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真・恋姫✝無双 魏国 再臨  作者: 無月
乱世 始動
102/111

79,桜に集いし猛虎達 【雪蓮視点】

土日に用があるので、今日投稿します。

また、それに伴い感想返信に遅れることをここにご報告します。


少し予定から外れましたが、この視点はここにしか入れられそうにないので。

とにかくどうぞ。

「父様ーーー!!」

 よく晴れた空の下、私は中庭の木の上から見つけた標的(父様)の背中目掛けて大剣を振りかぶった。

「・・・」

 不意をついた筈なのに父様は特に慌てる様子もなく、いつもの厳しい顔をこっちに向けたと思ったら、腰に差していた西海優王を鞘ごと引き抜いて私の渾身の一撃を受け止める。

「嘘っ?!」

 私の驚きにも父様は返事をせず、ただ黙って目の前にある現実を私に突きつけてるみたいだった。けど、驚いていられるのもほんの一瞬、私の体は感じたことのないような浮遊感に襲われた。

「えっ? ちょっ?!」

 事態が上手く呑み込めないまま何とか足から地面に着地して、少し離れたところにいる父様は何故か右手に持っていた筈の剣を左手に持っていた。

「何?! 一体、私に何をしたのよ! 父様!」

 私、もしかして放り投げられたの?

 そんな予想は頭に浮かぶけど、それ以外全く分からなくて、私は思わず叫ぶ。

「俺が何をした、か・・・

 そうだな・・・」

 剣を腰に戻してながら私に視線をむける父様は、皺の寄った険しい表情をほんの少しだけ緩めた気がした。

「元気のいい子猫を、少しかまってやっただけさ」

「もうっ! 父様はいつもそれじゃない!!」

 意味がわからなくて面白くない私は頬を膨らませて不満を露わにしても、父様は言い返しもしないで凪いだ海みたいな眼差しを向けるだけ。

 そして私はいつもその目をまっすぐ見返すことが出来なくて、拗ねたように目を逸らしてた。

「そんな顔されたって、言葉にしなくちゃわかんないわよ」

「わからなくていい。

 これは俺の特権だからな」

 そう言ってから父様は鞘に収めたままの西海優王の鞘と柄を繋げるように縛って、私に向かって手を広げてくる。

 それは私と父様だけの、秘密の合図だった。

「来ないのか?」

 父様は表情を変えることもなく、私に問いかけてくる。

 いっつもそう。変に余裕ぶることも、笑うこともない癖に、母様と母様の四天王との仕合で見せる(武人)の顔を私には一度も見せてくれない。

 でもいつか・・・ ううん、いつかじゃなくて今! 絶対に!!

「父様に剣を抜かせてやるんだから!!」

 そう言いながら父様へと一気に距離を縮めて、私は思いっきり大剣を振り回し続けた。




「――い、おい! 雪蓮!

 寝てんのかよ?」

 木の下から響いた柘榴の声に強制的に起こされて、私は眠い目を擦りつつ木の洞に隠していた酒を盃に注がないで直接口をつける。

「懐かしい夢を見たわ・・・」

「んー?」

 おもわず柘榴に言いかけて、私は酒を口にすることで口にしかけた言葉を流し込んだ。

「何だよ?」

「やっぱり、何でもないわ」

 柘榴にまだ残ってたお酒を投げつけて誤魔化しながら、私は意味もなく掌を見る。

 何度も何度も飛びかかって、いつか剣を抜かせてみせるんだって躍起になってた。

 一人前として扱ってほしくて、武人として向き合ってほしくて、何度も何度も向き合って剣を抜き続けたのに、結局一度も父様に剣を抜かせることが出来なかった。それどころか、父様は最後まで私のことを子猫扱いしてたっけ。

「届かなかったのよ・・・」

 あの日々がずっと続くなんて考えて、いつかは本気で向かい合うんだって、負かしてみせるなんて思ってた。

「いつかなんて、なかったのよ・・・」

 武人としての私を見てほしくて、振り向いてほしくて、遊びじゃない仕合をする日が来るって信じてた。

 でも、そんな日はもう来ない。

 もう、来れなくした奴がいる。

 そして、そんな奴がまだ生きていることを知った以上・・・

「生かしておけるわけがないのよね~」

「そりゃ同感だけど、懐かしい夢って旦那の夢かよ。この父親好きが」

「柘榴には言われたく・・・ げっ」

 人のことを馬鹿にしてきた柘榴に言い返そうと下に視線を移したら、その途中で見慣れた人影を見ておもわず喉の奥から変な声が出る。

「あんだよ、言葉を途中でやめやがっ・・・ げっ」

 私が見えた存在に柘榴もようやく気付いたみたいで、私と同じような声を喉の奥から出す。

 うん、そう言う反応になるわよね。わかるわかる。

「揃いもそろって随分な挨拶ですねー。

 っていうか、なーに物騒なこと言ってるんですかー? せっかく戦いが終わったんですからもう少しお淑やかになったらどうです?

 あっ、でもお二人はそもそもお淑やかとは無縁な虎ですから、しょうがないですよね」

 こういうことを笑顔で言うんだから本当に性格悪いわよね、七乃って。

 でも、軍師って性格悪くないと出来ないんじゃないかって、今回の件でつくづく思い知ったわ。私達武官じゃ、絶対に美羽を助けてあげられなかったもの。

「じゃ、虎な私達が飲んだくれててもしょうがないわよね!」

「だな!

 ありがとな、七乃。最高の言い訳が出来たぜ!」

「えぇ、全然かまいませんよー。

 あとでいろいろな方に絞られるのは私じゃありませんし」

 私達がふざければ、七乃は笑顔で釘を刺してくるものだから私達の行動は止まりかける。もっとも一瞬止まりかけるだけでお酒は飲むんだけど、私達がたかがお説教で行動を改めるわけないもの。

「それに褒めるわけじゃありませんけど、雪蓮さんと柘榴さんには袁家の害虫退治をやってもらいましたし。

 これで美羽様は無事袁家の呪縛から解放され、幽州を占拠した袁紹軍は次なる得物である劉備さんと曹操さん目掛けて進軍を開始していることでしょう」

 嬉しそうに満面の笑みをこぼして、拍手する七乃に私はややげんなりするけど、柘榴の笑い声が響いた。

「ここまでお前の策通りいくと怖いを通り越して、笑えてくんな!」

「そうでしょそうでしょ、柘榴さん。

 正直この機を見計らうことには細心の注意を払って、私と冥琳さんが神経を尖らせてたんですけど、本当にうまくいって幸いでしたよー」

 楽しそうにやり取りしてるけど、幽州とか辺りでどんだけ犠牲が出てるんでしょうねー?

 もっとも袁家の害虫を叩き斬った私が言っていい言葉じゃないし、二人を見てて考えちゃっただけで実際なんとも思ってないけど。

「それで雪蓮さん、あなた方は揃いもそろって何をする気なんですかね?

 冥琳さんにこちらの仕事を押し付けてこっそり古参の兵達を集めたり、袁家の害虫さん達が溜め込んでたお金の一部を拝借してるのなんてお見通しですからねー?」

「「ぎくっ」」

 七乃の見透かしたような言葉に私と柘榴は揃って声をあげて、下にいた柘榴は降参するように手を挙げた。

「そんだけわかってんなら、俺らが何するか想像つかねーか?」

「いいえ、わかりませんよー。

 私は虎じゃありませんし、虎には虎の思考や言い訳があるでしょうから。それに見逃したのだって害虫退治をしてくださった分で手間賃代わりでしたから、これ以降は別料金となりまーす」

 さっきからまったく笑みを崩さない七乃が超怖いんだけど・・・

 蓮華の眼は誤魔化せてたみたいだけど、七乃の目は誤魔化せなかったかぁ。

「じゃっ、ここまで私達がしたことから七乃なりの予想はなんなのよ?」

 答えに行きついてるならそれでもいいし、もし行きついてないならそれもそれでかまわない。

 だってもう、七乃をどうするか決めちゃったし♪

「うーん、そうですね。冥琳さんがついてるなら大抵のことは上手くいくでしょうし、雪蓮さんと柘榴さんが軍を率いて旗揚げが妥当でしょうか?

 冥琳さんってば髪の色と同じでお腹の中は真っ黒で不意打ち上等な方ですし、そこに凶暴な雪蓮さん達の力があればどうにかやっていけるんじゃないですかー?」

「うっわ、言いたい放題の上に容赦ねー」

 私が七乃の出した答えの面白さにおもわず笑ってると、柘榴は七乃に対して顔をしかめてる。柘榴もいちいち反応する辺り、結構律儀よねー。

「それも悪くないわねー。

 どーする柘榴、今からでもそっちに変えちゃう?」

「雪蓮も馬鹿なこと言ってんじゃねーよ、大陸なんて興味ねー癖に」

「あら? そう見える?」

 私がわざとふざけて言うと、柘榴も笑いながら私に空になった酒瓶を投げ返してきた。私だから避けられるけど、他ならあたってたわよー?

「俺もお前も・・・ いいや、俺らに限ったこっちゃねぇか。

 あの何でもかんでも見透かしてるみてぇな冥琳や槐だって、この大陸に興味なんかねーよ。そんな見えねぇもんのために俺らは動けねーし、どうなってもかまやしねぇ。

 俺らは自分の目の前に映ったものが全てだったし、これからだって変わんねーし、変えられないだろ」

 そう言って柘榴は立ち上がって、私が樹上にいることを確認してから笑う。

 なんか嫌な予感がしてきたんだけど・・・ 柘榴、アンタまさか・・・

俺達(この国)はいつだって自分勝手で、そのてっぺんにいる俺達(孫家)は特に我儘で、その中でも俺ら武官は自由人。

 なら俺ら武官は後ろについてくる奴らの命だけしっかり背負って、自分のやりてぇことを思いっきりやるだけだ」

 その言葉と同時に柘榴は木を殴りつけて、私は無様に木から落ちる前に地面に着地してみせた。

「だろ? 雪蓮」

 人を木の上から叩き落とそうとした癖に柘榴は私を挑発するように笑って、私もそんな柘榴を見て笑う。

 そうよ、私達はいつだって『誰かのため』なんて綺麗なもんじゃない。

 母様も、父様も、結果的に呉をまとめただけに過ぎなくて、そこにどんな思い(野望)があったかなんて誰にもわからない。

 蓮華だってそう、最初は嫌々だったくせになんだかんだでこの呉をまとめようと動いてる。

 誰もが皆、自分のやりたいようにやって、生きたいように生きて死んでいく。

「当然でしょ?」

 だって私は、父様と母様の子だから。

 私は私の好きなように生き様を刻み、死に様を決めていく。

 誰かに見せつけるための生でなく、誰かに捧げる死なんていらない。

「私は私のために生きるって決めてるもの」



「雪蓮、柘榴、二人揃って浸っているところ悪いが準備が出来た。

 行くのか、行かないのか?」

「冥琳、あなたは何を馬鹿なことを言っているのかしら?

 こうすれば」

 聞き慣れた二人の言葉と同時に風を切るような音がして

「いいじゃない」



「って、痛いじゃない! 槐の馬鹿!!」

「つーか、当たり所が悪かったら俺はてめぇ(自分)の武器で自滅するところだったぞ?!」

 私と柘榴の不平不満に、槐は聞こえないフリをしてさっさと馬車に乗りこんでいっちゃうし! 聞きなさいよ、書簡馬鹿!!

「やはり、槐の投擲では二人を気絶させるには至らないか。

 まぁいい、二人も早く乗り込め。蓮華様達が後始末に追われている今以外、機はないからな」

「・・・ねぇ、柘榴。

 何で私の軍師って、こんなに人の話を聞かない奴が多いのかしら?」

「筆頭のお前が人の話聞かねーからだろ」

「さっさとしろ」

 聞き捨てならない柘榴の言葉に眼をくれれば、同じように柘榴も睨み返してきて、そんな私達の足元目掛けて冥琳の鞭が放たれた。

「「きゃー、こわーい」」

 おもわず柘榴と一緒に抱き合ってはしゃげば、さっきよりも強く鞭が鳴らされる。

「あらあら、お二人ともすっかり猛獣使い・冥琳さんに飼いならされてますねー。

 皆さん揃ってどこに行くかは知りませんけど、行ってらっしゃーい。

 私はこれから美羽様と一緒に楽しい隠居生活を送りますから」

 なーんて他人事のように私達を見送りかける七乃を見て、私は冥琳と柘榴にだけ見えるように悪い笑みを作った。

 すると、二人も私が何をするかを察したように同じ笑みを浮かべたり、呆れて溜息を吐いたりする。

 それ、容認したってことでいいわよね?

「冥琳!」

「はぁ・・・ 仕方ない」

 冥琳は私の合図とともに七乃の腰に鞭を巻きつけ

「柘榴!」

「あいよ!!」

 柘榴が私と一緒になって冥琳を持ち上げて、鞭に巻きついた七乃ごと馬車へと放り込み

「槐!」

「はいはい・・・」

 そして最後の〆として槐を呼べば、馬車は勢いよく駆け出した。

「ちょっ・・・・」

 状況が飲み込めない七乃がきょろきょろと面白いぐらい馬車の中を見渡して、体勢を立て直した私と柘榴が手を打ち鳴らす。

「「拉致、成功ー!!」」

「ちょっ?! 何してるんですか、この馬鹿虎!!」

「何って決まってるじゃない、拉・致♪」

 鞭を無理やりほどいて、私の体をがくがく揺する辺り七乃って立ち直るの早いわよねー。

「七乃、諦めろー。

 お前がいろいろ気づいてた時点で、こいつはお前を連れ去る気だったんだからよ」

「なっ!?」

「賢いお前らしくもない失態だったな。

 私達が何をするか、何をしていたかを知っている存在をわざわざ呉に残すわけがないだろう。

 そう、そこにいる小蓮様のようにな」

『ん?』

 そこでようやく私達は馬車の片隅で蹲ってるシャオに気づいて、同時に視線を向けた。

「聞いたの私じゃないもん! 周々と善々だもん!!」

「えーっと、そこにいらっしゃるのは美羽様といちゃついてたちびっこ様じゃないですか。

 もー皆さん、いくら極悪非道だからって街の女の子を連れ去っちゃ駄目じゃないですかー」

「いや、普通に面識あるでしょ。

 何、知らない子ども風に言ってんのよ」

「いえいえ、とんでもない。

 美羽様と遊ぶ子どもに嫉妬して、名前を忘れたなんて事実はございません」

 まぁ七乃だし、それが理由の九割でしょうね。

「七乃お姉ちゃんが酷い!!」

 シャオは普通に傷ついてるみたいだけど。

「自分の愛玩動物達に売られるなんて、哀れな主人もいたものね」

 馬車を操りながら鼻で嗤った槐の言葉がこちらまできっちり聞こえ、シャオがここに居る経緯が説明されるまでもなく、その場の全員に伝わった。

 大熊猫(ぱんだ)と虎に売られるって、シャオってばどんだけ立場低いのよ。

「槐お姉ちゃんも酷い! 容赦ない! 幼女虐待!!」

「容赦なんてあるわけないでしょう。

 小さいとはいえ虎は虎、虎にいちいち加減する一般人にどこにいるのかしら?」

 いや、槐は全然一般人じゃない気がするけど、反論したら十倍に返されそうだから言ーわないっと。

「七乃、あなたもさっさと諦めなさい。

 それにこれから行うことは、あなたも賛成する筈よ」

「賛成?

 美羽様の一件片付いた以上、私が何かを賛成することもなければ、反対するようなこともない筈ですけど?

 というか、雪蓮さんが旗揚げのために出て行って、呉の後継者問題を未然に防ぐって話じゃないんですかー?」

 そういえば、まだ私達がやることを明言してなかったわねー。

 そろそろ説明しなきゃだけど、どこから話そうかしら?

「私達が行うことは一つ」

 なんて私の迷いを捨てさせるように、槐が口火を切った。

「つーか、かつて果たされたと換算されちまったこと」

 柘榴が少しの苛立ちを持って、吐き捨てる。

「だが、それは果たされたと誤認されていたに過ぎない。

 これは呉の女達の悲願」

 冥琳が眉間に皺を寄せて、怒りを露わにする。

「劉表の爺をぶっ殺しに行くのよ」

 最後に私がわかりやすく目的を告げれば、七乃とシャオは大きく口を開いた。

「荊州の古狸じゃないですか!?

 どうして、雪蓮さん達はそう言う大事なことを独断で行おうとするのか本当に理解に苦しみますねー」

「ていうか、これだけの人数って馬鹿なの?! 姉様!!」

 わー、わかってたけど、凄い文句。

 だけどそんな文句、知ったこっちゃないのよねー。

 そんなことはとっくに覚悟もして、熟知をしたうえで私達はあいつを殺るって決めたし、殺さないなんて選択肢は存在しない。

「よく見なさいよ、二人とも。

 あんた達の前には今、何が映ってるのよ」

「「馬鹿」」

「二人同時に喧嘩売るなんて仲良しね?」

 だけど、今はその喧嘩を買ってる暇なんてないから無視よ。無視。

「かつての怒りを忘れない古参の兵達と将来性のある私や柘榴、腹黒い冥琳と柘榴もいるのよ?

 それに全軍に真正面から挑むなんて無謀なこと、流石に私達でもしないわよ」

「それを聞いて少しは安心しましたけど、率いる人の頭があれなことを除けば凄い軍なんじゃないですかねー」

「うん、そうだよねー。

 主戦力である姉様達の頭が超残念なだけど・・・ っていうか、揃いもそろって父様大好きすぎだから!」

 無理やり連れてきたこともあって二人揃って返答が投槍ぎみで、シャオの最後の言葉に私以外の眼が輝いた気がした・

「あぁ、好きだぜ。

 今でも旦那のこと、超愛してるぜ!」

「何をおっしゃるかと思えば・・・ 秋桜様に恋慕を抱くは呉の女の定め。

 ましてや、その復讐をこの手で果たせるというのなら、嬉々として参戦するが道理でしょう」

「面白くないのよ。

 続く筈だった彼の英雄譚があそこで終わったことが」

 ・・・何コレ、想像以上に柘榴達が父様好きすぎるんだけど?

 三人がここまで父様のことを想ってたなんて、聞いてないんだけどー?

「この目的を知った今、あなたは本当にこの一件に加担しなくていいのかしら? 七乃」

「え?

 それ、どういう意味よ、槐」

 槐の言葉の意味がわからず問い返せば、槐は馬を操りながら言葉を足した。

「それは七乃が誰よりも知ってる筈よ」

「槐さん、あなたどこでそのことを・・・!」

「桜を寝床にしていた虎が吼えていたのよ」

「あの虎・・・!!」

 七乃が怒りを通り越して殺気すら出しながら、おそらく陳留があるだろう方向を強く睨む。

「認めちまえよー、お前も俺らの同士なんだろ?

 旦那に惚れるのは仕方ねーって、な?」

「意外と言えば意外だが、どこに惚れた?

 さぁ、共にあの方のことを熱く語りあおうじゃないか」

 柘榴と冥琳が七乃の両脇を押さえ、肩に手を回して逃げ場を塞ぐ。

「私、初耳なんですけどー」

「シャオも聞きたい!

 父様って、そんなに魅力的だったの?」

 そして、私とシャオが前から詰め寄ることで、七乃を囲う。

「こいつら、全員しばく・・・!」

 こうして非常に珍しい七乃への楽しい質問攻めの時間が始まりを告げた。




「さぁって皆、競争よ。

 賞品は劉表の爺の首を取る権利、勝利条件は玉座に一番に着くこと。それ以外は一切決まりごと無し。

 まっ、当然私が首を飛ばすけど」

 荊州の城が見えるその場所で、私は兵達を背にして呟いた。

「はっ? 何言ってやがんだ、雪蓮。

 俺が突き刺して殺すに決まってんだろ」

 私の後ろに控えた柘榴が、いつものように挑発的に笑う。

「寝ぼけるな、柘榴。

 私が八つ裂きにする」

 右側で珍しく鞭を構えて臨戦態勢の冥琳が、鋭く城を睨みつける。

「違うわね、冥琳。

 私が毒殺するのよ」

 さらに離れたところからは懐からいくつかの容器を覗かせて、槐が冷たく笑う。

「なーに言っちゃってるんですか、皆さん。

 楽に殺すわけなんてもったいない、じわじわと嬲り殺してあげるのが礼儀というものじゃないですかー」

「って、七乃お姉ちゃんも参戦するの?!」

 予想外の七乃の言葉に、私は笑う。

 それが復讐を果たせる歓喜なのか、殺しを行うことへの狂喜なのか、それとも父を想う者に感謝をする喜悦なのかはわからない。

「散った桜が起こした嵐が、吹雪になって戻ってきたわよ?」

 風を起こしたのは風情も知らず、ただただ嫉妬ばかりを腹にためた古狸。

 けれど狸は桜を散らすことばかりに夢中になって、桜の木に集っていた無数の虎を居たことを知らなかったみたいだけどね。

「あんたが踏んだ虎の尾の数、その身にしっかり刻んであげるわ」

 


三十三話の舞蓮離脱時より今回の雪蓮離脱を予測していた方がいましたが、この機会に改めて言わせてください。

おめでとうございます! あなたは本当に鋭いですよ!!


来週も本編、ですかね・・・

今回の別視点か、白で事態を動かすか、はたまた赤を動かすか、書きたいことが山積みなのですが、ちょっと引っ越し等で書けない可能性が高いです。

それでも頑張りたいと思います。

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