晴れノチ曇り
少年は暑さに茹だる。隣を歩く少女も同じようで、口数も少なく蝉の爆ぜる道を行く。
蜃気楼の揺らめく先を見て、少年は嘆くように空を見上げた。
「遠いなぁ、おい」
「そうねぇ、あい」
ちらと横を見れば、汗を拭う少女の姿。少年はそれに対して思うこともなく水分を求めて口内を荒らす。
それに気づいたのか、少女は嫌な目で少年を見た。
「なに考えてんの、やらしー」
「健康な男児に聞くことじゃないっしょー」
「けっ。そうかい、そうかい」
そっぽを向いた少女は、視線の先に垣根を見つける。壁に囲われた家、少女の肩ほどしか高さのないそれで、仕切りを越して窓に立つ子供を見つけた。
目が合ってしまったのかと肝を冷やすが、その目が空を見上げているのに気づく。天気を見ているのだろうか。
少女も歩きながら空を見上げて、暑いながらも流れの速い雲に曇ることを期待した。しかし、その陽射しが弱まる気配は感じられない。
「はぁ、暑くて堪らんねぇ。曇らないかな」
「向こうの家の人も、天気を気にしてるみたいだったよ」
「向こう?」
「ほら、後ろ」
少女の指差す先に、少年も通り過ぎた家を見た。それからひとつ、ああ、と頷く。
なにを納得しているのかと少女が聞けば、少年も昨日、恐らくは同じものを見たのだと。
「ガキはいいわよねぇ、カンカン日照りが一番、好きなんでしょ?」
「だなぁ……うん? あれ、俺が見たのは男の人だったけどなぁ」
さして興味もなく、大人も天気が気になるのだろうと、後ろを振り返る。別の窓から空を見上げている男がいた。
少女は目を瞬き、少年の袖を引く。煩わしそうにした少年は少女の視線の先を見て、あの人がそうだと笑った。
「天気ばかり気にして、お天気おじさんだな。雨が降ると仕事にならないんだろうよ」
「いや、うん……あれ?」
なにか頭に浮かんだものが消えて、少女は首を傾げた。少女の様子にやれやれと首を振り、その歳で更年期障害もどうかと笑う少年を膝で突く。
汗をかきかき、二人は学校への道を急いだ。
それから時間も過ぎて帰り道。少女は一人で家路につく。部活動で辺りはすっかり日が沈んで薄暗く、少女は漠然とした不安を感じていた。
この雰囲気だと、よくホラーな出来事を妄想するが、それも全て自分を盛り上げるための行為だろうと少女は推測する。だから、本当は怖くなんてないのだ。
ふと、少女は顔を上げた。朝に見た家だった。電気もつかない家の中で、棒立ちしている。
言い様のない恐怖が彼女を打ち、背筋を凍らせる。思わず動きを止めた彼女の後ろを、女が追い越した。
女は仕事着のスーツ姿で、明かりのない家に入っていく。ただいまの声とともに、室内の電気がついた。少女は安堵の息を吐く。きっと女の帰りを待っていた夫だろうと。
自分にも帰りを待つ家族がいる。自分の巣に帰ろうと急ぐ子狐のように足早にな少女。
ちらと少女が顔を横に向けたとき、電気のついた部屋で未だに空を見上げる子供がいた。
暑い日はアイスがとっても美味しい。自分はよく頭痛を起こすので、そういうときはシャーベットに限ります。
あれは堪りません。薬よりもシャーベット。
ところで、他人の家を覗いたことはありますでしょうか。自分は小さな頃、よく他人の敷地で遊んで叱られました。だからこそ、見つからないように遊ぶことを楽しんでいた節があります。
覗いた家の人と、目が合ったらヤだろうなー。