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仮面を被ったまま生きていた部屋  作者: 巳ノ星 壱果


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18話 狭い世界の住人たち

 第21章 狭い世界の住人たち


 男女比は、女性が八割、男性が二割くらいの職場だった。当然、女性の立場が強くなるようだった。


 工場の仕分け作業の仕事を、七時間勤務のパートですることにした。


 カートを押して、指示された商品をピッキングするだけ。

 最低賃金の単純作業だった。


 昼休みの鐘が鳴ると、二階に上がり、休憩室で弁当を食べる。


 最初は、みんな優しく声をかけてくれた。



「若いねー。何歳なの?」



 でも、人と関わるにはまだ早すぎた。


 ときどき仮面を被りながら会話をする。




 とても狭い世界で広がる派閥。

 みんな同じ時給で働くパートだった。


 年齢的に敬語は使ったけれど、この狭い工場に年功序列なんてないと思った。


 それでも、長く働いている人に従うのが、この職場の暗黙のルールのようだった。  



「○○さんは部長と不倫してるんだよ」



 そんな、くだらないどうでもいい話ばかりだった。


 とりあえず相槌だけは打った。

 そんな会話を聞いている一分一秒が無駄に思えた。


 笑えないのに、笑ったふりをする。


 笑うなと制限されていた私は、

 家に帰って鏡の前で作り笑顔の練習もした。


 どれが正解の笑顔なのか、わからなくなってしまった。


「笑うと気持ち悪い」


 元カレに言われた、その一言がずっと頭から離れなかった。


 私は、笑顔と一緒に感情までも失っていたのかもしれないと気づいた。



 後から知ったことだった。


 後輩は実は既婚者だったらしい。

 別居中だったが、工場には年上の彼女がいた。


 ある日突然、その彼女から嫌がらせを受けるようになった。


 一人がそうすると、周りも顔色をうかがい、彼女の肩を持った。


 新入りで、当時まだ若かった私は、

 その彼女にとって邪魔な存在だったのだろう。


 後輩のことは、仲も良かったし嫌いじゃなかった。

 妻がいる立場で彼女を作る後輩も、どうかと思った。


 でも戸籍上既婚者の彼は、奥様の旦那でしかない。

 そして工場の自称彼女も、私には関係のない存在だった。


 後輩に恋愛感情はなかった。

 ただ仲が良かった。それだけだった。


 仕事中は、ただ商品と向き合う。


 休憩時間は、車の中で一人で弁当を食べることにした。


 くだらない、真実かどうかも分からない噂話を聞く時間ほど、無駄なものはないと思ったからだ。

 


「好きに言えばいい。どうせ皆、狭い世界で生きている他人なんだから」



 そう強く思った。


 もう、何も言われたくなかった。

 商品は話しかけてこない。

 無駄な陰口も言わない。


 だから私は、ただ商品だけを見つめていた。



 こんなに狭い工場で、妬まれるくらいなら、

 一人で過ごすほうが楽だった。


 そして前職が、どれだけ恵まれた職場だったのか思い知らされた。


 苦手な人にも、社会人としての礼儀だけは守った。


「おはようございます」

「お疲れ様でした。お先に失礼します」


 無視されることも多かった。

 派閥の人も、一人になると話しかけてくる。


 ここにいる人間は、本当はみんな私より弱かった。


「わたしだけは本当は壱果ちゃんの味方だよ」


 そんな風に思われたいのだろうか。


 そんな上っ面の関係なんて、私には必要なかった。


 ここは、私にとって、空白の期間を埋めるための

 社会復帰のリハビリの場所に過ぎなかった。


 人からの評価なんてどうでもよかった。


 私はただ、外の世界に戻る練習をしているだけだった。


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