...escape //act2
装飾が施された白銀の鎧、流線形でフルフェイスタイプの兜、豪華絢爛な鞘に収まった120センチほどの直剣の鍔の中央には翡翠色の輝石がはめ込んである。
「え? なにこれ?」
その姿に変身した本人は、自身の急激な変化に戸惑っているようだ。
「だーかーら、ウェポンデバイスだって言ったじゃん」
「ウェポンデバイスがなにか? って聞いたんだよ!」
「説明は後って言ったよ! ほら、その剣でパパーっとやっつけてよ」
ボクは涼太の返答を待たずに矢印を消す。
これ、地味に電池残量を喰うから、無駄遣いは出来ないんだよね。
「はっ!? ちょっ! なにこいつら!?」
矢印の消失と共に警備ロボが部屋の中に押し寄せてきた。
「敵だよ」
ボクはハンマーを振り回して警備ロボを叩き潰していく。
「ああ、もうっ! やればいいんだろ!」
ボクの行動と遠慮のない相手の射撃に催促され、涼太も剣を振り回し始めた。
がむしゃらにハンマーを振り回すボクが言うのも難だけど、剣術なんて習ったことがない涼太の太刀筋は適当になっている。
適当の意味は、本来の意味でもあるし、なんとなくって感じの意味でもある。
ダメージを省みなければ、ある種の無双ゲームの如く警備ロボは倒れていく。
「はあっ!」
最後の1体を、涼太が袈裟切りで閉めて、周囲にはガラクタの山が積みあがった。
「これで説明してくれるんだよな?」
「その前に詩織も助けないと」
「・・・じゃあ、移動しながら現状だけでも教えてくれ」
ボクがいつもより真剣な態度になっていることを悟ったのか、涼太は不服にも納得してくれたようだ。
―――
結局、この廊下にあるどの部屋にも詩織はいなかった。
今は途中で見つけた下へと続く階段を下りている。
「つまり、真谷さんを捕まえるために俺たちを捕まえたってことか」
部屋を蹴破りながら報告したボクたちの現状を、涼太が簡潔かつ単純に理解してくれた。
「で、ウェポンデバイスってのは?」
人間とは、用途さえわかっていれば、過程なんて気にもせずに道具を扱えるため、涼太は立ちふさがる警備ロボを片手間に切り刻んだ。
「えっと、うーんと、仮想武器のアクセサリー型携帯端末?」
「なんで疑問形なんだよ!」
そんなことを言われても、ボクが作ったわけじゃないし・・・。
「大丈夫。パーティバランスは良いから」
「いやいや、意味が分からないから!」
「ん? 魔術師と聖騎士。ほら、綺麗に前衛と後衛で分かれてる」
「え? これって、そんな設定なの!?」
「むしろ違うの?」
あからさまに何かを意識した恰好だと思うんだけど。
「じゃあ、もっと地味なのはなかったの? せめて朔良みたいに、なんとなくで誤魔化せるやつ」
「えっと、残りは召喚士と歌姫と格闘家だよ。ほらね?」
「なにがほらね、なんだよ? せめて格闘家と替えてくれよ」
えー、聖騎士も格好良いと思うんだけどなぁ。
「あっ!」
「どうした?」
「ゴメン。家に忘れた。手元にあるのは歌姫だけしかない」
こんなことになるとは思っていなかったから、ちゃんと準備してなかった。
「マジかよっ! 顔が隠れるだけマシか。じゃあ、視界の端に固定されている緑と青いゲージはなんなんだ?」
「緑が安全装置で、青が電池残量。安全装置が0になると、強制的に戦闘システムを停止させて生命維持装置に切り替わるんだ。判定は脳波と仮想防具の破損状態に依存するから」
衣装が変わるのは無駄じゃないってことだね。
「電池残量はウェポンデバイスの稼働時間ってことだよな? でも、全く減っていないぞ?」
「えっと、これ、普通のデバイスと違って、永久機関が搭載しているから、戦闘術式起動するだけなら減らないんだよね」
「じゃあ――」
「待って」
階段を降り切った瞬間、およそ30体ほどの警備ロボが待ち構えていた。
「うわっ! 俺の防護フィールド、保たないかも」
「ちょうど良いから、スキルについて説明するね。スキルにはコードとアシストの2種類があって、コードは状態を変化させるスキルで、アシストは行動を補助するスキル。試しに、あいつらに向かって『アシスト《鎌鼬》』って音声入力してみて」
「なんか、恥ずかしいんだけど?」
大事なことだからもう一度言うけど、これを作ったのはボクじゃない。
「相手は待ってくれないよ。コード《BEAM》」
ハンマーが一瞬にしてスタッフに戻り、ハロウィンパンプキンから一筋の閃光が放たれた。
直線状にいた警備ロボを5体ほどを貫通し、壁を焦がしたところで消えた。
「これ、10パーセント消費するから多用できないんだよね」
「やればいいんだろ! アシスト《鎌鼬》」
音声入力と共に、涼太が走り始めた。
速度は人間の限界を超えていて、目で追うのがやっとのほどだ。
涼太が剣を横薙ぎに一閃すると、太刀筋の形をした衝撃波が生まれ、それに触れた警備ロボは接触部から切断されていく。
10体くらいを巻き込んだところで壁に衝突して、さっきのビーム同様に、壁を少しだけ抉ってから消えた。
「凄いな!」
「他にもスキルはあるし、デバイスのコアをタップすれば確認できるから。涼太の場合、剣の鍔についている宝石だから」
厳密に言うと宝石じゃないんだけど、この際だから気にしない方向で。
因みにボクのデバイスのコアは、言うまでもなくハロウィンパンプキンだ。
―――
警備ロボを全滅させるのに1分もかからなかった。
「朔良、これから、どうする?」
涼太は少しだけ息切れをしているため、言葉が途切れ途切れになっている。
「なるように、なる?」
そういうボクも少し疲れてきた。
「そうじゃ、なくて、どっちに、行くか」
ボクたちの選択肢は、このまま階段を下りるか、このフロアを探索するか。
「んー、いっそのこと、二手に分かれるとか?」
「・・・マジで言ってんのか?」
その結果を想像したのだろう。
涼太はげんなりしたような顔をした。
「そっちのほうが早いと思うよ。詩織を見つけるのは最重要だけど、通信用携帯端末も取り返さないと」
「でも、そのままはぐれたらどうするんだよ?」
「えっと、ウェポンデバイス同士なら通話料無料だよ」
「携帯電話会社の(この世界ではケータイは過去の遺産だけど)キャッチフレーズ風に言うな」
「使い方はね。《CALL TO 職業名》だから」
「ツッコミはスルーか!?」
非常事態にツッコミとか馬鹿じゃないの。
「ボケるやつに言われたくねーよ」
「それで、どっちに行きたい?」
「心を読んだこともスルーか!」
顔とか声に出ていたんじゃないの。
「そうだけどさ。なんか釈然としねーんだよ」
「それで、どっちが良い?」
「俺が下に行く。また警備ロボが待ち伏せていそうだしな」
涼太の諦めたような溜め息もスルーしておこう。
「じゃあ、これ渡しとくね」
ポケットから、星形の髪飾りを取り出して涼太に手渡す。
「これは?」
「歌姫のデバイス。電池残量が尽きたら使って。女性用の装備だけど、無いよりはマシだし、詩織を見つけたら渡してあげて」
「朔良が詩織を見つけたらどうするんだよ?」
「その時はその時で連絡するよ。それに、ボクは《MOVE》があるから、守りながら戦うのもできるしね」
「わかった。無理するなよ」
「涼太こそ無茶しないでね」
ボクたちは同時に背を向けて歩き出す。
お互いに大きな怪我をしないことを信じて。
なんか、これ、映画のワンシーンみたい。
「緊張感くらい持てよ!」
後ろから何か聞こえたけどスルーしよう。
凪「いよいよ朔良の性格が崩壊してきたね」
朔「涼太に会って安心したからね」
涼「あのさ、見知らぬ土地で別行動って明らかに馬鹿だろ」
凪「これ以上朔良を複数行動させておくと、物語にシリアスを入れられなくなるからね」
涼「そんな理由かよ!」
朔「そんなことより次回、色々なフラグ回収とあいつら登場」
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凪「技名変更しました」