その頃の陛下(になる予定)は②
遅くなりました。
「お父上さま、これ、なに」
「人だ。お前と同じ、人間だ」
ソレは変な臭いがした。黒くて、ちいさくて、ちゃいろいボロボロの布でくるんであった。ところどころ、白いモノが見える。
まわりに虫が飛びまわり、地面にもたくさんの虫がはいずり回っていた。
………なにこれ。なんなの。
こんなのが人なわけない。
こんなきもちわるいのが人なわけない。
「うそ言わないでよ。これが人なわけないよ!」
「………」
うそだと、じょうだんだと、言ってくれると思っていた。
だけど、お父上さまはなにも言ってくれなかった。
うそだ、そんなわけない。
これがひとなわけない。
だって人は、もっと白くて、大きくて、きれいで、こんな臭いなんてしなくて。
「これは人だ。いいか?お前の言う貴族たちが言っているのは嘘だ。この国は潤ってなんかいない。潤っているのだったら、人がこんな風に死ぬこともない」
あいつらが言っていたのはうそ?
この国はうるおってない?
コレは死んだヒト?
コレがヒト?
このぐちゃぐちゃで、汚くて、くさくて、虫がたかってるのが?
おれはフッと目をそらした。こんなの見ていられなかったから。
目をそらした先には、今まで見えなかったモノが見えてきた。
コレと同じようなモノが2,3コ見えた。
そのなかの一つが、もうなにうつさない、動かない、光のないその目を大きく開けて、こちらを見ていた。
なにもうつさないくせに、うらむような、しつぼうしたような目で見ていた。
ああ、そうか。
コレはヒトなんだ。
――――――ちがう。
コレはヒト。
――――――ちがう。
ヒトだ。
――――――ちがう。
ヒト。
――――――ちがう。
ヒト。
――――――ちがう。
ヒト。
――――――ちがう。
ヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒト
――――――うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
吐いた。胃の中の物がすべてなくなるくらい、吐いた。
「今日はこれで帰るか」
おれはなにも答えなかった。
◇ ◇ ◇
~夜 現国王・私室にて ~
「陛下」
「ん?なんだ」
「やっぱり少し早すぎませんか?」
「ああ、そうかもしれないな」
「殿下帰ってきてからずっと寝込んでますよ」
「だが、あいつがもし無能になってしまったら、この国はもう終わりだ。まだ刺激が強かったかもしれないが、早めに手を打たないとな。手後れになってしまっては困る。無能どもにいろいろ吹き込まれていたらしいしな」
「そうですね。・・・・・娘には見せたくないですよ」
「俺だってそうさ。何が良くて自分の子にあんなの見せなきゃならないんだ」
「まったくですね」
「娘と言えば、お前の所確か、」
「そうなんですよ。うちの子は天才ですよ。何せもう魔法が使えるのですからね」
「そうだったな。お前たちの子だ、きっと美しく育つだろう。王妃にしてみるってのはどうだ?」
「ミディは嫁にやりません」
「親バカめ」
「褒め言葉です」
「デイルミスト、今日はどうする。帰るか?」
「ん~、もうミディも寝てると思うので泊まります」
「もし起きてたら?」
「帰ります」
「親バカめ」
「褒め言葉です」