小さな悪魔
読切短編です。バッドエンドです。
希望があれば、ハッピーエンドも書きます。
いつか時間があれば連載で書いてみたい話です。
語り部口調なので、嫌いな方は注意。
ご感想頂けたら嬉しいです。
ある日、レベル一の悪魔が生まれました。名前はありません。悪魔に親はいません。いつの間にか生まれ、周囲の悪意を吸収して成長して行くのです。
小さな悪魔は、あたりをさ迷います。本当だったら、同じ日に生まれた悪魔や、先に生まれた大きな悪魔と共に行動するものです。しかし、近くに仲間はいません。
小さな悪魔はひとりぼっちです。
悪魔が生まれて来た世界は、魔王が勇者に倒されて、人間が幸せになった世界でした。
力の強い悪魔は勇者一向に滅ぼされ、大半の悪魔は世界の隅に追いやられたり、何もしていないのに滅ぼされたりしました。だって悪魔なのですから。
そんな世界で、小さな悪魔は頑張って生きています。
種族は違いますが、同じようにはぐれた悪魔を見つけては、少ない悪意を分け合って成長します。
ある日、小さな悪魔の群は、大きな悪魔に出会いました。大きな悪魔に仲間にして貰おうと近づくと、その大きな悪魔は大きな口を開けて迫ってきました。
食べられる!
悪魔はこうして大きくなっていく場合もあるのです。小さな悪魔達は逃げ惑います。
しかし、追いつかれて、食べられてしまいました。
小さな悪魔は大きな悪魔になりました。不思議な事に、元の大きな悪魔の意志は、どこかに行ってしまいました。
小さな仲間達の小さな心と一緒に、悪魔は大きくなりました。名前はまだありません。
大きくなった悪魔は、小さな悪魔達を集めて、人間から守ってあげました。
その内、各地から色んな悪魔が集まって来ました。仲間にしてくれと言うものや、食わせろと言うもの、様々でした。大きな悪魔は、仲間に入りたいものは仲間に入れてあげました。食わせろと言うものとは、仲間と力を合わせて戦いました。
食べたり、食べられたりしましたが、悪魔の意志は最初の小さな悪魔と変わりません。しかし、心はたくさんありました。
大きな悪魔は、他の大きな悪魔を十二も食べて、十三の心を持っていました。
なんで、悪魔は生まれてきたのでしょう?
人々に攻め滅ぼされる為だけに生まれてきたのでしょうか。人の悪意から生まれてきたと言うのに。
人を全て滅ぼしては、仲間が食べていけません。悪魔は考えました。悪意は最低限食べられたらいい。悪魔だけが暮らして行ける世界を作ろう。
大きな悪魔は、いつしか魔王と呼ばれ、悪魔の頂点にいました。
*
勇者は暇でしょうがありませんでした。悪魔の親玉である、魔王を倒してしまったのです。もうやる事がありません。
魔王がいなくなった今、残った悪魔達は人間にとってさほど脅威ではありませんでした。勇者は王女と結婚し、二人の間に生まれた子供は、次の王として育てられるのでしょう。勇者と王女の間には、息子が四人生まれました。
昔、勇者と呼ばれた男はそれなりの幸せの中で死にました。
一番上の王子はすくすく育っていましたが、インテリ貴族と武力派貴族の陰謀により、毒殺されてしまいました。
二番目の王子は、とても賢く、賢いが故に、三番目の王子を恐れていました。三番目の王子は人望があり、周りの人間と大変仲が良かったのです。のびのびと育った三番目の王子と違って、二番目の王子は常に何かしらの圧力を感じて生きてきました。王になるのだと言われ、貴族達に殺されないように上手く言いくるめ、勇者の息子だから強くなくてはいけないと体を鍛え。そうして張り詰めた空気は、周りの者にも伝わり、城をギクシャクさせていきます。
二番目の王子が王になり、政治の表舞台に立つようになると、そのギクシャクした空気は城から街へ広がって行きました。
三番目の王子は言われの無い罪で塔に幽閉されました。
さて、お話に全く出て来なかった四番目の王子は、王子の座を最初から捨て、旅をしていました。
ある時、旅先の森の中で、不思議な少女に出会います。彼女が胸を押さえて泣いていたので、旅人になった四番目の王子は声を掛けました。
少女は仲間を失った悲しみに泣いてるようです。
旅人は慰めます。きっと仲間は君の心の中にいる。すぐには無理でも、新しい仲間を探せばいい。
それまでは僕が共に行くよ。
旅人の言葉に、少女は泣き止みました。お礼を言って、とても嬉しいけれど共には行けない。もし、また会えたら、その時は仲間にして欲しいと。
旅人は、別れた少女がいつまでも忘れられませんでした。
*
悪魔だけの街は密かに大きくなって行きました。
世界の片隅で、悪魔達は自分に必要な分だけの悪意を食べて静かに生活をしていました。いつしか、世界は悪意で溢れるようになりました。
悪魔の生活は豊かになりましたが、我慢して貧しい生活に戻ろうとする者はいませんでした。共食いをせずに、強くなれるならば、わざわざ魔王の仲間になる必要はありません。
そう考える悪魔達は、悪魔だけの街を離れて人間の街に近づきました。悪意は次から次へ溢れていました。悪魔達はどんどん力を蓄えて行き、とうとう心を壊してしまいました。
心を真っ黒に染めた悪魔達は、人間を襲い始めます。
やっと人間達は、悪魔の存在を思い出しました。
*
王は民を治める為に、悪い事をした者には重い罰を負わせました。
最初は皆従っていましたが、罰が重くなり、税が重くなると、だんだん不満が溜まっていきました。
生活は苦しくなり、さらに罪を重ねる者が増えていきます。
機会を窺っていた三番目の王子は、民の助けを借りて幽閉されていた塔から脱出しました。そのままの勢いで、兄である王を倒し、周りの助けを借りて、自分が王になり代わりました。
王は重くなった法律や税制を見直し、民の生活を立て直そうと頑張りました。
その時すでに、悪魔が人間を襲うようになっていました。
旅に出ていた四番目の王子は、王が交代した話を聞いて、久しぶりに城に帰ってきました。三番目と四番目の王子は、幼い頃から仲が良かったのです。四番目の王子は、強くなり、五人の仲間を連れて帰ってきました。
王は、父である勇者に最も近いのはお前だなと言いました。そして、その力を持って悪魔を滅ぼしてくれと、弟に頼みました。
四番目の王子は勇者になりました。王から連れていけと言われた魔法使いを加えて、七人の仲間で魔王討伐に向かいます。
*
魔王は、遠くで仲間が減っていくのを感じていました。今まで守られていた悪魔達も、街を出て戦うと言い出しました。
魔王は止められませんでした。
勇者一行は、日に日にその力を増しています。魔法使いの持つ光の力は、悪魔を打ち消す善意の力でした。
魔王は、自分の内に取り込んだ心を取り出して、仲間に与えました。
自分はこの街を守らなければいけない。戦えない小さな悪魔を守らなければ。この街を出て、どうしても戦うと言うのなら、この力を与えよう。
十の大きな悪魔は、次々と勇者一行に襲いかかりました。悪魔達は懸命に戦いましたが、勇者達に倒されてしまいました。
*
勇者一行は、魔王の城を目指して進みました。何度も凶悪な悪魔に襲われ、さすがの一行も無事ではありませんでした。最初は七人いた仲間は、三人にまで数を減らしていました。
それでも、とうとう勇者一行は魔王の住む城までたどり着きました。
仲間の二人が、悪魔を足止めしている間に、勇者は最上階に登り、遂に魔王と対面しました。
魔王は、少女の形をしていました。
いつか旅の途中で見た、少女と同じ姿をしていました。
勇者は惑わされません。もう、ただの旅人ではいられないのです。
勇者は少女に向かって、剣を振るいました。
少女は抵抗しませんでした。ただの小さな悪魔に戻った少女には、もう仲間も力はも残っていませんでした。
勇者はひとりぼっちです。
勇者も仲間の全てを失いました。
勇者を慰めてくれる人はいませんでした。