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29,決戦 雷雲 大樹と共に

なんとか、大して間もおかずに投稿できました。


雲を支えるのは、同じ空に浮かぶものだけではありません。

雷になろうとも、大地は常に空を、雲を見ているのです。


読者の皆様、いつもありがとうございます。

 俺は何をしていた?

  最善を尽くしていた、つもりだった。


 俺は何を驕っていた?

  彼女たちなら大丈夫だと、何か他の意味があるのだと思っていた。

  情報が入らない不安を、そう考えることで誤魔化していた。


 何故、彼女たちを優先しなかった?

  他の誰よりもただの一般人であった三人を、俺は守るべきだったんじゃないのか?



「邪魔だあぁぁぁーーーー!!!」

 夕雲の背に乗り、連理を右手で振るい強引に道を創っていく。

 鎧を着る間も惜しく、俺が身に着けている物は鬼の面と連理。そして、腰に差したままの西海優王のみ。

 だが、今はそんなことはどうでもいい。

 三人が行動を起こす前に、何としてでも間に合わなければならない。

「冬雲様」

 夕雲と並走しながら、小剣二本と足の仕込み刃で俺の周囲を守る白陽が声をかけてきた。

「このまま、まっすぐお進みください。

 事態がわからずとも、あなたの行動から部隊は既に後方より援護を開始しております。

 ですが、それもこの圧倒的な数、進軍は遅々たるもの。そして、事態の説明等により、他部隊からの援護は遅れることでしょう。

 洛陽から出撃してきたと思われる飛将軍たちも、到着までは今しばらくかかるかと思われます」

 白陽の報告を上の空に聞きながらも、俺は最初の情報だけをしっかりと耳に入れた。

 紅陽、青陽も途中までついて来ていたのはわかっていたが、夕雲の速さに追いつけたのは白陽のみだった。

 このまま、まっすぐ進めば彼女たちが居る。

 それだけわかれば十分だ。

「他の全てはどうでもいい!

 俺が今目指す場所は唯一つ、彼女たちの元へ辿り着くことだ!!」

 多くを斬り捨てでも、守りたい。

 どんなものを捨ててでも、会いたかった彼女たちを。

 自分の命すら天秤にかけても、失いたくなかった彼女たちを。

 誰一人として、失いたくない(欠けさせはしない)

「夕雲、全速力で向かうぞ!

 立ちふさがる全てを潰して、進め!

 俺は、邪魔する全てを薙ぎ払う!!」

「では私は、あなた様の背後を守りましょう」

 十常侍よ、お前たちは俺を怒らせた。

 たった一握りの欲から彼女たちを利用したことを、俺が必ず後悔させてやる。



「前方本陣中央、天幕内に複数の気配あり!

 おそらくは目標かと!!」

「このまま突っ込む! 白陽は三人の安全確保を優先!

 俺は、奴らを斬る!!」

 白陽の情報に俺は叩き付けるように指示を出し、返事を聞くわけでもなく天幕へと夕雲ごと突っ込んだ。

「天和! 地和! 人和!」

 視界に入ってきたのは、縛られた彼女たちへと拳を振り上げ、何故か半裸になっている数名の男ども。


 俺の中で、糸が切れる音がした。

 波才の言葉を聞いてから、徐々に左右に引っ張られ、書簡を開いてから張りつめつづけていた『理性』を宿す糸がついに臨界点を突破した。


「この! 屑どもがあぁぁぁーーーーーー!!!!」

 夕雲から飛び降りながら、着地寸前に傍に居た者の背後から連理を心臓へと突き立てる。

「え?」

 何が起こったかわからない様子で倒れていき、怒りのままにそれを引き抜く。と同時に、天幕の内部にかけられていた布を三人へと投げ彼女たちが血で汚れることと、混乱を防ぐ。

 天幕内に血の雨が生じ、俺はその雨に濡れながら軽く周囲を見渡した。


 ほとんど半裸になり、現状が理解できずに呆けた男ども。

 机に置かれた血が乾いた硯と筆。

 少し離れた場所に落ちている小剣が三本。

 隅に置かれ、あと少しで火をつける筈だったと思われる香炉。

 そして、口の開き、近くに杯の転がる酒瓶。


 俺は近くに転がっていた香炉を、怒りのままに踏み砕く。

 見るからに高価そうなそれは、十常侍が与えたことを言外に告げていた。

 彼女たちで性欲すら発散しようとしたのか、この(ゴミ)ども。

「あぁ? 誰だ? てめぇは・・・」

「黙れ死ね塵。

 俺はお前たちに関心がない。お前たちはただ死ねばいい。

 いいや、俺が殺す。この手で殺す。どいつこいつも生かしておかない」

 あと五人、どれが馬元義だか知らないが、全員斬り捨てればいい。

 どちらにせよ、ここに居るならこの乱の中心人物であることは確定している。

 布を被せた三人の前に立ち、俺との間にさらに夕雲が入ってくる。

 三人にこんな光景を見せる必要はない。

 本来傷つく必要もない三人を、この塵どもはどれほど傷つけやがった?

 これ以上、傷つく必要なんてある筈がない。

 もう俺が、傷つけさせやしない。

「白陽、しばらくの間三人を頼む」

 自分の声でありながら、それは酷く冷めていて、自分が発したことを疑ってしまいそうだった。

「援護は不要。

 それに、すぐ終わる」

 その言葉に怒りを抱いたのか、各々棍棒、槍、剣を持つが、その構えは酷いものだった。

 まるで子どもが初めて木の棒を持った時のような無知な子ども。あるいは天にもたまにいた危険な刃物を持つことで自分が強いと錯覚する、馬鹿な若者の目をしている。

「承知いたしました」

 白陽の短い返事を聞くと同時に、俺は動いていた。

 直後、その場に二度目の血の雨が降る。

 したことはいたって簡単(シンプル)

 目の前にいた人間の懐に入り、血管が集中している首を目掛けて、剣を抜くように下から上へと振り上げただけ。

 失血死するまでは苦しむだろうが、それは知ったことではない。

 だが、彼女たちに苦悶の声を聞かせる気はさらさらなく、その喉を潰すように倒れたところを踏みつける。

「まず一人」

 足元で足掻く鬱陶しいものへとさらに体重をかけ、俺は左手で西海優王を引き抜いた。

「ひぃ?!」

 数名が逃げ出そうとするが、俺に逃す気はない。

 むしろ敵に背中を向けるのは、獣相手でも愚かなことだと教えてやろう。

 俺が逃げた者たちの方向へと、西海優王へと気を流して軽く振るって見せる。そして、天幕から出たところで、背後を向けて逃げ出した二名の首が吹き飛んだ。

 自分でやっておいてなんだが、それはまるで突風で吹き飛んだ建物の屋根のようだと他人事のように思う。

 だけどやっぱり、気の扱いが下手糞だなぁ。俺。

 でもまぁ、今回は加減する理由も、必要もない。問題ないだろう。

「な、何だっていうんだよ?! あんたは!! 今のは・・・・」

 ガタガタと震えだす残り二人が、その場で腰を抜かしていた。武器もまともに握れないようで、剣先は安定しない。

「今の? 気だよ、気。

 もっとも俺は加減が出来ないから、使うことは自粛してたけどな」

 日本にも合気道は存在し、それを学ぶことで俺は少しでも凪に近づこうとした。

 だが、気を発することは出来ても、物を破損させるほどの実力はあちら()では得られなかったのだ。

 だから、ただひたすら気を流し、気を溜める方法を修行し続けた。

 だがこちらに戻ってきて、試してみた際に成果は急激に表れ、俺自身も酷く驚かされた。

 気を発し、物理的に物を壊すことが意図もたやすくでき、それどころか使わないように加減しなければ危険なものに昇華していた。

 どうやら気で物を壊す行為は、この世界特有のものらしい。

「化け物があぁ!!」

 めちゃくちゃに剣を振るう奴の隣へと、凪と同じ気弾を打ってみる。

 すると男の顔はなくなり、その場に倒れた。

「『化け物』?

 大いに結構だな、俺はお前たちを殺すための化け物になってやるよ。

 彼女たちを利用したお前たちも、その裏も壊そう。

 腐敗しきったこの国の根元を一掃し、曹孟徳という日輪でこの大陸を照らす。

 我らの偉大な覇王がこの大陸を照らすのを、陽の光りが届くことのない地獄で聞くといい。

 俺が必ず、お前たちと共謀した塵どもを、そこに落としてやる」

 剣先をゆっくりと首へと近づけ、言い聞かせるように、死んでもその魂に刻みつけるように聞かせた。

「た、たすけ・・・・」

「命乞いしても、もう遅いんだよ」

 そう言って俺は、男の首を刈った。

「・・・・十常侍、か。想定外だったな」

 もし、そいつらがいなければ違う可能性があった。

 別の形で、この大陸に幸せを作ることも出来ていた。

 これから起こるだろう多くの戦が避けられることを、心のどこかで願っていた。

「壊したのは、貴様らだ」

 そう言ってから俺は死体に背を向けて、白陽が傍に付く三人の元へ仮面をとりつつ駆け寄った。


「天和! 地和! 人和!」

 俺が声をかけ、かけていた布を取り払う。

「か・・・ず・・・と?」

「かずと・・・・ なの?」

「一刀さん・・・?」

 服が破かれ、顔や腹には血が滲んだ怪我が見える。

 本当ならば多くの言葉をかけたい、今すぐにでも抱きしめたい。

 だが、今は時間がない。

 ここには間もなく、多くの兵が集まってくる。

「三人とも、ただいま。

 いろいろ話したいことも、伝えたいこともある。けど今は、三人には安全なところに行ってもらう」

「かずと・・・・ かずとぉ!」

「ごめん、ごめんねぇ! こんなことになってごめんねぇ」

「・・・・・ごめんなさい」

 泣きだす三人を一度だけ抱きしめ、一人ずつ抱えて夕雲の背へと乗せた。

「三人は悪くないんだ。だから、自分をそう責めなくていい。

 姓は曹、名は仁、字は子孝。そして、真名は冬雲。

 今の俺の名を受け取ってくれ、三人とも」

 俺の言葉にまだ泣く三人へと姿を隠すようにして布を被せ、白陽へと目を向けた。

「白陽! お前は・・・・」

「却下です。

 彼女たちの護衛は、今やっと追いついた紅陽と青陽で事足ります。

 ですが、あなた様一人でここに来る兵を相手取るにはあまりにも無謀です」

 三人の護衛を頼もうとした瞬間に却下され、二人が既にそこに居た。

「私はあなたの影、雲があってこその私。あなたが降らす全てが私なのです。

 あなたが落とす(怒り)、それもまた共に在りましょう」

 俺がここから何をするのかをわかっているかのように言う彼女に、驚きを通り越して呆れてしまった。

「・・・・お前は俺以上に変わり者だ」

「主が大陸でも有数の変り者ですし、家が仕える主もまた人材収集好きの変り者ですので」

 間髪なく切り返してくる白陽へと、俺は少しだけ笑い夕雲へと乗った三人へと軽く微笑みを向ける。

「城で待っていてくれ、三人とも」

 そう言うと三人は不安げな目をして、俺を見た。

 あんな別れ方をしてしまった俺が、この状況下でまた別れるとなれば不安を抱くのも仕方ない。

「大丈夫、絶対に俺は帰るからさ。

 それに俺たちは一人じゃないだろ? みんな、三人のことを待ってる」

 ただ、この姿を見たら俺と同じように飛び出してきそうなのが数名いるが。

「冬雲・・・さん、今度はあの時の約束を、守ってくれますよね?」

 俺が見ずに終わってしまった『役満姉妹』の大陸制覇。

 この目で、いつものように舞台袖から彼女たちが輝く姿を見たかった。

 俺は無論、頷いた。

「当然だろう?

 いつかみたいに、舞台袖からみんなを見守るよ。

 三人が一番輝く瞬間を、他の誰にも譲らない場所から、今度こそ見届けてみせる」

 だから、安心してくれと言って、頭を優しく撫でると人和は目に涙を溜めて頷いた。

「紅陽、青陽、夕雲、三人を任せたぞ」

「「「はっ(ヒンッ)!」」」

 二人と一頭が返事と同時に駆け出すのを見送り、天幕を出る。

 本陣で何かがあったことがわかったのだろう、一直線に俺の元へと多くの兵が集まってきている。

「白陽、兵数は?」

「その数、およそ八万。

 本来ならば洛陽から飛将軍が三万、他五万を諸侯が分割する形で討伐する予定だったようですが・・・・ 見ての通り、冬雲様が開けた穴のせいで一直線にこちらへと向かってきています。

 いかがいたしますか?」

 わざとらしく俺へと問いかけながら、俺は迫ってくる多くの者たちに殺意を向ける。

「選択肢なんてないだろ。

 三万だろうと、五万だろうと、八万だろうと、関係ない。

 全部、斬り捨ててやる」

 これは十常侍への見せしめだ。

 お前が誰を怒らせ、何をしたのか、そしてその結果がどうなるかを教えるための公開処刑の場。

「では、その背中を私は守りましょう」

「どうせ、駄目って言っても守るんだろう?」

「無論です」

 その言葉に肩をすくませて、俺は向かってくる兵たちを前に深く息を吸い込んだ。

 考えるのはあの書簡、三人の姿、そして、己自身への尽きぬ怒りだった。

「行くぞ、白陽」

「あなた様とならば、どこまでも」

 連理と西海優王を抜き、俺は背中を白陽へと任せて俺たちを囲んでくる者たちの一部へと突っ込んでいった。



 敵の数が多いため、どこに振るっても刃は当たり血が噴き出す。その中でどれほど的確に急所へと当て、如何に早く数を減らすかが俺の生死の境目だろう。

 何人斬ったのかもわからない中で俺と白陽が背中を合わせ、互いにやや乱れた呼吸を整える。

「数えているか? 白陽」

「二万を超えたのを境に、数えることを放棄いたしました。

 援護は始まっているのでしょうが・・・ やはりこの数、人の壁が軍の進行を遅れさせているのかと思われます」

「だろう、な!」

 連理と西海優王に気を乗せ、近づいてきた兵たちの歩をわずかに遅れさせる。

「まだ、いけるか?」

「無論です」

 そう言ってたがいに駆け出した瞬間

「兄上の阿呆んだらあぁぁぁぁーーーーーーー!!!」

「兄者の考えなしがあぁぁぁぁーーーーーーー!!!」

 馬の蹄の音と共に聞こえたその二つの声に俺は剣を振るいつつ、額に冷や汗が流れるのを感じていた。

 わずかに視線を向ければ、激しい土煙と血飛沫をあげながら、それぞれの得物と鎧を汚した義弟二人がこちらへと向かってきていた。

「・・・・本当にどいつもこいつも、馬鹿ばっかりだよ! この軍は!!」

 笑いをこらえながら剣を振るい、また敵兵たちと間をとった。

 二人が穴を開けるようにして、俺が立つところで馬から飛び降りる。

 樟夏が右に立ち、双刃剣『霧影無双』を軽く回転させる。

 樹枝は左に立ち、棍『理露凄然』を構えた。

「兄上、まず何から言ってほしいですか?

 常識から説きましょうか? それともあなたの立場から説きましょうか?」

「姉者が許したとはいえ、兄者は自分を蔑ろにする行動が多すぎるかと。

 以後、控えていただかなければ・・・」

「自分の身よりも、大事なものがある!」

 二人の言葉を聞きながら、一歩踏み出した形で迫っていた矢を薙ぎ払う。俺の背後から弓兵を殺すために暗器が飛び、俺はそのままの勢いで前衛の敵兵の数名の首を目掛けて斬り込んでいく。

 そんな俺に慌てた二人が追ってくるのを感じとり、俺は笑っていた。

「ほらな?」

 俺がそう言いながら一人、また一人と命を奪っていく中で二人へと呟いていた。

「だから、いったい何のことを言っているんです?!」

 樹枝の怒鳴り声を聞きながら、俺は楽しくてしょうがなかった。

 俺たちがこうして共に並ぶことは戦場ではいまだ経験はなく、だというのに近距離の俺を二人が援護してくれる。仕損じた相手は白陽が拾い、その間の白陽を誰が指示したわけでもなく守っている。

「俺を追ってここまで来たお前らも、俺と同類だ!」

「はっ?

 あっ・・・・ ですが、それは兄上が!!」

「・・・・反論できませんね。

 無理にしたとしても、兄者を笑わせる理由が増えるだけですからやめておきましょう。樹枝」

「ハハハハハ、俺の周りは変り者や馬鹿ばっかりだ。

 だけど・・・ なんて気持ちよく、背中を預けられるんだろうなぁ」

 ここに居ないみんなも、同じ戦場で戦っているだろうみんなも、なんて心地よい仲間ばかりなんだろう。

 憎しみと怒りに囚われているのが、馬鹿らしくなってくる。

 そう言って俺たちはもう一度だけ、互いに背を預けた。

「樟夏、樹枝、白陽」

「何でしょう?」

「わかってますよ」

「はっ!」

 三人の返事を聞き、俺は笑った。

 背を預けるのはたった三人だというのに、なんて心強いことだろうか。

 いや、違うか。

 ただ傍にいないだけで、ここに居ないみんなにも背を預けている。

 なんて、頼もしいんだろうな。

「行くぞ!!」

「「「はいっ(はっ)!!」」」

 俺たちはそう言って、万の敵へと突っ込んでいった。


雷を雲に戻すのは、彼女たちだけの役目ではありません。

時には、下に気づかされることもあるでしょうね?


感想、誤字脱字お待ちしております。

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