...escape //act3
ウェポンデバイスの電池残量が62パーセントで、防護フィールドは38パーセント。
ウェポンデバイスは、発電装置が備え付けてあるから、武装術式起動をしながらでも徐々に電池残量を回復してくれるけど、防護フィールドはそうもいかない。
要するに、アイツのパンチを2発も耐えられない。
余程のオーバーダメージがない限り、生命維持装置で即死の危険性はないけど、痛いものは痛い。
上のフロアとは別の方向に延びていた廊下に唯一ある扉の前にたどり着いたボクは、一呼吸を置いてからドアノブを回した。
・・・開かなかった。
「コード《HAMMER》」
仕方がないので、叩き壊すことにした。
派手な音と共に新たな空間が開かれる。
なんの変哲もないオフィスだった。
10人分のデスクがあり、その上にはPCや、書類の束が無造作に置かれている。
そして、それらのデスクとは離れて1台、チーフ用と思わしきデスクの椅子には見覚えのある人が座っていた。
「おや、ようこそ。警備を倒せるとは、さすがウェポンデバイスですね」
サングラスをクイッと右手の中指で持ち上げながら山下は微笑かけてきた。
「とりあえず、ボクのデバイスを返してほしいんだけど」
「残念ながら、この中に入っているデータを吸い出しているんですよ」
それはちょっと不味いかな。
「じゃあ、力ずくってことで」
ハンマーを構えて走り出す。
「物騒ですね。田辺さん、お願いします」
どこに隠れていたのか、田辺がボクの右側に現れた。
「フン」
「おわっ!」
突き出された拳を必死にハンマーの柄でガードしたけど、力で負ける。
壁にぶつかる瞬間に防護フィールドが展開したけど、衝撃が発生して息が詰まる。
視界の端で田辺を捉えると、追撃の為にこちらへと足を動かしている。
「コード《OTHER》《MOVE》」
自分の足元に矢印を出現させて、山田のいる方へと加速する。
「まさか!?」
そのまま振りかぶって、山田が使っているパソコンにハンマーを振り下ろした。
たちまち山田の顔が青ざめていく。
「そ、そんなことをしたら、あ、あなたのデバイスのデータも壊れますよ」
「いやー、所詮バックアップだから壊れたところで問題ないし」
「余所見なん――」
「してないよ。コード《MOVE》」
後ろに迫ってきていた田辺を矢印で追い払う。
吹っ飛ばされた田辺は、デスクの上を転がってとまった。
不意のダメージだったので、苦痛に顔を歪めていた。
「じゃあ、そういうことで」
ボクのタブレットデバイスから、つながれていたコードを強引に引き抜く。
「させませんよ。マイマシンを壊された恨みも一緒に晴らさせてもらいます」
山下はデスクの引き出しからリモコンの様なものを取り出して、スイッチを押した。
しかし、ボクが気になったのはそこではない。
「それ、涼太と詩織のデバイスだよね? 返してもらうよ」
引き出しの中におさめられていたデバイスを2個ほど奪い取る。
「そんな余裕があるのは今のうちですよ」
山下が勝ち誇ったかの様な笑みを浮かべた瞬間、ドガーンという音と共に入口付近の壁が崩れた。
―――
朔良と別れた後、俺は階段を下って行った。
言われたように、翡翠色の宝石をタップしてみるとホロウィンドウが出現した。
まず、目に入ったのはlv.2の文字だった。
その下には黄色のゲージが3割ほど溜まっている。
「なんだこれ?」
そのゲージに触れてみたけど、何も起こらなかった。
色々と疑問は溢れてくるけど、今は解決してくれる人がいないから、気にしないでおこう。
目線を少ししたにずらすと、安全装置と電池残量と同じゲージが映し出されている。
安全装置は99パーセント、電池残量は84パーセントと、視界の端にあるものと同値を示しているので、同じものとみて間違いないだろう。
その下には、俺の目的としているものがあった。
その全てを頭の中に叩き込み、ホロウィンドウを閉じた。
「あれ、警備ロボはいないのか?」
階段を降り切ると、少し広い場所にでた。
これ以上下に階段は延びていないから、このフロアを探索することが必然的に決まった。
その場所から、2方向に通路が延びている。
「エレベーターか?」
片方の通路の先には、エレベーターらしき扉がある。
もう一方の扉は、普通の扉だった。
「先に逃走ルートの確保だな」
自分が何階にいるかわかるだけでも、安心感は生まれるだろう。
俺はエレベーターの方へと歩き出す。
警備ロボは現れなかった。
やはり、エレベーターだったようで、上下を示すボタンがあった。
試しに、下のボタンを押してみる。
・・・。
反応がないので、上も押す。
「チッ、止められたか?」
仕方がないので来た道を戻り、もう一方の通路に足を踏み入れる。
やはり警備ロボは現れない。
先ほどので全て倒してしまったのだろうか?
鍵がかかっている扉を切り刻む。
仮想武器なので、刃こぼれを気にする必要性がなくて助かる。
その先は、バスケットボールのコートほどの広さの部屋だった。
その部屋の中に1人だけ、俺が、俺たちが探していた人物が頭を垂れて佇んでいた。
「詩織! 大丈夫か?」
俺が声をかけてみるが、何も反応しない。
「おいっ、詩織!」
俺は詩織の方へと足を踏み出す。
すぐ後ろから、ガタンという音が鳴り響いた。
突如、部屋の扉があった場所にシャッターが閉まった。
「は?」
今度は、上から剣が2本落ちてきて、詩織の前にザクッと突き刺さった。
詩織はグイッと頭を上げ、その2本の剣を掴んだ。
「お前が、お前が! お前がぁ!」
詩織の目は虚ろで、正気ではなかった。
「詩織! 待て、俺だ! 涼太だ!」
俺は兜を取って顔を見せる。
「ウソだ! 涼太の顔をして、私の前に出てこないで!」
詩織は、剣を引きずりながら踏み込んできて、躊躇うことなく下から切り上げてきた。
刃は防護フィールドと衝突し、弾かれた。
それも束の間、もう一方の刃も迫りくる。
「チッ!」
俺はその刃を剣で防ぎ、バックステップで間合いの外に出た。
「詩織、俺が涼太だ! よく見ろ!」
「黙れ! よくも涼太を! 朔良を!」
詩織は更に速く動いた。
一歩で間合いをもとに戻され、左手を横に振り回す。
剣を縦にして、弾き返す。
「コード《SHIELD》」
少し遅れてきた左からの刃を、左手に出現した盾で防いだ。
「消えろ! 消えろ! 消えろぉ!」
右から左から、袈裟切りが、逆袈裟切りが、剣術なんて習ったことがないがむしゃらな太刀筋が襲い掛かってくる。
剣で、盾で防いでいるけど、俺から仕掛けることなんてできない。
俺には、相手を気絶させるだけに留める技量がないから。
狭い防御の死角から、詩織が適当に放った突きが抜けてきた。
その刃は、右腹部に向かっている。
「なにっ!」
そこに防護フィールドが淡い光を放ちながら、攻撃を妨害し、一瞬にして砕け散った。
吸い込まれるように刃が突き刺さる。
仮想防具を貫通し、穂先が脇腹を抉る。
深く刺さらなかったことが幸いし、耐えられる程度の痛みだった。
凪「筆は進むのに話が微妙な感じになってきた」
涼「胸を張って言うな」
凪「この話はまだましだけど、次回がひどい。というか、prologueがgdgdしてきたから、無理やり終わらせるために設定が!」
涼「妥協するのが昔からの悪い癖だって自覚しているんだろ?」
凪「まあね。でも、事件より世界観説明をしたいんだよ!」
朔「それに、主人公をボクにした意味が分からなくなってきそうだよね。ていうか、ボクとしては涼太に譲りたいんだけど」
凪「いや、駄目だ。俺に純粋な王道なんて書けない」
朔「そこを妥協したら?」
凪「うん。検討しておく。まあ、しばらくは朔良主人公で」