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10階建てのビルを眺める少女がいた。
その少女は、ホロウィンドウのオレンジ色の光点がそのビルを指していることを再度確認すると、敷地に沿って歩き始めた。
ビルの前の通りは人通りが少なく、少女の不審な光景を気に留める人もいなかった。
少女はビルを半周したところで足を止める。
そして、キョロキョロと周囲を見回し、誰もいないことを確認すると、ボソボソと何かを呟いた。
その瞬間、光の粒が少女の体を覆った。
数秒もせずに光の粒は消え失せたものの、少女は若干服装が変化していた。
正確には黒いトレンチコートを着て、わかりやすく変化しているが、以前と比べるとそれだけしか変わっていないのだ。
いつの間にかに両手にハンドガンが1丁ずつに握られている。
更にボソボソと何かを呟いたかと思うと、少女は一瞬にして姿を消してしまった。
―――
『警告! A‐79にて脱走者感知。A‐79にて脱走者感知』
1回で扉を破壊できた優越感に浸っていると、おそらく建物全体に警報が鳴り響いた。
「あれ、もしかしてピンチ?」
慌てて扉の先に広がる廊下に出てみると、ボクの呟きを肯定するかのように、警備ロボが出現した。
1脚に付き2つのローラーが付いた4脚にボックス型の胴体を持ち、胴体の中心よりやや上にセンサーカメラ、やや下には銃口が付いている。
そんな警備ロボが5台ずつ、左右の両方から。
「とりあえず、涼太と詩織を探さないと」
30メートルくらいの感覚に何かしらの部屋の扉があるから、そのどこかにいるかもしれない。
直感で右に行く。
足を踏み出した瞬間だった。
警備ロボが射程距離に入ったらしく、一斉に銃弾が放たれた。
「コード《MOVE》」
それでも、ボクの音声入力のほうが若干早かった。
ハンマーがスタッフの形状に戻り、ボクの足元を中心に前後に延びる矢印が廊下の床に出現した。
その上を通過した弾丸が徐々にスピードを緩め、やがては放物線を描いて向きを変えた。
規則正しく横に並んでいたため、中心の警備ロボは自分の放った弾丸を、他の機体は対称の位置にいる機体の放った弾丸に直撃した。
しかし、警備ロボにも防護フィールドがあるのでダメージはなく、銃弾の連射を繰り返している。
「このままだと電池切れだよ」
アクティベートしてから視界の左上に表示されている青いゲージが、5秒毎に1パーセント減少していた。
制服の第一ボタンを2度タップして、ホロウィンドウを出現させる。
そこには、ボクの制服としての情報が書き込まれていた。
その中で、防護フィールドの電池残量を確認した。
「うわ、あのパンチで3分の1も減ったの!?」
普通の制服の4倍は強度が増しているはずだから、普通の制服では貫通しているはずだ。
「でも、半分あれば充分かな」
取り留めのない銃弾が降り注ぐ中、ボクは半歩だけ足を踏み出した。
前方に延びる矢印を踏みつけた瞬間、急激的な加速度がボクを襲った。
それに抗わずに、スタッフを前に向けた。
真ん中にいた警備ロボの銃弾だけがボクを捉えた。
しかし、それも制服の防護フィールドに阻まれる。
「コード《HAMMER》」
青いゲージの2パーセントと引き換えに、再びスタッフがハンマーを模った。
同時に先ほどの矢印が消え失せ、放たれた弾丸は何もない空間を通り過ぎた。
ボクは勢いのままにハンマーを振り下ろし、正面の1台を叩き潰す。
下に向けて力を使ったので、必然的にボクの体は上に流される。
しかし、そのことが幸いして、後ろから迫っていた弾丸が何も触れずに追い越して行った。
「コード《OTHER》《MOVE》」
着地と同時に矢印を後ろに一方だけ再展開する。
しかも、ハンマーがスタッフに戻ることはない。
そのハンマーで一番近い扉を壊した。
「朔良・・・か?」
運が良かったらしく、その部屋には涼太がいた。
でも、様子がおかしい。
ボクを見る目には、疑問と不安が浮かんでいる気がする。
「そうだよ? 助けに来たんだけど、どうかしたの?」
「いや、その恰好なに?」
「・・・」
そういえば、この姿を涼太に見せるのは初めてだった。
というか、見せる機会がなかった。
「とりあえず説明は後。詩織がどこにいるかわかる?」
「え? あ、ごめん。わからない」
涼太は未だに状況を呑みこめていないのか、口をパクパクさせている。
そんな時、廊下で警備ロボのローラーが駆動する音が聞こえた。
右から聞こえてくるので、おそらくは増援が来たんだと思う。
「涼太、デバイスは?」
「えっと・・・。ない」
「じゃあ、これ渡しておくね」
ボクはポケットから翡翠色の宝石のような球体を取り出して、涼太に向かって放り投げた。
「うぉっ、とっと」
涼太はお手玉をしつつも何とかキャッチした。
「これは?」
「ウェポンデバイス。っと、コード《MOVE》」
警備ロボの姿が見えたので、入口から入ってはこれない向きに矢印を出現させた。
「音声入力で、武装術式起動して。少なくとも足手まといにはならなくなるから」
「お、おう。《武装術式起動》」
ボクの時と同様に、涼太は淡い光に包まれた。
涼太「専門用語がでてきたな」
凪乃「読者には悪いとおもっているよ。でも、説明話はprologueが終わるまで入らないつもりだから。後2~3話くらいは終わりそうにないけど」
涼「せめて、俺には教えてくれよ」
朔良「涼太、あのままだと死んでたよ(笑)」
涼「つーか朔良、あの変なのいつ手に入れたんだよ?」
朔「んー、涼太のやつよりは恥ずかしくないよ」
涼「おいっ! 俺に何を渡した!?」
朔「えっと、パ――」
凪「言わせてたまるか! 次回、あの方とご対面の予定」
朔「感想は随時募集中です」
涼「いや、こんな駄文に感想書く人なんていないから」