹洪隊、荀攸隊の三部隊を率い、中央の道を切り開きなさい!!」

「「ありがとうございます! 姉者(華琳様)!!」」

 言葉と同時に立ちあがり、二人は冬雲の後を追うようにその場から駆け出していった。



「フフ、私はこれまであんなに必死な樟夏を見たことがないわ。春蘭、秋蘭」

 驚きつつも優しげに微笑まれる華琳様のその表情は、弟の成長を喜ぶ姉たる御姿だった。

「樟夏はようやく理解者を得て、今まで磨き続けた力を誰に遠慮することなく使うことが出来るのね」

「華琳様・・・」

 三人が出ていった扉を見つめ、そういう華琳様の言葉は弟を思っていながら守ってやることの出来なかった思いが乗せられていた。


 幼い頃から樟夏は、姉である華琳様と常に比較されて生きてきた。

 樟夏は華琳様と似た人を惹きつけ、多くの知識を理解し、武に通じる万能の才を持っていた。

 だが、同じ『才ある者』でも『天才』と『秀才』は、その成長の速さが違う。

 飛躍的な伸びを見せぬ樟夏を、浅慮な愚か者たちは認めようとはしなかった。

 努力を積み重ね、華琳様の倍の時間をかけて樟夏が素晴らしい物を作っても、誰も見向きもしなかったのだ。

 だからこそ樟夏は、いつの頃からか今も続く口癖を言うようになっていた。

『世は無常だ』

 それはいかに努力しようとも、結果を出しても認められることのない自分自身を守るための鎧だったのだろう。

 認められることを諦め、それでもなおも努力をやめぬ樟夏を慕う者は多く、おそらく我々の中で冬雲に次いで兵たちからの人望も厚い。いや、付き合いから考えれば、今も樟夏の方があるかもしれない。もっとも本人は気づいていないようだが。

 樟夏にとって冬雲は自分の才能を認めてくれた者であると同時に、実力を持ちながら、なおも努力をやめようとしない自分を超えた『努力の天才』に尊敬の念を抱くのは当然のことだろう。

 私たちがそうであったように、冬雲(一刀)は多くの者を変えていく。

 その変化は最後のほんの一押しであったとしても、それによって世界は全く違う景色が見える。

 本人は『樟夏のしたことを褒めただけ』と言うだろうが、たった一言で救われる者は案外多いということを奴はそろそろ学ぶべきかもしれない。


 本当に、我々が恋した男はいい男だ。

 大陸中に自慢したくなるが、大陸中の女が惚れそうで誰にも見せてやりたくないような複雑な気持ちになるじゃないか。

「雛里、斗詩、あなた達から質問があるならば聞くわ。

 何かあるかしら」

 内容は口にはしないが華琳様はこの場で話すことも考えているらしく、今いる中で事情を知らない二人へと視線を向けられる。

「でしたら、一つだけお聞かせください。華琳様」

「何かしら? 雛里」

「お話しいただけるのは、あと何名の方がここに揃った時なのですか?」

 雛里のその言葉に数名の者が目を丸くし、斗詩は同意するように頷いた。

「敏い子ね、あと三名・・・ いいえ、今回の件に関わっている子たちも含めれば六名。

 張角、張宝、張梁、張文遠、程仲徳、郭奉孝たちが揃った時、あなた達に話せるでしょう」

「き、『鬼神の張遼』ともお知合いなんですか?」

 華琳様の言葉に斗詩が青ざめながら言い、その言葉に今の通り名を知らなかったらしい真桜たちが驚いた顔をしていた。

「鬼神て・・・・ 姐さんなにしとんねん」

「霞様・・・・」

「でも、しょうがないと思うのー。

 隊長に会えない思いは、八つ当たりに使うしかないのー」

 三人のそれぞれの感想に近い言葉を言ったところで、筆頭軍師である桂花が手を叩いて場の空気を換える。

 華琳様もその行動に対して視線で労をねぎらい、言葉を紡がれた。

「この答えで構わないかしら?」

「ありがとうございましゅ! 今はこれで十分です!!」

「悪いわね。

 さて、これからだけどもう飛び出していった三人を援護する形しか取れない現状で、あなたならどうするかしら? 桂花」

 雛里の答えに嬉しそうに目を細めた後、華琳様の目は既に王たる目をしていらした。

 戦いに向けた王の目、我らが敬愛し、命を捧げると誓った覇王たる華琳様が姿を現す。

「はっ!

 相手の数は多く、この開けた地形では各個撃破も出来ません。

 ですが、我らの目的はあくまで本陣へと駆けていっただろう冬雲の援護。

 ならば、一点突破し、本陣へと道を創るのが上策かと」

 桂花らしくない手柄を捨てた、かつてはあれほど嫌った猪の戦法。

 だが、その方法をやらざる得ない状況ということなのだろう。

「手柄を捨てたやり方ね? それは何故かしら?」

「今回、裏を操っているのが十常侍ならば、冬雲の存在が危険視されかねません。

 最悪の場合、勅命を使ってこちらを潰しにかかってくることでしょう。

 ならば、遅れてくる飛将軍や諸侯たちに全ての手柄を与え、今はまだ目立たない方がいいかと」

 董卓連合も実態は、麗羽が手柄を欲するための嘘八百だった。

 欲におぼれた者たちは目的を達するためであれば、いかなる手段を用いてくる。桂花の言うとおりになる可能性は、十分あり得るだろう。

「そして、全諸侯を相手取るほどの戦力がまだこちらにはない・・・ ということね。

 それを採用しましょう。なら雛里、兵の配置は?」

 言葉とは裏腹に華琳様の焦った様子はなく、今の力不足を認められ、次に雛里を見た。

「最前線の配置は三隊で進めるとは思いますが、このままでは道が塞がれ囲まれるのも時間の問題です。

 そのため早急に後方から春蘭さん、季衣さんの部隊を突入させ、道の維持のため後衛から秋蘭さん、流琉さん、斗詩さんといったところでしょうか。

 真桜さん、凪さん、沙和さんたちは戦場を見ながら・・・・」

「ちょい待ち、雛里。

 ウチは今回、本陣を守らしてほしいんや」

 雛里の言葉に割り込んだのは、意外なことに真桜。

「ほぅ、何故だ?」

 私がおもわず問うと、真桜は苦い顔をして書簡を拾い上げにいった。

「隊長のことや、多分自分の馬にでも三人乗せて、先こっち来させる思います。

 隊長はきっと時間稼ぐためとか言って、あっちの本陣に残るやろし。この状況で、あの三人はめっちゃくちゃ不安になってると思いますねん。

 やからそんな三人を迎える知り合いが、誰か一人でも本陣に知り合いおった方がえぇと思うんです。

 だから、頼んます! 華琳様! 桂花様! 雛里!

 身勝手やってわかってるし、凪と沙和にウチの部隊任せるんは無茶やって思うけど、三人を迎える役目を、ウチにやらせてもらえまへんやろか?」

「真桜・・・ 華琳様、私からもお願いします!

 部隊は我々だけで、動かしてみせます!! ですから、どうか」

「お願いしますの!」

 思えば、張三姉妹との距離感が一番近かったのはこの三人だった。

 町の警邏と三人が公演を行う場所の整備、人の列を整えることも彼女たちの仕事だったためだろう。将としてだけでなく、友としても力になりたいがために生まれた発想だった。

 真桜に続いて、凪と沙和も頭を下げる。それを見る華琳様はどこまでも嬉しそうに微笑み、桂花と雛里を見る。

「本陣の守りは任せたわよ、真桜。三人をちゃんと迎えてあげなさい。

 けれど真桜の部隊は本陣に配置、あまりにも本陣が手薄すぎて落とされなどしたら、笑いの種にしかならないわ」

「おおきに! 華琳様!!」

「感謝はこの戦が終わり、皆で祝杯をあげる時まで取っておきなさい。

 全員、指示は聞いていたわね?」

『はっ!!』

「それでは、ただちに行動へと移しなさい!

 解散っ!!」

 その号令と共に将たちは先程三人が出ていった扉へと走り、軍師たちは華琳様のところへと動き出していった。



 準備を整え、城の前に今揃う全ての隊が並び、華琳様の言葉を今か今かと待ちわびている。

 既に自分たちの戦友たちが先陣をきっているということと、兵たちの中では自分たちの兄のような冬雲が駆け出していったことが広まっている。

 だというのに、通常ならば起きかねない混乱ではなく、『仲間の元へ一刻も早く向かいたい』という考えがいつの間にか生まれ、通常の倍以上の速さで準備を終えた。

 他部隊にすら影響している冬雲の人望には、ここまで来ると溜息しか出てこなかった。

「聞け! 陳留の兵よ!!

 これまで多くを奪い、小競り合いを繰り返した黄巾の者たちが今!!

 一つに集結し、この地へと攻め込んできている!

 奴らはこれまでも弱き村々を狙い、兵糧を奪い、多くの罪なき民を殺し続けた!

 それだけでも飽き足らず、奴らは何の罪もなき歌姫たちを利用していたのだ!」

 華琳様はそこで言葉を止め、まっすぐにあちらの本陣を指差した。

「我が将、曹子孝は歌姫たちを救うべく、本陣へと一人突貫した!

 今もなお、あの戦場の中央で剣を振るい、義弟である曹洪、荀攸もそれを追い、最前線を維持し続けている!!」

 全隊から驚きが伝わり、誰もが見えぬはずの本陣へと目を向けられる。

「我らが目的は戦功にあらず!

 民を! 罪なき歌姫を!

 そして、義と勇を持って最前線に立つ、我らが誇りたる将兵たちを守るための戦なり!!」

 士気が高まり、確固たる意志を得た兵たちに浮き立った様子はない。

 華琳様が絶を抜き、振るって叫ばれた。

「全隊! 突撃せよ!!」

『おおおおおおぉぉぉーーーーーーーー!!!!!』

 天をも揺らすような雄叫びがあがり、私たちは想いを一つにして戦場へと駆け出した。


もう一本、樹枝の視点変更を挟む予定です。

目標は月曜ですかねぇ・・・ 土日にちょっと出来そうにないので、もしかしたら火曜かもしれません。


感想、誤字脱字お待ちしております。

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