22,別離
ギリギリ午前中に投稿できたかと思います。
焦った・・・ 超焦った。
宣言通りに投稿できないとか、かっこ悪いことするところだった(汗)
今回のサブタイトルは結構適当ですね、始まりが『邂逅』だったのでその対義語にしたかったんですが明確な言葉がなさそうだったのでこれになりました。
共同戦線から数日、劉備軍の死体処理指導や近辺に残っていた黄巾賊の小部隊の殲滅を行うなどと慌ただしい日々を過ごした。
「冬雲、入るわよ」
「あぁ」
その忙しい中で俺は、今回の件で出た被害やそれに類する書類等の処理を任されていた。
負傷していたことが理由の一つにあげられるが、糧食や装備、被害等のことをまとめる者がどうしても必要だった。
本来は文官である雛里の方が向いているのだが、状況的に雛里には軍師としての仕事をやってもらうしかなく、書類仕事を片づける暇がなかったためだった。
「今回の被害は軽いようね、問題は装備面かしら?」
笑いを含みながら、俺の書いていた書簡を覗きこむ華琳に対しておもわず俺は呆れてしまう。
「どうすんだよ、この装備とかの損失。
あっちの軍の助力を得るためだったとはいえ、けして少なくはないんだぞ?」
「あら? あなたは、私がこの程度も相手に施せないような狭量な王にしたいのかしら?
それとも、あなたたちの力ではこれくらいも補えないのかしらね?」
すぐさまそう返してくる我らが愛しの覇王様の答えに苦笑しつつ、俺は書簡を書き上げる。
今回の被害は少ないのは事実だが、正直得る物も少ない。
今回の黄巾賊討伐の手柄は孔明の狙い通り、劉備軍の物となるだろう。だが、この近辺の民の一部は陳留へと流れてくる。
しいて言うなら、この民こそが今回得るものだが、それにはまず民に投資しなければならないだろう。
「まったく、無茶言うよ。
この後帰ってからも、またいろいろ忙しくなるっていうのに」
戸籍も徐々にだが基礎を作れているし、それをどの機を使って実行に移すかが難しい。おそらくは、魏を建国した後となるだろうが、その前から軽く把握しておいた方がいいだろう。それに難民に等しい彼らには、住居と職も必要だ。
現状では技術として取り入れられているのは火葬と浄水だけだが、それ以外もいろいろと取り入れたいことはある。浄水もまだ効率がいいとは言い難いし、改善の余地がある。
だが、それにやはりまだ人材が足りていないし、技術が足りない。
「今はまだ焦るときではないもの、全てがこれからの私たち次第。
そうでしょう? 冬雲」
まるで俺の思考を読むように、華琳の青い瞳に見つめられる。
やはり俺は、どうやっても華琳には叶わないようになっているらしい。
「それに今は、彼女たちが次にどうするかを見るべきでしょうね」
「そう、だな」
いつまでも劉備軍と動く理由は俺たちにはない。ましてや、利益が薄いのならば尚更だ。
俺たちには帰るべき場所があり、無事目的である功績をあげることが出来た彼女たちも俺たちと共に行動する理由はない。
「関羽の一件も、まだ終わっていないわ。
あなたもあの程度で済むとは思っていないでしょう?」
「罰として足りないのはわかるけど、ここからは俺の分じゃない。
むしろ、重鎮である俺を傷つけられたことと陳留の刺史である華琳に刃を向けたことだからなぁ」
罪には罰が必要とされる。
上に立つ王と将がこれを破ってしまえば、兵たちへの示しがつかない。ましてや、俺の分はほとんど兵たちには何をしたのかがわかっていない。
だからこそ次は、誰の目からも明らかな形での罰が必要となる。
「それで? 華琳はどうするつもりなんだ?」
決定権は華琳にしかない。
そして俺は、なんとなくだがその答えをわかっていた。
「彼女たち自身に決めさせるわ。
私はあれを見たあの二人がどういった決断をするのか、見てみたいのよ」
そこには、俺が誰よりも愛する王の姿があった。
あぁ、華琳。お前はどうしてそう在れるんだろう。
あの過去よりも強靭に育つ恐れのある劉備に成長を促し、むしろ戦うことを望んですらいる。
どこまで正々堂々と、自らが見定めた相手へと向かって行く姿はまさに『覇王』の名に相応しい。
「まったく、華琳は物好きだ。
今なら弱小勢力である劉備なんて、すぐに潰せるのにな」
おもわず零れた俺の言葉に、華琳は俺の口元へと指をあてて顔を覗きこんでくる。
「私は覇王となる者よ? 冬雲。
今の劉備たちを潰して、一体何の意味があるのかしら?
互いに譲れぬ信念のもとに最大の武を振るい、勝利を得ることにこそ価値がある。
けれど今となっては、これすらも通過点に過ぎない」
『わかっているんでしょう?』と目で問うてくる華琳に、俺は笑う。
統一したその未来こそ、俺たちが見たい光景が広がっている。
「それとも、覇王たる私は嫌いかしら?」
悪戯そうにそう言って笑う華琳に、俺は首を振って否定する。そして、華琳の腰へと手を伸ばして、軽く抱きしめる。
彼女こそ俺が恋した覇王・曹孟徳であり、魏の日輪、俺の愛する寂しがり屋でどこか意地っ張りで、全てにおいて万能な少女。
「俺は覇王である華琳も愛してるよ。
女好きな華琳も、料理に厳しい華琳も、将を信頼する華琳も、全部大好きなんだ」
その全てが彼女自身であることを、俺は誰よりも知っている。
そしてきっと、あの時のみんなもそうだってわかる。
ただみんなは俺よりも将として優秀で、少女の華琳でなく王としての華琳に心酔していただけだ。
「フフッ、そうよ。
覇王たる私も、私の一部でしかない。
あなたがそれを、教えてくれた」
今この時、この瞬間、華琳の笑顔は俺だけのもの。
それがどれだけ誇らしいかなんて、誰にも教えてなんかやらない。
「仲睦まじいところ、大変羨ましく、微笑ましいのですが・・・・」
「?!」
突然華琳の影から飛び出て来た黒陽に俺はおもわず腰を浮かし、目を開く。気配でそこに居るのはわかっていたが、いつものように空気を読んでそっとしておいてくれるものだと思ったんだが?!
そして、腰を浮かすとか我ながら情けない上に、みっともねー・・・
「あら、残念ね。
それともあなたも混ざりたいのかしら? 黒陽」
さすが華琳、いつも通りの対応がいっそ清々しい。
しかも混ざることを提案するとかね? もう華琳が、華琳だなぁと実感したぞ?
「それはとても魅力的且つそそられる提案ですが、今回は非常に残念なことに遠慮しておきましょう」
笑顔でそう答える黒陽も、なんていうか流石華琳の隠密だよな。
言葉に込められた熱と、送られてくる視線が本気だと語っているような気がするのは何でだ?!
「さて、本題です。
あちらからお話があるそうです。
天幕等の片づけも同時に行っているようなので、おそらくはこちらに別れの挨拶でもするのかと」
話していた直後にこれ、か。
「どうする気だろうな?」
こればかりは俺にも想像が出来ない。
あちらが何を考え、思い、行動するかなど俺たちにはわからない。
だからこそ、俺はここに生きていることを実感できる。
「それは見てからのお楽しみ、というものじゃないかしら?
黒陽はこのことを春蘭たちに伝達、私たちが先に向かっているわ。それに追いつくように言っておきなさい。
雛里の元にいる紅陽、秋蘭の元にいる青陽、曹仁隊の牛金には軍の撤退準備を指示。
白陽は私たちについてきなさい」
「承知いたしましたわ、我らが覇王様」
「はっ!」
次々と指示を出す華琳、それに笑みをたたえて答える黒陽、どこまでも真面目に短く応える白陽。
黒陽はすぐさま天幕を飛び出して行くのを見てから、俺たちもゆっくりと立ちあがる。
「行くわよ」
そう言って俺の前を歩む彼女の背に、今ここに居ない筈のあの仲間たちを幻視する。
かつてはあれほど寂しく見えた背が、なんて多くの者に守られているんだろうか。
「あぁ」
幻視した仲間たちを追いかけるように、俺は華琳の背に続いた。
「わざわざ呼び出して、申し訳ないね。曹操さん、曹仁さん」
そう言って俺たちを苦笑で迎えたのは北郷と劉備、孔明。そしてあちらの軍の三人の将たちだった。
用心のために帯刀はしているが、そこには最初ほどの警戒も殺意もない。
「それで、私たちを呼び出した理由は何かしらね?」
行く途中で合流を果たしたこちらも、将の全てが揃っている。
いまだに樟夏は関羽に対して警戒心が強く、いつでも動けるようにはしているようだが、この様子ならばその心配は無用だろう。
「曹仁さんを傷つけた件と、これからのことを話して別れようと思ったのと・・・・
その後に、個人的に曹仁さんに聞きたいことがあるんだ」
そう言って劉備と北郷は、今回の当事者であるために横に並ばされていた俺と華琳の元へと出てきた。
そこに始めて出会った時の弱々しく、流れに身を任せていた者たちの姿はない。
歩みだしたばかりではあるが、覚悟を決めた二人の王が俺たちの前に立っていた。
「今回の一件は全て、私たち二人が無知だったことから引き起こしてしまったことです。
将であり、義姉妹である愛紗ちゃんを止められなかった責任は私にあります」
劉備の言葉は自分が無知であったことを認め、彼女をいさめられなかったのは自分が悪いという。
それは事実だ。姉妹の契りを結んだのならば、尚更彼女は『王』としてだけでなく、『姉妹』としても関羽のことを理解するべきだった。
「そして俺は、彼女たちの主としてもっと慎重に動くべきだった。
天の情報も良かれと思って話して、朱里を焦らせて、結果的には愛紗を追い詰めてしまった。これは俺の責任だ」
その通りだ、北郷が最初から天の歴史などに振り回されず、彼女たちを、環境を知ることから始めればこんなことは起こらなかった。
そして二人は、俺たちへと同時に言う。
「「だから、罰するというのなら、俺を罰してほしい」」
「「「「なっ?!」」」」
二人のその言葉に俺たち以上に後ろの将たち四人が動揺していることに、俺は大して驚くことはなかった。
それは華琳も同じようだが、こちらも後ろの四人は少しだけ動揺しているかな?
「桃香様! ご主人様! あれは私が・・・・!!」
「そうでしゅ! 私たちが勝手にやったことです!!」
「何もお兄ちゃんたちが受けることないのだー!」
二人の行動に対して、三人は口々に異論を唱えるが関平だけが驚いてはいるがすぐさま冷静になっているのが目に見えてわかる。
この中で今、一番厄介なのは彼女だな。
「・・・・朱里殿、姉上、鈴々殿、主たちの会話は続いている。
私たちが口を挟むべきではないと思うが?」
「「「だが!」」」
そこで彼女は一度だけ蛇を模した偃月刀を地面へとぶつけ、音を立ててから三人をきつく睨みつける。
「主たちの決断に水を差し、覚悟を無駄にするというのならば、私は誰であろうと容赦はしない。
これもまた、軍でありながらそれぞれ勝手にしてきた我らが受けるべき罰だ」
関平のその言葉に三人が顔を伏せ、彼女は俺たちと主である二人に向かって頭を下げた。
「話に割っては言ってしまい、申し訳ございませんでした。我が主よ。
そして、大変見苦しい所をお見せして申し訳ない」
俺たちはそれには答えずに、俺は少しだけ華琳を見る。一見は厳しい表情を取り繕って腕を組んでいるが、コレは相当楽しんでるな。
「あなた達の将は納得していないようだけど、いいのかしらね?」
苦笑交じりに頭を下げたままの二人へとそういう華琳は、楽しげでも真剣でどこまでも二人の真意を確認しようとしている。
「これは俺たちが決めることであり、話し合いの席を設けたら絶対に許してくれないことがわかってた」
「だから、勝手ではあったけれど二人で話し合ってこうすることを選んだんです」
「なるほど、ね」
わざと少しの間の沈黙をもって、いかにも『どうするかを迷っている』と相手に思わせる行動をとってから華琳は口を開いた。
「では、処罰を下すわ」
周囲はその言葉の次を聞き漏らすことのないように静まり、緊張した重々しい空気がそこに流れた。
「あなたたち自身が、自分の罰をこの場で決めて見せなさい」
華琳の言葉に頭を下げていた二人はすぐさまあげ、顔を見合わせる。
無論、後ろがまた騒ぎかけたが、それも先程のように騒ぐ前に関平が視線でそれを押さえていた。
だが、王たる彼らには迷いがないように俺には見えた。
北郷の視線を受け取った劉備が頷き、北郷はその場で制服の上着を脱ぎ、劉備は腰に差している『靖王伝家』を俺たちへと差し出した。
「・・・ほぅ」
「これは・・・」
「・・・確かに、相応でしゅね」
それを見て、今度はこちらの背後から驚きと感嘆の声が漏れていた。
俺も目を開いて驚くが、華琳の目はまだ厳しい。行動だけではその真意はわからない。ならば、次に華琳が言う言葉には察しがつく。
「この二つがどんな意味を持っているか、あなた達は本当に理解した上でこうしているのかしら?」
皇帝の血族である証とされている『靖王伝家』と、『白き天の遣い』の証拠である白き衣は兵を集める理由となったものだ。
それを捨てることがどれほどの意味があるかをわかっていなければ、たとえ兵への示しになったとしても罰には値しない。
「今の俺たちには『白き天の御使い』の名も、『皇帝の血縁』という名も相応しくない」
「私たちは無知で、今まで理想だけを掲げて何も見ていませんでした。
この名に縋って、みんなに責任の全てを押し付けて、立っていました」
覚悟を決め、己の無知を知った彼らは語る。
そして、二人で支え合うようにそこに居る二人の姿が、俺にはひどく眩しく映った。
俺とは違う北郷がそこに居て、初めから何もかもが違うとわかっていても、彼女とは初めから対等に並んで立っていることが、ほんの少しだけ羨ましく思う。
「「これが今、将や兵を失わずに、俺たちに出来ることの最大限の罰だ」」
今一度頭を下げ、白き衣と剣を捧げる二人の言葉に華琳は満足そうに頷いた。
「あなた達の覚悟と決意、確かに見届けたわ」
そして一拍置いてから、華琳は俺に受け取るように促してくるので俺は二人から受け取る。
「白き衣と王家の剣はあなた達がこの名に相応しくなり、必要となるその時まで私が預かっておきましょう」
「「えっ?!」」
驚く二人に対し、華琳はそれ以上何か言うつもりはないようで、すぐさま背を向けた。
本当に楽しそうでしょうがないと言った覇王の笑みを湛え、春蘭たちもまた華琳に続いていく。俺もまたそれに続こうとしたが
「あっ! 曹仁さん。
聞いてもいいか?」
立ち去ろうとする俺を呼び止める声に立ち止まり、俺は振り返った。
「何だ?」
「あんたは、天の歴史を知っているんだろ?
どうして、そうしていられるんだ? 何で・・・・」
俺は苦笑しながら、北郷へと向き直った。
かつての俺には、そう考えている余裕もなかった。
『天の歴史』に縋る前に命の危機にさらされ、真名を知らずに殺されかけたのは大きく、華琳自身がそれを広めることを禁じた。
「なぁ、北郷。
お前にとって、関雲長とはどんな存在だ?」
「えっ?」
俺の突然の問いに間の抜けた顔をした北郷を笑いながら、俺は続ける。
「直情的ではあるが仲間思い、武は強くともそこに居るのは、一人の女性じゃないのか?」
たった数日、別に傍に居たわけでもない俺でも数度の行動でこれほどのことがわかる。
それはより近くにいる北郷ならば、もっと多くのことを知っているだろう。
「俺にとっての曹孟徳という存在は強く、気高く、まさに覇王の名に相応しい存在であると同時に・・・ 寂しがり屋で、意地っ張りな、誰よりも大切な女の子なんだよ」
俺にとって華琳たちがそうであるように、北郷にとっての劉備たちが支えであり、この世界で初めて出来た繋がり。
「俺は好きな女の子の前で少しだけ、胸を張りたい。
ただそれだけのことに、こんなに必死なのさ」
俺はそう言って腕を広げて、笑う。
俺を支えてくれる彼女たちの隣に並びたい。恥ずかしくない自分でいたい。
そう思う気持ちの根本にあるのは天だろうと、ここだろうと関係ないちっぽけな、それでも誰にも譲れない男の意地。
「・・・・そうか。
あぁ! 俺も愛紗たちの良い所ならいっぱい知ってるんだ!
どんなに魅力的で、素敵な女の子なのかをさ!!」
「「「ご主人様?!」」」
劉備、関羽、孔明が顔を赤くして、北郷の口を塞ぎにかかっているところ見て俺たちも笑うが、華琳が意味深な笑みを浮かべて俺を見て呟いた。
「ご主人様、ね?」
その目は『あなたもあちらにいれば、そう呼ばれていたのね?』と語り、俺の額に冷や汗が流れた。
「冬雲・・・ ご主人様・・・」
「冬雲ご主人しゃま?」
ぶつぶつと小さく練習している春蘭と、もう言い出してこっちを向いて首を傾げている雛里が可愛い。じゃなくて!
「さすが天の御使い、あの強者揃いな将たちに『ご主人様』呼びをさせているとは私は恐ろしくて無理ですね」
「どういう意味だ? 樟夏」
驚きの声をあげる樟夏は秋蘭によって、飛ばされている。
あの野郎、余計な地雷を設置しやがった・・・・
俺はこれ以上被害が拡大しないうちに、北郷達から背を向けて走り出す。
「曹仁さん!!」
呼ばれた声に走りながら振り返ると、どこかすっきりとした顔で劉備たちに囲まれる北郷がいた。
「俺も頑張ってみるよ!!
頑張って、みんなと一緒に並んでも恥ずかしくないくらいにはなれると・・・ いいなぁ」
苦笑しながら、最後は尻すぼみになってはいる。そんなところが、かつての俺を思い出させた。
「『なれるか』じゃない、『なるんだ』!
俺だってまだその途中だけどな!!」
そういうだけ言って、俺は兵たちと共に天幕の片づけの指示をするために北郷達から走り去っていった。
さて、次は・・・・(ニヤリッ)
シリアスではないとだけ、言っておきましょう。
感想、誤字脱字お待ちしています。




