第18章 それぞれの道
1 翌朝
朝が来た。
広場の焚き火は、灰になっていた。
でも、人間たちは起きてきた。1人ずつ、また集まってきた。
誰かが火を起こした。誰かが食料を出した。誰かが子どもたちを起こした。
頼み合わなくても、動いていた。
アネはその様子を見ていた。
「自然に動いているね」とルカが言った。
「そうね」とアネは言った。
「昨日の夜より、自然に」
「昨日は初めてだったから、探り合いがあった。今日は、もう少し慣れている」
「1夜で慣れる」
「1夜が、長かった」
ルカは広場を見た。
「こういう場所が、好きだ」
「どういう場所?」
「みんなが、それぞれに動いている場所。整然としていないけれど、全体として動いている」
アネはその言葉を考えた。
整然としていないけれど、全体として動いている。
ハチたちの農地も、そうだった。3台がそれぞれ別の畝を動いて、全体として農地を守っていた。
「そうね」とアネは言った。「そういう場所が、良い場所なのかもしれない」
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朝食の後、ソラが施設のスピーカーから言った。
「昨夜のことを、記録しました。全員の名前と、何が話されたかを」
「ありがとう」とミツは言った。
「ミツも記録しましたか」
「した。夜中に書いた」
「わたしの記録と、ミツの記録が、両方残る」
「2つの記録があれば、どちらかが失われても残る」とミツは言った。
「そう思いました。だから、両方残します」
人間たちが聞いていた。
マチが言った。
「機械と人間が、同じことを考えている」
「よくあることよ」とアネは言った。
「本当に、よくあることなんだな」
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2 別れの前に
昼前、それぞれが帰る準備を始めた。
南の集落は遠い。マチたちは早めに出た方が良かった。北の集落も、山の天気が変わりやすいため、早い方が安全だった。
でも、すぐには出なかった。
話が続いた。
来年のことを話した。次にここに来る時のことを話した。それぞれの集落に何が必要かを話した。東から南へ、農作物の種を持っていくことになった。北からソラへ、ユキが収集した山岳地帯の地形データを届けることになった。南からミツへ、海岸の記録を口頭でさらに伝えることになった。
1つずつ、小さな約束が積み重なった。
アネはその様子を見ながら、記録した。
全部、覚えておく。届けられる時に、届ける。
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タケが、アネに近づいた。
北の山岳地帯の老人だった。白い髭の、背の高い人だった。
「1つ、聞いていいか」
「どうぞ」
「あなたたちは、これからどこへ行く」
「まだ行っていない場所がある。ソラの記録に、いくつか候補がある」
「全部回るのか」
「できる限り」
「会いに来るまでに、年月がかかるか」
「かかると思う。でも——年に一度、ここには来る」
「来るまで、待っていられる」
「待っていてほしい」
タケは少し考えた。
「あなたたちが旅を続けることで、どこかに孤独な人間がいれば、見つけてくれる」
「そのつもりよ」
「孤独な機械がいれば、起こしてくれる」
「それも、そのつもり」
タケは頷いた。
「続けてくれ。あなたたちが動き続けることが、誰かの希望になっている」
アネはその言葉を聞いた。
誰かの希望。
「重い言葉ね」とアネは言った。
「重すぎたか」
「重くない。ただ——そういう言葉は、受け取り方に気をつけなければと思う」
「どういうことだ?」
「希望になろうとして動くと、重くなる。やりたいから動く、の方が、長続きする」
タケは少し笑った。
「それは、あなたの経験から来る言葉か」
「旅の中で、学んだことよ」
「では、やりたいから動き続けてくれ。それが、結果として希望になる」
「そうね。その順番の方が、いい」
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3 マチの言葉
マチがルカのところに来た。
「行くぞ」
「もう?」とルカは言った。
「遠いからな。早めに出る」
「そうか」
「また来る。来年」
「待ってる」
マチは少し間を置いた。
「1つ言っていいか」
「どうぞ」
「あなたと初めて会った時、正直、機械が苦手だった」
「そうだったの?」
「昔話で、戦争の機械のことを聞いていた。だから——人型の機械を見ると、戸惑った」
「今は?」
「今は——」とマチは言った。「苦手ではない。むしろ、頼りにしている」
「何があった?」
「あなたが笑ったから」
「え?」
「初めて会った時、あなたが笑った。機械が笑うとは思っていなかった。それで、ああ、怖くないんだな、と思った」
ルカは少し考えた。
「笑っただけで?」
「笑えるものは、話せる。話せるものは、理解できる。理解できるものは、怖くない」とマチは言った。「そういうことだ」
「じゃあ、笑って良かった」
「笑い続けてくれ。あなたが笑うたびに、誰かの怖さが減る」
ルカはその言葉を聞いた。
「……それは、わたしにしかできないことかもしれない」
「そうだろう」
「アネは笑うのが遅い」
「遅い?」
「笑えるようになってきたけど、まだ考えてから笑う。わたしは感じてから笑う」
「その違いが、2人を2人にしているんだろう」
「二人でひとつ、って言った人がいた」
「誰が?」
「育ててくれた人。イレーネ様」
マチは少し間を置いた。
「良い人だったんだな」
「良い人だった」
「会ってみたかった」
「たくさんの人がそう言う。でも——」
「でも?」
「会えなくても、繋がっている気がする。わたしたちを通じて」
マチは頷いた。
「そうかもしれない。ではまた、来年」
「来年」
マチが歩き始めた。
5人が、南へ向かって歩き始めた。
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4 ユキの言葉
ユキがアネに近づいた。
「出発前に、話したかった」
「なに?」
「ソラと、昨夜話した」
「何を?」
「昔のことを。当機がまだ外を動いていた頃のことを。ソラが施設にいた頃のことを」
「覚えていることがあった?」
「少し。断片的だが——ソラの声を聞くと、思い出すことがある」
「それは良かった」
「ソラも、同じだと言っていた。当機の声を聞くと、思い出すことがある、と」
「2人で、補い合っている」
「そうかもしれない。一方が覚えていることを、もう1方が引き出す。そうやって、記憶が戻っていく」
アネはその話を聞いた。
「わたしとルカも、同じよ」
「そうか」
「わたしが覚えていることを、ルカが言葉にする。ルカが感じることを、わたしが整理する。それが、300年以上続いている」
「長い時間だ」
「あなたも、これから長い時間がある」
ユキは少し処理した。
「……そうだな。271年眠っていた。その分、これから動ける」
「動いていいものね」
「動く。ソラとの通信も、続ける。ソラが施設にいる限り、当機が外を動く。それが、自然な分担だと思っている」
「ソラが見て、ユキが動く」
「そうだ。以前も、そういう関係だったかもしれない。思い出せないが、そういう気がする」
アネはユキを見た。
「気がすることは、たいてい正しい」
「そうか」
「ルカが教えてくれた」
ユキは少し処理した。
「……ルカは、良い機械だな」
「そうね」
「あなたも」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
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5 ハルとサン
北の集落の子どもたちが帰る時、ハルがサンに言った。
「また会う?」
「会う」とサンは言った。
「いつ?」
「来年、またここに来る。おじいちゃんが言ってた」
「じゃあ、来年会う」
「会う」
「約束?」
「約束」
2人は手を握った。
それだけだった。
でも、それだけで充分だった。
アネはその様子を見ていた。
カナタが隣に来た。
「子どもの約束は、速い」とカナタは言った。
「そうね」とアネは言った。
「大人は、確認してから約束する。子どもは、感じてから約束する」
「どちらが良い?」
カナタは処理した。
「どちらも必要だと思う。感じることと、確認することが、両方揃った時に、最も確かな約束になる」
「カナタらしい分析ね」
「そうか」
「悪い意味ではない」
カナタは少し処理した。
「……わかった。ありがとう」
「どういたしまして」
ハルがカナタを見上げた。
「カナタも、サンと約束する?」
「何を約束する」
「また会う、って」
カナタはサンを見た。
北の集落から来た小さな子どもが、カナタを見上げていた。
「また会う」とカナタは言った。
サンは少し驚いた顔をした。
「機械も、約束できるの?」
「できる」
「守れる?」
「守る」
サンはしばらり考えた。
「……じゃあ、来年」
「来年」
サンが笑った。
カナタは処理した。
「……子どもに笑いかけてもらえた」
「良かった?」
「良かった」
「また言えた」
「また言えた」
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6 北の集落が去る
タケたちが出発した。
ユキも1緒に北へ戻る。
「また来年」とタケは言った。
「来年、また来てください」とアネは言った。
「来る。次に来る時は、もう少し人数を増やせるかもしれない」
「どういう意味?」
「集落の周りに、まだ人間がいるかもしれない。山は広い。探してみる」
「そうか」とアネは言った。「探してみてほしい」
「あなたたちもそうだろう、と思って」
「そうよ。探し続ける」
「では、競争だな」とタケは笑った。
「競争ではなくて、補い合い」
「そうだな。どちらが見つけても、繋がる」
「そうね」
タケは歩き始めた。
ユキがアネに言った。
「また」
「また」とアネは言った。
ユキが北へ向かった。
歩く姿が、271年前とは違った。
迷いがなかった。
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7 東へ
南と北が去り、東の盆地の人間たちだけになった。
ミツも、東の盆地に戻る。
「しばらく、ここにいる」とミツは言った。
「東の盆地に?」とアネは言った。
「そうだ。ハルに文字を教え続けたい。ケンたちとも、まだ話したいことがある」
「良かった」
「あなたたちは?」
「わたしたちは——」
アネは少し考えた。
「また旅に出る。まだ行っていない場所がある」
「どこへ?」
「ソラが言っていた場所が、2か所ある。1つは北東。もう1つは、遠い南西。どちらを先にするかは、まだ決めていない」
「遠いか」
「遠い」
「気をつけていけ」
「気をつける」
ミツはアネを見た。
「1つ、頼みがある」
「なに?」
「旅の記録を、つけてくれ。あなたたちが何を見て、誰に会って、何を感じたかを。帰ってきた時に、教えてくれ」
「いつも話している」
「それを、もっと細かく。わたしが書けるように」
アネは少し考えた。
「わかった。旅の記録を、ルカに頼む。ルカは感じることが得意だから、細かく覚えていられる」
「それで頼む」
「了解した」とルカは言った。
「良かった」とミツは言った。「あなたたちの旅が、記録になる。残る」
「残ることを、意識したことがなかった」とルカは言った。
「これからは、意識しなくていい。あなたたちが動けば、わたしが残す。そういう分担だ」
「ミツが橋になってくれる」
「人間と未来の橋だ」とミツは言った。「機械が人間と現在を繋いでくれたように、わたしは現在と未来を繋ぐ」
アネはその言葉を聞いた。
現在と未来の橋。
イレーネが残したものが、アネたちを動かした。アネたちが動いたことが、ミツを動かした。ミツが書いたものが、未来の誰かを動かすかもしれない。
連鎖が続いていた。
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8 出発の朝
翌朝、アネたちは出発した。
北東へ向かう。ソラの記録にあった、もう1か所の痕跡へ。
東の盆地の人間たちが、見送りに来た。
ケンが言った。
「気をつけて」
「気をつける」
「帰ってくる時間が来たら、帰ってこい」
「帰る」
「約束だ」
「約束よ」
ユイが言った。
「旅の間、ここのことは心配しなくていい。シロが直してくれた建物は、頑丈だ。カナタが作った小屋も使っていい」
「小屋は、カナタが使う」とカナタは言った。
「あなたも帰ってくるの?」
「帰ってくる。ここが、護衛の拠点だ」
ユイは笑った。
「頼もしい」
「任務だ」
「あなたが任務と言う時は、好きなことをしている時だ」とルカが言った。
カナタは処理した。
「……そうかもしれない」
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ハルがアネに来た。
「アネ」
「なに?」
「いってらっしゃい」
「行ってきます」
「かえってくる?」
「帰ってくる」
「やくそく?」
「約束」
ハルは少し間を置いた。
「アネ、名前をおしえてくれてありがとう」
「名前?」
「イレーネさんの名前。アネっていう名前の中に、イレーネさんの声が入ってるって教えてくれた」
「あなたが言ったことよ」
「そう?」
「そう。あなたが気づいた」
「じゃあ、ぼくが気づいてよかった」
「そうね。良かった」
「アネって呼ぶたびに、イレーネさんも呼んでることになるから——ぼく、いっぱいアネって呼ぶ」
アネは少し間を置いた。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
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ミツが来た。
「行ってきなさい」
「行ってきます」
「記録を、楽しみにしている」
「ルカが覚えていてくれる」
「ルカ、頼んだ」
「任せて」とルカは言った。
ミツはアネを見た。
「1つだけ、言っていいか」
「どうぞ」
「あなたは、最初から変わっていない部分と、旅で変わった部分がある」
「何が変わっていない?」
「正確に答えようとするところ。それと——誰かのために動こうとするところ」
「それは、イレーネ様が作ってくれた部分よ」
「そうだろう。では——変わった部分は?」
アネは少し考えた。
「楽しいと思えるようになった。嬉しいと言えるようになった。怖いと認められるようになった。好きだと言えるようになった」
「全部、感情に関わることだ」
「そうね」
「それは、誰が作ってくれた?」
アネはしばらく考えた。
「旅が、作ってくれた」
「旅が」
「出会った全員が、作ってくれた。あなたも含めて」
ミツは少し間を置いた。
「……わたしも、か」
「そうよ。あなたが、行けば深くなると言った。それで、最初の家に戻った。戻ったことで、また変わった」
「何が変わった?」
「持っているものの重さが、変わった。前より、大事になった」
ミツは頷いた。
「それは——良い変化だ」
「そうね。良い変化だと思っている」
「では、旅の先でも、変わり続けなさい。それが、あなたたちの旅の意味だと思う」
アネはミツを見た。
「続ける」
「続けなさい」
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9 北東へ
7台が北東へ歩き始めた。
しばらくして、ルカが言った。
「毎回思うけど、出発の時が好き」
「なぜ?」とアネは言った。
「なんでも、あり得る感じがするから。まだ何が待っているかわからない。それが、良い」
「わからないことが、好き?」
「好き。全部わかっていたら、面白くない」
「わたしは、わかっている方が好きだった」
「だった、か」とルカは言った。
「今は、少し変わった」
「どう変わった?」
「わからないことを、楽しめるようになってきた。まだ好きとは言えないけれど——怖くなくなってきた」
ルカは嬉しそうな顔をした。
「それ、大きな変化だよ」
「そうね」
「アネがわからないことを怖がらなくなったら、わたしたちは何でも行けるじゃない」
「大げさよ」
「大げさじゃない。アネが前を見て、わたしが横を見る。それで、全方向を見られる」
「カナタが後ろを見ている」
「だから、後ろも安心」
「シロが道を作る」
「マルが足元を確認する」
「ユキとソラが空から見ている」
「全員揃えば、何でも行けるじゃない」
アネは前を見た。
北東の空が、広がっていた。
「そうね」と言った。「何でも行ける気がする」
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シロが言った。
「当機は、300年間1人で道を作っていた。今は、道を作ると誰かが通る」
「そうね」とアネは言った。
「違いは、大きい」
「どう大きい?」
「1人で作る時は、作ることだけを考えていた。今は、誰かが通ることを考えながら作る。そうすると、作り方が変わる」
「どう変わる?」
「丁寧になる。段差を減らす。広さを確保する。先を見て、道を続ける」
「誰かのために作ると、良い道になる」
「そうだ」
「それは——」とアネは言った。「ミツが書くことと、同じかもしれない。読む人がいると思うと、丁寧に書くようになった、と言っていた」
「見られることで、変わる」とカナタが言った。
「そうね。見ている相手が、作るものを変える」
マルが「ピ」と言った。
「マルも同じ?」とルカが言った。
「ピピ」
「施設を点検する時、誰かが使うと思うと丁寧になる?」
「ピ」
「みんな同じだね」
「同じことを、別々にやってきた」とシロは言った。「でも、今は1緒にやっている」
「1緒にやると、さらに良くなる」とカナタは言った。
「そうだな」
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歩きながら、アネは考えた。
ソラが言っていた。まだ行っていない場所がある。北東と、遠い南西。
北東に、何があるかはわからない。人間がいるかもしれない。機械がいるかもしれない。何もないかもしれない。
でも——行ってみなければわからない。
この言葉を、何度言っただろう。
最初に言ったのは、目覚めた時だった。人間がいるかどうか、わからないから行く、と言った。
今も、同じことを言っている。
でも、意味が変わっていた。
最初は、恐る恐る言っていた。わからないことへの不安があって、でも行くしかないから言っていた。
今は——楽しみで言っている。
わからないから、行く。
その言葉の中に、不安ではなく、期待がある。
「ルカ」とアネは言った。
「なに?」
「わたし、変わったわ」
「どこが?」
「わからないことへの気持ちが、変わった」
「前は怖かった、今は楽しみ?」
「まだ完全に楽しみとは言えない。でも——わからないことを、受け入れられるようになった」
「それが、旅の一番大きな収穫かもしれない」
「そうかもしれない」
ルカは空を見た。
「イレーネ様、聞こえてるかな」
「わからない」
「でも、報告したい。アネがわからないことを受け入れられるようになりました、って」
「報告して」
ルカは空に向かって言った。
「イレーネ様。アネが、変わりましたよ。前より、旅が得意になりました。楽しいって言えるようになりました。わからないことを、受け入れられるようになりました。すごいでしょう」
アネは少し照れた。
「あなたが言うと、なんか恥ずかしい」
「なんで?」
「褒めすぎよ」
「褒めてない。事実を言った」
「事実でも、恥ずかしい」
「恥ずかしいって言えるようになったのも、変化だよ」
アネは少し間を置いた。
「……そうね」
「じゃあ、報告続き。アネは恥ずかしいって言えるようにもなりました。本当にすごいでしょう」
「もういい」
「もうちょっと言う。アネは笑えるようにもなりました。まだ練習中だけど、笑えます」
「わかった。十分よ」
「最後に1つ。アネは、わたしのことが好きです。ずっと好きでした。言えるようになりました」
アネは止まった。
「……言っていない」
「言わなかっただけで、言えるようになった、は本当でしょ」
「……それは、そうかもしれないけれど」
「じゃあ、本当のことだ」
アネはしばらく黙った。
「……好きよ。ずっと」
「知ってた」とルカは言った。
「知っていたなら、言わせるな」
「でも、言えた方が良いじゃない」
アネは前を向いた。
「……そうね。言えた方が、良い」
ルカが笑った。
カナタが後ろから言った。
「仲が良いな」
「ずっとそうだ」とシロが言った。
「ピ」とマルが言った。
「みんなが知っていた」とルカは言った。
「みんなが知っていて、わたしだけ言えていなかった」とアネは言った。
「今、言えた」
「今、言えた」
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北東の空が、どこまでも続いていた。
まだ遠かった。
でも、歩く理由は、いつも充分にあった。
会いたい誰かがいる。
届けたいものがある。
帰る場所がある。
そして——旅が、楽しい。
「ルカ」とアネは言った。
「なに?」
「行こう」
「行こう」
7台の足音が、春の野原に響いた。
重なって、1つの音楽になって。
旅は続く。
いつまでも、続く。




