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仮面を被ったまま生きていた部屋 三話目

【短編】「笑う事を許されなかった部屋」の続編です。


仮面を被って過ごしていたあの日々。


その裏側で、同時に進んでいた現実とは——


私は、もう一つの地獄を生きていた。


第7章 静かなサイン



祖母の死を過ぎたあとも、

日常は何事もなかったかのように進んでいった。



母も、少しずつ元気を取り戻していった。


私の心は、立ち止まったままだったけれど、

時間は、立ち止まることを許してくれなかった。


時間を支配されていた私にとって、祖母に会いに行く時間だけは、唯一、許されていた時間だった。


決して、その許された時間がなくなったから悲しかったわけじゃない。


祖父を亡くした祖母が、まるで後を追うように、この世を去ってしまったことで、


私の心には、二重に穴が空いてしまったのだ。




祖母を失ってから、

私は、ふと思い出すことがあった。


わたしは、昔から死について敏感だった。



小学生の頃、海外で

ちょっとした治療を受けた先生が、

その日のうちに医療ミスで亡くなったという話を聞いた。


その先生は、新婚で、仲睦まじい奥様がいた。


通院し、治療を受けただけで、愛していた人を、突然失うことになる。


先週まで学校にいた先生が、もういない。


動かない姿になっていたことが、

ただショックで、怖かった。


私は強い衝撃を受けた。


先週、話をしたばかりの人が突然いなくなる。

そんなことが、どうしても理解できなかった。


海外だったからなのか、私たちの小学校では、

先生とのお別れ会が行われた。


愛していた人を急に失った奥さんは、どんな気分だったのだろう。


奥さんは、泣いていなかった。

子どもたちの前で泣いてはいけないと思ったのか。


それとも、喪失感が大きすぎて、

涙さえ出なかったのか。


今になって、そんなことを思う。





お別れ会の最中、

突然、教室の電気がカチカチと点滅した。


「え?」


「揺れてる」


ろうそくの火が大きく揺れ、

そこにいた全員が、ざわざわと息をのんだ。



これが心霊映画だったら、

怖かったのかもしれない。



でも私には、

もう話すことのできない先生が、

私たちに何かのサインを送ってくれたように感じられて、不思議と嬉しかった。



祖母の死を経験したあと、ふと、あの先生のことを思い出した。



あの奥さんは、

今、どんなふうに生きているのだろう。

どんな日常を、過ごしているのだろうか。



一緒に笑い合い、

仲良く帰るはずだった日本。



まさかその帰り道が、愛する夫と


「話すこともできない別れ」

になるなんて、奥さんは想像もしなかっただろう。


あの奥さんは、今、笑えているのだろうか。

幸せに暮らせているのだろうか。

そんなことを、私は考えていた。


悲しみを抱えている人がいても、それでも時間は進み、生きている人間の現実は、容赦なく続いていく。


静かなサインだけを、見過ごしたまま。


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