17話 消しても消えなかった居場所
第20章 消しても消えなかった居場所
菜摘が引きこもりになったと聞いてから、何日経っただろうか?両親は何も言わなかった。
でも、私は社会に戻らなければいけないと思った。
菜摘のことは、心の底から尊敬していた。
遊びもせず、ずっと勉強を続けていた子だった。
すべてを投げ出すように生きていた私は、このままではいけないと思った。
菜摘の代わりになれるわけじゃない。
でも、あれだけ勉強をして努力してきた人が止まってしまったのなら、何もしてこなかった私は、動かなければいけない気がした。
私は仮面を外して、外に出る決意をした。
車で五分の場所にある工場。
仕分け作業のパートだった。
誰でも受かる会社。
そんな場所にしか応募する勇気がなかった。
簡単な面接をして、勤務時間を伝えると、その場で内定が決まった。
工場には200人ほどの人が働いていた。
二十代から六十代まで、いろいろな人がいた。
単純な流れ作業。
黙々と商品をピッキングする。
ある日、突然声をかけられた。
「壱果先輩じゃないですか?」
私は思わず、ビクッとした。
携帯電話のデータをすべて消した私にとって、
誰かに見つかってしまった、と思った。
恐る恐る振り返ると、
そこには一歳下の後輩がいた。
「やっぱり壱果先輩ですよね?」
その子は、親友の元カレだった。
可愛らしい、優しい男の子だった。
私は心の底から思った。
声をかけてくれたのが、親友の元カレでよかった、と。
中学の頃、何度か一緒に遊んだことがある。
だから、少しだけ気心が知れていた。
久しぶりに人と交換する連絡先。
その瞬間
「ああ、私にもまだ居場所があったんだ」
そう思えた。
久しぶりに人前で笑えた事が嬉しかった。
親友の元カレに、恋愛感情などもちろん湧かなかった。
だからこそ、気楽だった。
よく連絡を取り、職場で会えば、軽い世間話をした。
久しぶりに、普通の会話をしている自分がいた。
でも、そのときの私は、まだ知らなかった。
ここからまた、地獄が始まることを。




