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 共同戦線 直後 【愛羅視点】

書けましたー。


オリキャラの視点はやっぱり苦戦しますね。

ハロウィンが書ける気がしません・・・

というか、投稿が無事終了しましたら、作者は寝ます。


読者の皆様、いつもありがとうございます。

 遠目から事態を確認し、私はすぐさま主であるお二人の元へと駆け出していた。

『兄者はしばらく黙っていてください』

 だが、その直前に聞こえた怒りを宿した言葉に一瞬だけ振り返り、足を止めて声の主を視認する。

 まっすぐな金の髪を、肩を少し超えたあたりまで伸ばし、負傷した曹仁殿を守るようにして前に出た彼の姿に私は目を見開く。

 

 あの姿こそが、私が行うべきことだったことではないのか?

 姉上の言葉にただ従うのではなく、他の将たちに遠慮するのではなく、姉上の行為を律することこそが、私のすべき行為だったのではないのか?


 彼のその姿と言葉に、私は頬を叩かれたときのような衝撃を受けた。




 どこか浮かぬ顔で次々と黄巾の賊を斬っていく姉上の横顔を見つつ、私もまた姉上と同じ偃月刀 ――― 愛刀である『碧蛇下弦(ひゃくじゃかげん)』 ――― を振るう。

 戦いながら私は、姉上と共に歩んだこれまでに思いを馳せていた。

 たとえ玄徳様であっても語ろうとしない武人としての姉上の始まり、そしてそれはその場で共に変わってしまった(・・・・・・・・)私だけが知っている過去の出来事。



 姉上は昔から優しく、武芸に秀でた方だった。

 目上の者を敬い、幼い子どもたちにも笑顔を向けて遊ばせることが得意で、同じ年の者には好まれた。商家の娘でありながら、それを鼻にかけるわけでもなく誰からでも愛される不思議な力を持ちあわせ、人の中心にいることを自然にできてしまう存在。

 かつての姉上は、主である玄徳様とそう変わらぬ人柄を持っていたのだ。

 それに対して私は、幼い頃からそんな姉上と比べられてきたことによる反発心から、その真逆に育った。

 いや、『自分は自分だ』と叫び、そのありのままを周囲に認めさせたくて、自分から全く違うものになろうとしていたのかもしれない。

 大人の意見には反発し、すぐに泣く幼い子どもは不得手とし、同じ年の者からは疎まれる。そして、そんな者たちに対して、私自身すぐさま暴力を振るってしまい、その親からすらも疎まれた。

 武芸も、学問も両親が用意してくれた指導者ではなく、村はずれに住んでいた軍人崩れの老人から習い、文字もその老人から学びながら、あとは家にあった書物から独学で会得していった。

 私の味方は、姉上と師に等しい老人だけだった。

 『村で偏屈で有名な老人を慕う変り者で、乱暴者』、それが周囲からの私の認識だった。

 当然、そんな子どもを親が愛してくれる筈がない。そしてそれは、両親が渡してくれた偃月刀に銘となってはっきりと現れた。

 姉上の『青龍偃月刀』、私の『碧蛇下弦』。

 その頃から勝手に考えていたことのなのだが、おそらく姉上の武器の本来の銘は『青龍上弦』だったのだろう。

 満ちていく月には希望が宿り、天には青き龍が昇る。

 欠けていく月には絶望が溢れ、地には碧の蛇が降る。

 だが姉上はその武器を見て、私に言ってくれた。

「私たちが二人揃ってこそ、この月は満ちるのだな。

 これからもずっと共にいて私の背を守り、私の行いを正してくれないか? 愛羅(あいら)

 その一言で私がどれほど救われたかを、姉上はきっと知らない。

 私は両親を愛することも、私を疎んだ村の者たちを許すことも出来ない。

 だが、こんな私でも姉上と共に並び立つことが出来るのならば、私は上弦の片割れである下弦でいい。

 他の誰に言われようとも、私は姉上と実の姉妹であることこそが誇りだと感じた。

 だが、姉上は変わってしまった。

 いいや、違う。

 『変わらざるえなかった』という方が、正しいだろう。

 私と姉上が共に任された商人としての初仕事、苦戦しながらも成功させることの出来たことを報告しようと戻ってきた私たちを待っていたのは、変わり果てた故郷の姿だった。


 その日、私たちは初めて人を殺した。


「愛羅」

 姉上の短く私を呼ぶ声には、静かな怒りを宿していた。

「はい、姉上」

 答える私もまた、静かに偃月刀を抜く。

「行くぞ」

「えぇ、参りましょう」

 策もなく、互いにそれ以上の言葉も必要とせず、私たちは賊たちの中央へと突っ込んでいった。

 急を突かれた賊たちは戸惑い、私たちは次々と首を刈り、腹を裂き、肉を、骨を断っていった。

「ば、化け物だ!!」

「なっ・・・・ 貴様ら、自分がしたことを棚に上げて・・・!!」

 怒りで言い返そうとする姉上に私は手で遮り、笑う。

「あぁ、そうだろうな。

 だが、私たちが人でないのならば、貴様らもまた私たちにとって人ではない!!

 死ね! 畜生にも劣る塵芥ども!!」

 それ以上の言葉はそこから消え、ただ二振りの偃月刀は銀閃となって、辺りを血に染める。

 その場にいた全ての賊を斬り殺した後、私はただ空へと吼えた。

 人は失ってから、失くしたものが如何に大切だったかを気づくという。

 それが真実であることを、私はあの日に身をもって知った。

 故郷を失ってようやく私は、あれほど嫌っていた両親も、自分を疎んでいた村の者たちすらも、愛していたことに気づかされた。

 母の料理をもう味わえず、父の苦言を聞くことはかなわない。

 五月蠅いと思っていた子どもたちの遊ぶ声も、煩わしいと思っていた妙齢の女たちの井戸端会議も、酒を飲んだ男たちの活気も、全てがもう存在しない村であり、故郷だった(・・・・・)土地。

 燃え盛る生家、転がる知り合いの死体。そして、そこにはまだ新しい自分たちが生みだした賊の死体。

 私は全てを憎んだ。

 税を民からとっておきながら、賊を放置した官も。

 何の罪もない私たちの家族を、友を、故郷を壊した賊も。

 それを許す世すらも、私は憎い。

 誰を殺せばいい? 何を壊せばいい? どうすればよかった?

 どうしていたら、私たちは失わずに済んでいた?

 多くの疑問すら、怒りに飲み込まれて消えていく。

 不意に肩を叩かれ、そちらを見ると姉上の目にはかつてとは違う、燃えるような光が宿っていた。

 かつて宿していた包み込む光はなく、何かを壊すことでしかそこに在れない炎のような目。だがその光は、復讐しか考えられず、どこかが冷えきってしまった私には温かなものだった。

「共に弱き者を守ってくれないか、愛羅」

 その言葉がどれほどの怒りと悲しみを隠し、その思いの末に生まれた正義感だと知っていながら、私は姉上を肯定した。

 あてもなく、ただ賊がいると聞けばそこへ行って『民を守るため』と言って、賊を斬り殺す。実に馬鹿げた、それだけの日々。

 一歩間違えば賊と何も変わることのない、民から見れば賊と変わらない危険極まりない力を持つ放浪者。

 その過程でほとんど同じ境遇である翼徳殿と、主である玄徳様に出会った。

 だが私は、お二人と真名を交換することはなかった。姉上に促され真名を渡すことだけはしたが、私はお二人の真名を呼ぶことを拒んだ。私は姉上たちのように正義感から行っているわけではなく、ただの復讐心から行動だと自覚していたためだ。

 そんな私が、幼いながら槍をとって民のために在ろうとする翼徳殿の横に並ぶことも、武がなくとも民を守ろうとする玄徳様の真名を呼ぶ資格など存在する筈がない。

 同様の理由から、北郷様と三人が行った桃園の誓いにも参加しなかった。

 孔明殿が混じってもそれは変わらず、私はただ唯々諾々と指示に従っていただけ。


 だが、それは間違いだった。


 時が今に戻り、燃え盛る砦と多くの賊の死体が転がっている。

 姉上を見れば、先程と何も変わらない浮かぬ顔をしたまま、ぼんやりと空を見上げていた。

 私が思考を放棄していた結果が、姉上のあの行動だ。

 私は何をしていた?

 失くした故郷に縛られ、姉上すら見ずに拗ね、また失いかけた。

 それだけではない。

 私は一体どれだけの責任を、無意識に、誰かに押し付けていた?

「姉上、少しいいだろうか?」

 私が正さなければならなかったんだ。



「どうかしたのか? 愛羅。

 こんなところまで連れ出して、兵はいいのか?」

「翼徳殿に戦の前に伝えてあるので、問題はないだろうさ。

 さて、姉上。久しぶりに実の姉妹、水入らずの話をしないか?」

 曹操殿たちが居る崖からも死角になり、人気の少ないこの場所ならば私たちが何を話しても問題はないだろう。

「一体、何の話をするつもりだ?

 私は少しでも早く桃香様たちの元に・・・!」

「そのお二人の命どころか、軍の命すら己の短絡的な思考で危険に晒した自覚が姉上にはおありか?」

「っ!!」

 その言葉に私から背を向けて駆け出そうとしていた姉上は、こちらを鋭く睨みつけていた。

 これは私が見ようとしなかった物の一つ、姉上の怒り。

 だから私はわざと姉上の癪にさわるように、笑って見せた。

「一度目は曹操殿に刃を向けたこと、二度目は先程の件である曹仁殿を負傷させたこと・・・・ あぁ、二度目のことに付け足すならば官軍であり、装備・糧食を補ってもらった恩人の重鎮の方に刃を向けたことも、ですな?

 ハハッ、我らが掲げていた義すらも崩壊してしまいましたな」

 姉上の前でおどけながら、指折り数えていく。そうしていると姉上の眉間が動き、まるで怒りがそこに現れているようだった。

 すっかり鋭くなってしまった目つき、深く皺の刻まれた眉間。私が復讐以外を見ることを放棄していた間に出来てしまった、背負わせてしまった責任の副産物。

「だが!

 奴らはご主人様と桃香様を愚弄し、我らが同朋の遺体を焼き払ったのだぞ!?

 愛羅、お前はそれを許せるというのか!!」

「前から思っていたのだが、姉上はいつまでお二人を穢れの知らぬ存在にしておくつもりで?

 旗にするのは大いに結構ですがお二人が人間であることを忘れ、宝のように人々に遠目に見せてはその手に抱いて隠し続ける。

 傷の痛みも知らず、悲しみもわからず、死の重みを感じない。

 はたしてそれは、姉上が望む『王』なのか?」

 だがそれは、私も同じだ。

 私にとっても姉上とは、強く、明るく、何でも出来てしまう。笑うことはあっても、泣くことも、怒ることもしないそんな存在だった。

「孔明殿も、姉上もそうだが、何故お二人に現実を見せない!

 何故、二人だけで背負い込む?!

 穢れを知らぬ王を望むというのなら、生まれたての赤子でも、物の道理を知らぬ幼子でも玉座に据えておけばいい!!」

「愛羅!

 いくらお前であっても、言っていいことと悪いことがあるぞ!!」

 そう言って私との距離を縮めくる姉上に、私はさらに笑う。

「はっ! 怒るのか? 姉上よ!!

 姉上はただ過去に縛られ、故郷を失った(現実を知った)ことで変わってしまった自分に玄徳様を重ねて恐れているだけでしょう!!」

「っ!?

 違う! そんなことはない!!」

 私の胸倉を掴み、耳に痛いほど怒鳴ってくる姉上を私はまっすぐ見続けていた。

 私はもう、この表情から目を逸らしてはいけない。

「火葬に関しても、同様にあの日の村の光景に重ねた。

 そして、私たちの故郷を守ってくれなかった官が正しく力を振るうことも、人としてみていない賊を弔っていたことも気に入らなかった!

 そうでしょう?!」

 私は気に入らなかった。

 私たちの大切だったものを何一つ守ってくれなかった官が正しい力を持って戦い、その上で共に戦った者たちと賊が一緒に弔われた事実が許せなかった。

「違う!!」

 言葉とともに姉上の平手が左頬に当たり、私はそれをあえて避けなかった。それに対して私は、姉上と全く同じように右手をあげて、姉上の左頬を張った。

「そんな姉上を止めようともせず、全てを放棄していた私にも責任がある!」

 そう言って怒鳴った私に対して姉上は、ひどく驚いた表情で私を見ていた。

「愛羅・・・?」

 幼いころから乱暴者や変り者として知られた私だが、家族にだけは手をあげたことはなかった。

「私こそが! 姉上を支えなくてはいけなかったんだ!!」

 翼徳殿にも、玄徳様にも、ましてや主にもわからないあの日を知っている私こそが姉上を止めなくてはならなかった。

 私はそれを、曹洪殿の行動を見ることによってようやく思い出した。

 そして同時に、姉上も同じことをしてしまっている。

「姉上は一体何を思って、あの方々を旗とした?!

 『劉』の名を、『天の御使い』という名を欲したがための行動だったのか!」

 いまだに驚いたままの姉上へと、私はさらに叫んでいた。

「姉上があの方々と『主従』でなく、『姉妹の契り』を結んだのは何のためだった?

 甘やかすため? それとも裏切らせぬためか?」

「そんな筈があるまい!

 私は桃香様とご主人様、鈴々たちと共に姉妹として支え合っていくために、契りを交わしたのだ!!」

 互いに胸倉を掴み合い、至近距離で怒鳴り合う。

 これが生まれて初めて行う、姉妹喧嘩だった。

「支え合う? はっ、笑えますな!

 姉上の頭では『支え合う』という言葉を、『庇護』と勘違いしているのではないのですかな?」

 『支え合う』とは、互いに助け合うことだ。一方的に守る『庇護』ではない。

 そして今の私たちは、その負担があまりにも姉上と孔明殿に偏りすぎている。それは支え合ってなどいない。

「なんだとぉ!!」

「何も知らぬものを王とし、ただの理想だけの張りぼてなど今の漢王朝と何が違うのです?!

 それが何を生んだかを、私たちはこの身をもって知っている筈でしょう!」

「ならば・・・・ 私はどうすればいいというんだ!」

 そこでようやく姉上の目に涙が浮かび、自分の胸倉を掴んでいた姉上の手を掴んだ。

「私もその責任を背負いましょう。

 少し違いますかな、これは本来全員で背負うべきものだった」

 私はもう逃げない。

 どんなことからも、決して目を逸らさない。

 そして、姉上の前に『碧蛇下弦』を見せるように差し出した。

「二つ揃ってこそ満ちる月のように。

 今度こそ私は姉上の背を守り、その行いを正しましょう」

 私は今までこの二刀を、両親が姉上と私を比べた結果だと思っていた。

 だからこそ、同じ『青』を『碧』に変え、『龍』ではなく『蛇』としたのだと思い込んでいた。

 だがその解釈は間違っていたのかもしれないと、今なら思える。

 天と地、上弦と下弦、右と左。

 どんな言葉で説明されたとしても、素直に聞き入れることを知らぬ私のためにわざと遠まわしに込められた思い。

《姉妹で支えって、生きて欲しい》

 遠回しすぎるその思いは、言葉にしてしまえばなんと呆気ないものだろう。

「愛羅・・・ ありがとう」

 姉上もまた私に答えるように、『青龍偃月刀』を差し出した。

「愛紗ちゃーん! 愛羅ちゃーん! どこーーー?!」

「二人ともー、どこまで行ったんだーーー!!」

「遅いのだー! もうお兄ちゃんも、お姉ちゃんも来ちゃったのだー!」

「愛紗しゃーん! 愛羅しゃーん!」

 遠くから聞こえる自分たちを探すその声に、私たちはおもわず顔を見合わせて笑ってしまった。

「さて、姉上。

 お互い頬が腫れ、妙な顔をしておりますが、我らが主君と同朋が待っています。行きましょうか」

「そうだな・・・・

 しかし、この顔の言い訳はどうしたものか・・・・」

 こうして姉上と笑いあうなどいつ振りだろうか、また姉妹で笑えたことが嬉しく、私は腫れて痛む頬を精一杯持ち上げながら笑っていた。

「仲良し姉妹の、数年ぶりの姉妹喧嘩だとでも言っておきましょうか」

「・・・・とても嘘くさいな」

「それでも、事実ですから」

 そう言って私たちは互いに手をとり合って、歩き出す。

 だが姉上は一度歩みを止め、私へと真剣な目を向けていた。

「今回の件で、私が罰せられた時は皆を頼む。愛羅・・・ いたっ!」

「姉上? ふざけるのもいい加減にしていただきたい」

 覚悟をした目を私に向けてくる、猪特性を持ち馬鹿な姉上の腫れた頬を指で突く。

「ふざけてなど・・・!」

「あなた一人が勝手に背負って、死ぬ気満々なことを喜ぶ者があそこに居るのですか?」

 そう言って私たちの視界に映ったのは、私が距離を置いてしまっていた仲間たちだった。気のせいかも知れないが、そこに並ぶ彼らの顔は皆どこかすっきりした様子でそれぞれの覚悟が瞳に映っているように見えた。

 その姿に『私たちはこれからなのだ』と、曖昧だが確かな予感をどこかで感じていた。


次は本編の予定です。

この話はもしかしたら、蜀編を書いたらそっちに移動させるかもですね。



ある意味ここからが、北郷一刀の物語が始まりとなります。


そして作者は書きだした当初より、こうすることを決めていました。


感想、誤字脱字等々お待ちしております。

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