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仮面を被ったまま生きていた部屋  作者: 巳ノ星 壱果


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9話 DV保護施設でみた現実③ 静かな避難所

 第12章 DV保護施設でみた現実③ 静かな避難所



 DV保護施設には、

 40代くらいのお母さんと、4歳ほどの女の子がいた。


 女の子は、いつもプリンセスの服を着ていた。

 無邪気で、人懐っこくて、

 私にもよく笑いかけてくれた。


 本当に、可愛かった。


 お母さんとも、よく話をした。


 優しい人だったけれど、お母さんは本当は入院を勧められているらしい。


 でも、女の子の預け先がないから、ここに逃げてきたと話してくれた。


「この子ね、プリンセスの服を着てないと落ち着かないの」


 そう言ったときの表情が、

 とても悲しそうで、忘れられない。


 その子はまだ4歳なのに、すでに心を病んでいた。


 プリンセスの服が、この子にとっての鎧だった。


 幼稚園には着ていけないだろうし、

 この子にこんな傷を残した旦那を、

 本気で懲らしめてやりたいと思った。






 そんな中で、ふと気づいたことがある。


 DV保護施設は、

 居心地が悪い場所のはずなのに、

 不思議と、とても居心地がよかった。




 みんな、よく会話はする。

 でも、多くを語らない。


 私も聞かない。

 誰も、深く踏み込まない。


 きっとみんな、

 思い出したくない過去を抱えていたから。


 私も、聞かれたくなかった。


 仲が良く見えても、

 みんな仮面を被ったままだった。


 きっと私より、

 もっと重くて、外せない仮面をつけていた。


 でも、ここには

 土足で心に踏み込んでくる人がいなかった。


 日常に戻れば、根掘り葉掘り聞いてくる人がいる。


 善意の顔をして、傷に触れてくる人がいる。


 けれど、ここにはいなかった。


 だからこそ

 社会に戻ることが、少し怖くなってしまった。




 日常に戻ったら、きっと言われる。




「なんで休んでたの?」

「どこか悪いの?」

「大丈夫?」




 そんな言葉。


 心配しているふりをしながら、


 本当はただ、人の不幸話を聞きたいだけの声。


 上辺だけの優しさ。


 上司には事情を伝えていたけれど、

 社内の誰が、どこまで知っているのかも分からなかった。


 どこで、何を、噂されているのか。

 考えるだけで、息が詰まった。


 そんな場所に、

 とてもじゃないけれど、戻れる気がしなかった。




 DV保護施設。


 最初は怖い場所だと思っていた。


 でも本当は、あそこがいちばん安全だった。


 職員さんたちは、心の話をちゃんと聞いてくれて、

 何も無理に聞き出そうとしなかった。


 守ってくれる人が、ちゃんといた。


 ここには、土足で踏み込んでくる人がいなかった。


 怒鳴り込んでくるDV加害者の男の人もいたらしい。

 それでも、職員さんたちは私たちを守ってくれる。


 でも

 そこを一歩でも出てしまったら、

 もう誰も守ってくれない。



 外の世界は、

 優しい顔をしたまま、平気で人を傷つける。


 私はまだ、

 そこへ戻る勇気がなかった。


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