...meet again //act1
六畳ほどの広さの部屋の質素なベッドの上で少年は目を覚ました。
―――
「・・・ここは?」
見覚えのない天井だ。
いや、部屋を見回してみても、見覚えのあるものなんて何ひとつない。
唯一存在する窓からの外は茜色に染まっていて、その西日だけがこの部屋の光源になっていた。
とりあえず、現在位置を確認するために窓の向かい側にある扉のドアノブを捻る。
「リアル脱出ゲーム・・・?」
頭の片隅で予感めいたものはあったが、嫌な予感は当たるもので、扉には鍵がかかっていた。
西日の差しこむ窓は、ボクの伸長では届くことはない。
クローゼットは・・・何もなかった。
無論、ベッドの下も調べてみたけど何もなかった。
「どうしてこうなったんだっけ?」
過程にヒントがあるかもしれないから、思い出してみよう。
まず、ボクの名前は鳴瀬朔良。
身長は164センチ、特技はプログラミング、趣味は・・・興味がわいたもの、桜鈴学園高等部に通う一年生。
あ、プロフィールを思い出しても仕方ないか。
―――今朝
ボクはいつもの様に仏壇の前で手を合わせた。
「行ってきます」
御先祖様ではなくて、五年前に交通事故で他界した父さんに対してだ。
生前の父さんとボクの仲は良くも悪くもなかったけど、ボクは火曜日の朝はいつもこうして挨拶をする。
いや、それなりの距離があったからこそ父さんが死んだ実感がもてず、今もこうして火曜日の朝には当時の朝の再現をしている。
それからボクは自転車に乗り、片道20分をかけて学園に向かった。
桜鈴学園に通う大半の生徒は、ボクの家から学園を挟んで向かい側にある学生寮に住んでいて、通学中に誰かと遭遇することはあまりない。
今日も誰とも会わずに学園の校門までたどり着いた。
そのまま駐輪場に自転車を置くと、昇降口で靴を履き替えて教室に向かう。
すでに予鈴がなり終えているため、廊下にいても教室の喧騒が聞こえてくる。
そんな喧騒をかき分けて、どうにか自席へとたどり着いた。
鞄を机の脇に掛け、一息ついて着席したところで、誰かがボクの右肘の辺りの袖がクイクイと引っ張られた。
「あ、真谷さん」
振り向いてみるとそこには、真谷柚奈さんが無表情のまま立っていた。
彼女の特徴は、空色の髪を腰の辺りまで伸ばし、所々が寝癖で跳ねていることだ。
いつも眠そうに目を細めているので、本当はクラスでもまれな綺麗系の美少女であることを知っている生徒は少ない。
「・・・これ」
真谷さんからメモリチップを渡された。
「ちょっと待って」
中身のおおよそはついているけど、正確なことは知らないので確かめないといけない。
ボクはポケットから通話機能付きタブレットデバイスを取り出して接続してみる。
一瞬だけ『ロード中』という表示が出て、すぐに画面が切り替わったと思えば、空中にホロウィンドウがいくつも出現した。
今は必要ない情報のウィンドウを消去すると、1つだけが残った。
「これなら、来週の水曜日になるけど良いかな?」
真谷さんは迷うことなく静かに頷き、自分の席へと帰って行った。
ボクが渡されたデータのバックアップを自分のタブレットデバイスへと保存し終えると同時に始業のチャイムが鳴り響いた。
間もなく、ガラガラと教室の扉が開き、担任の新野美紀先生が教室に入ってきた。
新野先生が教壇の中央まで行く時間を利用して、友達と話し込んでいたクラスメイトが各々の席に着いた。
「よし、全員そろっているな」
教室内を見回し、欠席がいないことを確認ると、出席簿にペンを走らせた。
「実は今日、転校生が来ているんだ」
それはまた急な話だった。
ボクたちが高校生になってからまだ1ヶ月程度しか経っていないのに不自然すぎる。
教室の何処を見てもざわめいている。
「入ってきてくれ」
新野先生の合図とともに教室の扉が再度開いた。
それと同時に騒がしい男子グループのほとんどが歓声を上げた。
理由は単純明解、転校生が美少女だったから。
鮮血にも似た真紅の髪のポニーテールを揺らし、同色の瞳はどこか大人びている。
そして何より、同性さえも惹きつけてしまいそうな凛とした顔立ちで、懐かしさがあふれ出ている。
・・・懐かしさ?
ボクはそのことを自覚した瞬間、常に頭の片隅に住まう人物を思い出した。
シリアス系かほのぼの系か悩んでいます。
どちらにしようか・・・。