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ヒッチハイク

作者: WAIai
掲載日:2026/07/26

「暗くなる前に、給油するか」

俺は独りごちると、トラックを給油所に入れる。

歳は40代。

顔はかっこよくもなく、かっこ悪くもなく、普通の顔。しかし年より若く見えた。

ハンドルを器用に回す。

その際、左手が義手だった。生まれつき、手がなかったのだ。

「おう。よろしく頼む」

「はいよ」

馴染みのスタッフに任せると、トイレに行こうとして気づく。「妙高」と書かれたスケッチブックを持った女性。

しかも外国人で、かっこいいというよりは、可愛い系だった。

「妙高に行きたいのかよ、姉ちゃん?」

英語ではなく、日本語で聞くと、女性は嬉しそうに笑う。

「Oh!! その通りです!! 乗せてください」

「何しに行くんだ?」

「その…」

女性は恥ずかしそうに目を伏せ、小声で呟く。

「ハズバンドに会いに行くんです」

「ハズ…? 誰だ、それ?」

「えっと、夫。そう、夫です!!」

「なるほど。ちょっと待ってな」

俺はトイレを済ますと、ついでに会計も済まし、外に出る。

「お待たせ。乗れ。送って行ってやる」

「Wow!! Thank you!!」

頰にキスをされ、俺は悪い気はしなかった。

俺がトラックに乗ると、女性は助手席に乗る。

「Let‘go!!」

「はいはい」

俺はエンジンをかけると、給油所を後にしたのだった。

外は暗くなり始めた頃で、月がぼんやりと浮かんでいる。月から地球を見たら、どうだろうなと見ているが、ややこしいことは苦手なので、運転に集中する。

「その、ハズバンドだっけ?」

「I see.その通りです」

「何で別れているんだ?」

「遠距離恋愛です。彼が日本の英語の先生をしているので」

「なるほど。そういうわけか。早く会いたいよな」

「Off corce.もちろんです。でも…」

話かけた時、ぐーとお腹が鳴った。女性は恥ずかしそうにすると、お腹をさする。

俺は別に気にせず、前を見ながら言う。

「次のSAで食事でもとるか」

「SA?何ですか、それ?」

「高速道路の休憩所みたいなものだ。姉ちゃん、何が食べたい?」

「食べたいもな…。うーん、天ぷら、寿司」

「そんなものはないぞ。あってもそばかラーメンかうどんだ」

「ラーメン!! ラーメン、Oh my god!!」

すごく嬉しそうにはしゃぐ女性に、俺はびっくりした。

「ラーメンって言っても、軽く食べるだけだぞ。いいのか?」

「OK.OK。口に入るものなら、何でもいいです」

「そうか。じゃあ、少しスピードをあげて」

アクセルを踏み、暗くなりそうな空に対し、海のように際限がないなと、ぼんやりと思う。

何故か飲み込まれそうな感じがし、慌てて首を振る。

「あ、SAだ」

俺はそういうと、SAに車を寄せる。

トラックが給油している場所に、仲間に入れてもらおうと、運転席から出る。

「おい、姉ちゃん、出ろ」

「はい。うわ、トラック、いっぱい!!」

「いいから。早く飯を食うぞ」

俺は1人で歩き出すと、女性が駆けて来て、隣に並ぶ。

意外と身長が高いんだなと思っていると、急に腕を引っ張られる。

「何? どうした?」

「ラーメン!! どこですか?」

「すぐそこだ。ちょっと待ってろ」

SAの中に入ると、俺は食券機の前に行く。

「これは…?」

「先に欲しいものの券を買うんだよ。えっと、ラーメンは…あった。醤油ラーメンでいいか?」

「Oh! 何でもOKです」

「よし。ラーメンを2つと」

食券を出すと、俺はカウンターに渡す。

「頼んだ」

「あいよ」

逞しそうなスタッフに、俺はうなずくと、席につく。

うろうろしている女性に向かい、声をかける。

「座って待っていろ。すぐできるから」

「はい。Oh! ラーメン、早く食べたい!!」

わくわくする女性は子どものようで、見ていて飽きない。まるで電池を入れ変えた後のおもちゃのようで、どれだけ体力があるんだと言いたくなってくる。

「ラーメン、2つできたよ」

「おう。一緒に取りに行くぞ」

「I see.分かりました」

一緒にラーメンを取りに行くと、女性が大喜びする。

「That’sラーメン!! あー、愛しい」

「愛しい? そんなに食べたかったのか?」

「あー、もちろんです!!」

2人はラーメンを席に運ぶと、早速、食べ始める。

ずるずるとすする音が響く。

「Oh!! デリシャス。美味しいです」

「そうだな。まあまあだ」

俺は次々とラーメンを口に入れていく。女性は外国人なのに、器用に箸を使う。

「器用だな、あんた」

「そうですか? ありがとうございます」

明るく笑った女性だったが、すぐに表情を崩す。

俺は慌てて女性に言う。

「何で泣くんだよ? ラーメンが美味しいって、食べていたのに」

「I'm sorry,私、あなたの優しさに感謝します」

「は? 感謝? 俺は安いラーメンをおごっただけだぞ」

「はい。でも美味しいです」

女性は一口すすると、涙を拭いて言う。

「誰かと食事を共にしたのは、久しぶりで。美味しいね、とか、美味しくないとか、意見を言いたくなって。やっぱり愛しい人がいないと淋しいものですね」

「そうか。俺なんか一人暮らしだから、誰かと味を共有するだけで泣けるなんて、初めてのことだ」

「そうですか。大丈夫!! 今日は私がいますから」

「慰めているのか?」

「Why? 強がるのは駄目ですよ」

「そうか」

2人は見つめ合うと、くすりと笑う。

変な同行人だが、今日はいて良かったと思う。たまには誰かと静かな時間を過ごすのもいいのと思う。

「ラーメンが伸びる。早く食え」

「Yes. いただきます」

それからは2人のすする音だけで、時間が進んでいく。

「ごちそうさん」

「ごちそう様でした」

俺が手を合わせると、彼女も手を合わせてくれた。

「よし。じゃあ行くか。その、ハズバンドに会いに」

「OK!! Oh、楽しみです」

チュっと頰にキスされ、俺はびっくりして飛び跳ねる。女性はケラケラと笑い、手を叩く。

「全く。からかうな」

恥ずかしげに言うと、俺はSAを出る。

トラックに乗ると、女性も助手席に乗ってくる。

「本当なら、夜は休むんだけどな」

「Why? ベッドで寝ないんですか?」

「俺達は全国あちこち行くから、ベッドなんてものはないんだよ。年中、トラックの中だ」

「ふうん。なるほど」

「でも今日はあんたがいるから、夜、走ってやる。大丈夫だ、安全運転で行くから」

「お願いします」

トラックが走り出すと、目的地の妙高まであと少しだった。女性はラジオを聞きながら、ノリノリだった。

ちょうど歌の特集をしており、俺も飽きずに聴いていく。

「お。目的の妙高だ」

高速から下り、普通の道路へと行く。

「どこまででいい?」

「そうですね…。ハズバンドの家まで行ければいいんですが」

「よし、行くか。ここまで来たら、最後まで一緒に行ってやる」

「Thank you.じゃあ、お願いします」

女性の指示に従って、道を進んでいく。

すでに真っ暗な空に、不気味ととらえるか、美しいととらえるか、難しかった。

彼女は地図を持っており、それを頼りに進んでいく。

「Oh!! あの家みたいです」

女性の一際嬉しそうな声に、俺も嬉しくなって笑い出す。

「ここまででいいか、姉ちゃん」

「OK!! あとは私が歩きます」

トラックを停めると、女性が助手席から降りる。

俺はわざわざ運転席から降りると、女性と握手する。

「一期一会。日本のいい意味で、1回きりの出会いだけれど、大切にしようとか、そういう意味だ」

「Oh!! ありがとうございます」

女性がハグしてきたので、俺は恥ずかしそうに、ハグし返す。

「よし、お別れだ」

「はい…」

急に女性が泣き出すので、俺はどうしていいか、しどろもどろになる。

「大丈夫だ。旦那も待っているはずだから、な?」

「…Yes.あなた、優しい人」

「そんなことはないぞ」

軽く否定すると、俺は手を差し出す。

「さようなら。元気でな」

「Yes!! あなたも」

2人は笑うと、星がキラキラ輝く中、別れたのだった。

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