情けないです。
私、ミディアンヌ・ヒジェンド、現在生後3ヶ月です。
最近ようやく首がすわりましてね。今は寝返りの練習をしています。そしてさっさと歩けるようになりたいです。だってせっかく転生したというのに、前世と同じようにずーっとベットの上じゃつまらないじゃないですか。
たまに乳母の方達が部屋の大きな窓から庭を見せてくれるのですが、これがまた広いのですよ。庭師の方達がいつも手入れをしてくれているおかげで常に綺麗ですし、たくさんのお花が咲いていて目に優しく、いつ見ても眼福です。あ~、早くお散歩したいな。
……さて、もう気付いてる人もいると思いますが、私は貴族に生まれたようです。
お父様が、デイルミスト・ヒジェンド。ヒジェンド公爵家、現当主です。
お母様が、マリアーナ・ヒジェンド。旧名マリアーナ・ギントリエ。
ま、王妃になるのですから当たり前ですよね。平民だったら、よく言う『平民×国王の禁断の恋!』みたいな面倒くさいことになってるはずです。そんなことになっていたら、神様からの使命を放り出していたところです。
ちなみに私の部屋ですが、もちろんのことばかでかいです。その部屋にぽつんと赤ちゃんサイズのベットが一つ……寂しくないでしょうか。
私の乳母、クイーナとサリオにあやされながら過ごしていると、ノックの音が部屋に響きました。
私の上にあったサリオの顔がなくなったので、きっとサリオが出迎えに行ったのですね。
するとサリオの黄色い悲鳴が聞こえました。
「あら、奥様!どうぞお入りになって下さい」
「お邪魔しますね」
ん~?この声は……
「うあぁああ!」(お母様!)
入ってきたのはどうやらお母様だったらしいです。
娘の私が言うのも何ですが、とても綺麗な人です。
ゆるゆるウェーブした群青色の髪に、蜂蜜色の知的な目、すらっと伸びた四肢を持つ、清純でおしとやかなお嬢様系です。暖かな窓辺で本を読んでいてほしいです。性格は見た目通りすっっっっっごく優しいです。
そんなお母様は屋敷の女性に大人気。家には礼儀を学ぶために来ている女性がいます。お母様はその人達のとてもよいお手本で、淑女の中の淑女として有名です。
お母様がベットをのぞき込んできたので、赤ちゃんらしく「あー、あー」と言いながら手を伸ばします。
「奥様、いかがされました?」
「うふふ、今日はデイルミストが昼から休みを取っていてね。もう帰っているのよ」
「あら、今日はお帰りが早くいらっしゃいますわね」
「ええ、そうね。それで、ミディアンヌと一緒にお昼を取ろうと思ってね」
「あー、あうあ」(でも、私のお昼はやっぱり……)
お母様とお父様と一緒にお昼を取れるのは、嬉しいのですが……。私はまだ生後三ヶ月な訳ですよ。つまり私のお昼とは、母乳です。かなりの羞恥プレイです。でも私はそれしか食べるものが無いので、仕方なく飲むしかないのです。早く育ちませんしね。
「ミディ、お父様がもうすぐいらっしゃるわよ~」
「あう」(はーい)
さて、お父様がいらっしゃるまで、お父様の説明をしますね。
私のお父様は、上記の通り、ヒジェンド公爵家現当主です。
そして宰相でもあります。
この国の治安向上を図って、日々奮闘している一人です。
うぬぬぬ、お父様のためにも早く王妃にならねば……!
そんなお父様も例に漏れず美形です。
クリーム色の髪は肩まで伸ばし首の辺りで一括りに。薄い青の目は垂れ目気味。体格は、背が高くて、意外とがっしりしています。下ふちナイロールのめがねが特徴的です。思いっきり知的美人ですね。さわやかな王子様の雰囲気。
文武両道、容姿端麗。完璧なお父様です。……ごく一部を除いて。
こんな両親を持ったら、マザコン・ファザコンになること決定です。そんなわけでマザコン・ファザコンです、わーい。
お母様にだっこされながらあやしてもらっていると、再びノックの音が聞こえました。話の流れからするとお父様ですね。
クイーナなのか、サリオなのか。分かりませんが、どちらかが出迎えに行きました。
そして扉が開いた音がして、聞こえてきたのは予想道理の声でした。
「ミディ~~~~!!!」
……えー、この、扉が開いたとたん信じられない速さで私に抱きついてきた方が、私のお父様になります。何となく分かった人もいるでしょうが、お父様は親バカというものです。
普段のお父様はとても仕事が出来る方で、真面目なのです。
そんなお方が、ああっ、せっかくの美顔がデレデレのだらしない顔にっ。止めて下さいお父様、そんな顔をしてこの世の乙女達の夢を壊さないで下さいいぃぃ。
王子様顔なのにいいぃぃぃぃ。止・め・てええぇぇぇ!!
「……あれ、ミディ?」
はっ!
「………きゃっきゃ♪」
あ、危ない。またお医者様を呼ばれるところですた……。あ、違います、でした……。
お父様はさすがと言ったところでしょうか。私の様子がおかしいとすぐにお医者様を呼ぼうとするのです。
この前も少しぼーっとしてたらお父様が真っ青になって部屋を飛び出そうとしていたところで、すぐに異変に気付いたお母様に止められました。お母様に(大事なことなので二回言いました)。
なんとお母様、魔法というものが使えるようなのです。
お父様が扉を開けようとした瞬間、見えない壁のようなものにぶつかって、気絶してしまいました。
私が「魔法があるんだっ!」と興奮している間に、お母様はため息をつき、私をだっこしたままお父様に近づき、しゃがみ込み、私に「お父様を起こしてあげて♥」と言いました。私は、お母様の笑顔に何か寒気を感じながらも、お父様の顔を「うー、う?」と言いながら、たたきました。
すると、なんと言うことでしょう。お父様が目をクワッ見開き起き上がったではありませんか。
いやー。びっくりしましたよ。急に起き上がるもので体がびくっとして、ついつい泣いてしまいました。
――――嘘、ですけどね。
その後、お父様はお母様にこっぴどく叱られていました。その間私は、赤ちゃん用ベットの上で一人寂しくおりました。べ、別にぼっちじゃ、な、無いんだからねっ。
寂しかったのは本当ですけど……
今のお父様やお母様が嫌なわけではありませんが、石田里照の頃の母さんや父さんに愛着がなかったわけでもありません。
里照だった頃の私は、人生のほとんどを家と病院で過ごしていました。たまに外に出るときは病院に行くか、病院から家に帰るか。遊びに外に出るなんて、ごくごくまれ。
2,3ヶ月に一回出られれば良い方、下手をすれば4ヶ月も外で遊べない日々が続きました。
もちろん、病気や風邪などで床に伏していたので内職も出来ませんでした。
ただの金食い虫と気付いたとき、私は泣き出しました。家族に申し訳なくて、そのうち家族に見捨てられるような気がして、私のせいで家族が迷惑していると思うと怖くて。
私の泣き声に気付いた母さんは、泣いた理由を聞くと、笑ってこう言ってくれました。
――――里照は私の子供よ。そんなことで、里照を見捨てるわけ無いじゃないの。
その言葉を聞いて、すごく安心して、何か出来ることはないだろうか、と思うようになりました。
結果として私は家族に何も出来ずに死んでしまいました。
それがとても悔しくて、悲しくて、情けなくて。
私はいつの間にか泣き出していました。
お父様とお母様がびっくりしているのが分かります。
二人が何か言っていますが、自分の泣き声でその声は聞こえません。
ごめんなさい、ごめんなさい。
誰に対しての謝罪も分からない謝罪を繰り返します。
私は今までずっと赤ちゃんのふりをしてきました。そしてこれからも歳にあった行動をしていきます。普通の人間として行動していきます。
そのようなことをする理由は簡単です。
ただ単に、嫌われたくないのです。普通と違う反応をして嫌われたくなかったのです。
嫌われるのが怖かったのです。
怖くて怖くて怖くて怖くて。そして前世の家族が恋しくて。
寂しくて寂しくて寂しくて寂しくて。それでも今が楽しくて。
本当に情けないです。
どっちつかずで、情けないです。
「ミディ、ミディ」
声が聞こえました。お母様とお父様の声が。
その声は私を案じている声。
暖かくて、優しい声。
とても安心できる声。
私は気付くと泣き止んでいました。
「あら、泣き止んだわ」
閉じていた目を開くと、笑っている両親の姿がありました。
こんな完璧な両親の元に生まれ、本当によかったです。
そして、私なんかがこの二人の子供で良いのでしょうか。
精神は17歳と言っても体はまだ生後三ヶ月。
泣けばそれだけ体力を消費し、眠くなります。
私は泣き疲れて眠ってしまいました。
赤ちゃんの成長の仕方については、ほっっとんど知りません。
なので、何か知っていることがあれば、教えて下さい。
お願いします。