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◇◆◇◆◇◆◇◆



 昼休み。それは待ちに待った飯の時間。


 おれも他のクラスのみんなと同じくように、机を動かしつきあわせて雄二と二人で弁当を食っていた。高校や中学の昼休みというのは、まるで机でできた点在する小さな島がたくさんできるものであり、おれたちもその例に漏れない。


 それにしてもちょっと寂しい。なぜかというと学校から家が近いのはおれだけじゃなく、おれの中学時代の友人達にもいえることで、うちの学校には雄二だけでなくうちの中学の連中が男女合わせて四十人くらいいて、だから去年まではその古馴染みたちに加え、新しくできた高校からの友達も巻き込んでかなり大勢で昼飯を食べていたのである。具体的には十人ぐらいでにぎやかに。


 だが二年になるとその環境ががらりと変わった。何しろおれの友達の大多数は理系に進んでしまい、文系を選択したおれとはクラスが同じになるはずもなかった。それでも少なからずいたはずの同志たちからも何故だかはぐれ、おれはこのお調子者の腐れ縁と二人で、この新しいクラスである『二年三組』に隔離されるような状態に陥っていたのだった。


 正直、これと二人っていうのは結構つらい。おれまで無駄にテンションが高くてデリカシーがないやつと思われるのは嫌だ。だって雄二のやつ、声を潜めるとか、空気を読むとかできないんだもの。

 

「なぁなぁ、薫。でさ、お前は誰が一番かわいいと思う?」


 こうして飯を食ってる最中も、雄二の無駄口が閉じることはない。行儀悪いんだよ、お前。


 そんな雄二の興味があることを説明するのは簡単だ。漫画、アニメ、アイドル、女の子、そしてエロ。この五つの話題を日替わりで食事時に振ってくる。はじめの一週間こそ嫌々ながらも相手をしていたのだが、先週、つまり新学年二週目には流す方針に速攻で切り替えた。一人でいちいち全部相手にするには、慣れたおれでもつらいもんがある。


「おれ思うんだけどさ、うちのクラスって学年一かわいい子多いと思わないか?」


 今日はそのネタか。毎週ランダムなローテーションを組んで襲い掛かってくるこれらお決まりの話題は去年どころかその前の中学時代から変わらない。卵焼きを口に運びながらうんざりするおれに気づいているのかいないのか、おれの眉間のしわなどまるで気にもせずに、いつも通りの声でいって何人かのクラスメートに目を向ける雄二。直接いわないが、心の中で一つだけいっておくことにした。何人かがお前の子と睨んでるぞっと。


 そんな女子の冷たい視線をまったく気づかないやつの目線の先にはおれから見ても目を引くほどの確かにかわいい女の子たちがいた。


 小さく頷いてやる。


「お、やっぱりそう思うか? やっぱお前も男だな。それでお前は誰が一番かわいいと思う?」


 雄二のお決まりの台詞を聞きながす一方で、口に運んでいたお茶を飲み込むのと同時におれはある事実を思い出していた。


 個人的には男友達の多くからはぐれてしまった為に、外れクジを引いたと思っている今回のクラス分けなのだが、そう思っているおれは、実は学年通してかなりの少数派であるらしいという事実である。理由は簡単、『かわいい娘が多い』という、まぁ共学に通う男子高校生的には重大なポイントだった。そのことは他のクラスにいっちまった友人たちからうらやましがられたことや、新学年初日のクラス分けの掲示を見たときに、異常なほどテンションをあげる目の前の男とその他数名の現クラスメート、そして逆にテンションだだ下がりで肩を落とす他のクラスのやつらというわかりやすいコントラストによって確認していたから間違いない。


 そんなちょっとだけ昔のことを思い出していると、焦れたのだろう、元々悪い目つきをジト目にして雄二がおれのことを見ていた。


「それで結局誰なんだよ? なぁ」


 そういって雄二は箸をおれのほうに突きつける。だから行儀悪いって。大体確かにおれも男の端くれだからモテてはみたいし女の子は人並みに大好きだ。でもこいつと一緒にいるとその気持ちが何故だか大人しくなってしまう。多分それはこいつががっつきすぎていて、逆にそういう気持ちが萎えてしまうんだと思う。


「……別に、みんなかわいいと思うぞ」


 とそっけなくいう。


「かーー! 薫ちゃんはこれだからな! けっ、スカしやがって。それにしてもうちのクラスは最高だよなぁ~」


「薫ちゃんっていうんじゃねぇ」


 そういってどこかうっとりとした気持ち悪い目でクラスの七割を占める女子に目を向ける雄二。どこまでも愛すべき馬鹿である。男としては正しいのかもしれないが、人間としては大問題だと思う。思わず雄二をみるおれの目が電信柱の下に落ちているカピカピの犬のふんをみるそれになってしまったのもしかたがないことだなと自分を納得させる。実際女の子の方も数人がそういう目でみていることだし。


「みんなかわいいけど、やっぱり麻衣ちゃんに委員長はずば抜けてるよなぁ……」


 そんな一人言に、反射的に名前を呼ばれた二人をおれは順番に目で追ってしまった。


 まずは窓際の席で友達二人と楽しそうに笑いながら弁当を食べている学年一番人気と評判の女の子、中村麻衣ちゃん。光をとおして初めてわかるほどうっすらと茶色に染まった明るい色のロングヘアーと、整った顔立ちの中で一際目立つ大きな瞳。モデルといっても通るようなスタイルを昔ながらの地味なセーラー服で包んでいるのだが、それがなんといっていいかイケているようにみえるから不思議である。中身というか性格も気になるところといえば、若干話す時に鼻にかかったような声を出す事を除けば明るくて付き合いやすい感じと、おそらく学年で一番男子からモテているだろう女の子であろう。


 一言でいうならファッション雑誌に出てそうな今時の美人さんだ。


 実際彼女にいい寄る男の数は、入学以来かなりの数であり、二日に一回は告白されているんじゃないか? とさえいわれている。


 実際、東京に遊びにいったときにいくつか雑誌かなにかのスカウトを受けたらしいし、最近の下手なアイドルぐらいなら勝てないまでも肩を並べるくらいにはかわいいんじゃないかとおれも思ってる。


 そして、委員長こと相原美穂子。つややかな黒髪が映える白い肌と眼鏡のレンズ越しに覗く切れ長の目が印象的なスレンダー美人で、そのあだ名の通りクラスの学級委員長である。成績優秀、品行方正という文句の付けようのない優等生であり、そのたたずまいに和を感じさせる大和撫子というイメージそのままの女の子だ。


 その二人以外にもうちのクラスは確かにかわいい子ぞろいだなぁ、確かにああゆう子たちを彼女にしたりしたら楽しいだろうなぁ……とふとささやかな妄想が湧き上がってきた。男というものは不思議なもので、仮に自分が好きでなくても、女の子に好かれていたいと常に思っている生き物で、それはもちろんおれも例外じゃなかった。そんな妄想に浸っていたおれを雄二のひとことが引き戻す。


「おい……このむっつりスケベ」


 一気に火がついた。


「誰がむっつりスケベだ!」


「何気持ち悪い目で女の子見てんだよ! お前にデリカシーとかはねえのか!」


「お前にだけはいわれたくねぇよ、この馬鹿!」


 この時点でおれたち二人とも席から立ち上がってにらみ合いを開始する。割といつものことなんだけど、こうなると頭に血がのぼっておれも冷静な判断はできなくなる。だってまだまだ思春期で、血の気が余っているんだから仕方ないよな。そうしてお互いの胸倉をつかむべく両手を伸ばしあったところで、思いっきり後ろから頭をはたかれた。


「何やってんのよ?」


 悶絶しているおれに声がかかる。振り向くとそこには予想通りのやつがいやがった。


 男子の平均にちょっぴり届かないおれと変わらない身長のその女は、勝気な瞳に軽い怒りと呆れを浮かべて俺にみていた。


「いてえよ、真琴」


「自業自得よ、大馬鹿者」


 そういって真琴はもう一度おれの頭をひっはたきやがった。慣れてるけどいてえよ。


 この暴力女、名前を『北里真琴』、おれの幼馴染である。

ご意見、ご感想、誤字脱字の指摘など幅広くお待ちしております。

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